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2019年高校野球10大ニュース【2】4月/東邦、平成最後のセンバツも優勝!

楊順行スポーツライター
5試合40回を投げて防御率0.90と、投打でセンバツ優勝に貢献した石川昂弥(写真:アフロ)

 それは、新元号・令和が発表された翌々日だった。4月3日、第91回選抜高校野球大会決勝。千葉勢初の大会制覇を狙う習志野と、歴代トップ・5回目の優勝がかかる東邦(愛知)との一戦は、東邦・石川昂弥が投げては二塁さえ踏ませない3安打完封、打っては2ラン2発という大ヒーローとなり、6対0で東邦が頂点に立った。

 それにしても、できすぎだ。1989年春、平成最初の甲子園で優勝した東邦が、平成最後のセンバツも優勝で締めるのだから。

 1回戦は富岡西(徳島)に3対1。2回戦、12対2広陵(広島)。準々決勝、7対2筑陽学園(福岡)。準決勝、4対2明石商(兵庫)……。5試合で1イニングもリードを許すことなく、スコアが並んだのも富岡西戦の6回に1対1の同点になっただけ。それも7回裏の攻撃ですぐに突き放しているから、横綱相撲といっていい。

 森田泰弘監督も選手も大会前から、「平成最後も、優勝で締めくくる」と口をそろえていたが、実は「正直、優勝できるとは思っていませんでした」と石川は打ち明ける。ただ、2回戦で広陵の好投手・河野佳をKOし、「"ひょっとしたら……"と手応えがありました」。

古豪が平成の最初と最後を締めくくった

 決勝は石川の一人舞台だったが、むろん石川だけじゃない。熊田任洋、長屋陸渡、河合佑真らは打率4割超と石川をしのぎ、筑陽学園との準々決勝は下位打線も活発で13安打7得点だ。筑陽・江口祐司監督も、「スイングの強さがワンランク上。だから、詰まった当たりでも内野の頭を越えるんですね」とお手上げの破壊力。18年12月、森田監督はチームを離れた。腎移植という、大手術のためだ。その間、「監督が帰ってきたときに"うまくなったな"といわれるように」と、とくに強化したのが打撃だ。実際、3月に復帰した森田監督は、「スイングが強くなり、飛距離も伸びたと感じました」と目を丸くしている。

 守備もよく鍛えられていた。5試合での失策2は4強のうち最少だし、習志野との決勝では、河合の故障でライトを守った坂上大誠も含め、絶妙なポジショニングでヒット性の当たりをたやすく処理している。盗塁は広陵戦の7をはじめ、合計11で32校中トップ。走・攻・守ともに高水準で、習志野・小林徹監督が「すべてにおいて一枚も二枚も上でした」と脱帽したのもわかる。

 大会途中には、なかなかおもしろい話をカメラマンから聞いた。「石川君、5回終了時のグラウンド整備中に、キャッチボールしながら『今ありて』を歌っていますよ」。緊迫の試合中、場内に流れる大会歌を口ずさむのが、カメラマン席からでもわかるのだという。本人にそのことを確かめようとしたのだが、注目選手とあってつねに報道陣に囲まれている。で、女房役の成沢巧馬捕手に確認してみた。

「ああ……そういえば歌っていたかな。グラウンド整備の時間が、ちょうどいいリラックスになっていると思いますよ。キャプテンシーもあり、フレンドリーでおもしろいヤツ。楽しくやっているから、アドレナリンが出るんでしょう」

 優勝してフィールドをあとにするとき。スタンドから「平成最後のスーパースター」と声をかけられた石川は、

「森田監督からは"お前が一人で投げて抑えて、打って勝て"といわれていましたが、今日は完封よりホームランのほうがうれしいですね。入学したときは、ピッチャーをやるなんて考えていませんでしたから」

 付け加えれば……優勝を決めた翌4月4日は、腎移植から復帰した森田監督の、60回目の誕生日だった。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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