2018 高校野球10大ニュース その3 カナノウ旋風、さわやかに

夏の甲子園で準優勝を飾った金足農(写真:岡沢克郎/アフロ)

 第100回全国高等学校野球選手権大会、決勝。もし金足農(秋田)が大阪桐蔭に勝てば、秋田勢どころか東北初の優勝で、第1回大会で秋田中(現秋田)が準優勝している秋田にとって、100回の記念大会で103年ぶりに頂点に挑戦という歴史の巡り合わせだ。

劇的3ランを生んだ"耳打ち"

 それにしてもカナノウ旋風、勢いが止まらなかった。

「初球、ボールでもいいからフルスイングしろよ」

 横浜(南神奈川)との3回戦、2対4と2点を追う8回裏の攻撃だ。連打の無死一、二塁から、大友朝陽が送りバントを失敗してイヤなムード。副主将の菅原天空は、自らの判断でタイムを要求し、次打者の高橋佑輔に耳打ちしたのだ、「フルスイング」と。吉田輝星に劣らないハンサムボーイの菅原天は、その意図を打ち明ける。

「バント失敗で、相手に流れが行きかけた場面です。次の1球で、本当に流れが変わると思ったので」

 意図は伝わった。打席の高橋は、横浜・板川佳矢の変化球が浮いてくると、素直にバットを出した。フルスイングから放たれた打球は、フォローの風にも乗って伸び、バックスクリーンへ飛び込む。劇的な、劇的すぎる逆転3ランだ。

「入学以来2本目。センターフライだと思いました」

 と高橋の頭は真っ白だが、優勝候補の横浜を土俵際でうっちゃる大技だった。そして9回は、一人で投げ抜いてきた大黒柱・吉田輝星が、「高橋の気合いがうれしかった」と、この夏の70イニング目を三者三振で締めて5対4。横浜・平田徹監督が試合後、「まさか……まだ気持ちの整理がつきません」とうめくほどの、大きな金星だった。

 このカナノウ旋風、むろんエース・吉田の投球なしには語れない。ピンチになるほどギアを上げるストレートは規格外で、たとえば1回戦で敗れた鹿児島実の西竜我は、顔を通るようなまっすぐを三振し、「ストライクだ、と打ちにいったのに、ボールが伸びてきて結果的に高めを空振りしてしまう」。横浜戦で、高橋に"殊勲"の耳打ちをした菅原天によると、「野球を知らない人は、"なんであんなクソボールを?"と思うでしょうが、吉田のボールは、手を離れた瞬間はベルトあたりの軌道に見える。だから振りにいくんですが実際は、顔のあたりにくる。低めも、くるぶしぐらいの低め、と見逃す球が、ひざ元の絶妙の高さになるんです」。

 高橋の言葉がいい。

「最初は別の学校に行くつもりでした。でも、吉田がカナノウに進むというでしょう。もし対戦して、あのボールが当たったら死ぬじゃないですか。だから自分もカナノウに進んだんです」。

 まあ吉田については、語り尽くされた感があるのでこのくらいにしておく。

サヨナラ2ラン・スクイズの興奮

 衝撃的だったのは、近江(滋賀)との準々決勝だろう。1対2と1点リードされて迎えた9回裏、金足農の攻撃は無死満塁と絶好のチャンスだ。九番・斎藤璃久の打席で、仕掛けたのはスクイズ。まずは同点狙いか……と思いきや、送球が三→一→捕と渡る間に、三走の高橋佑輔ばかりか、二塁走者の菊地彪吾も50メートル6秒の足を飛ばして逆転のホームに頭から滑り込む。セーフ。いわゆるツーラン・スクイズでのサヨナラ勝ちに、金足農・中泉一豊監督も興奮気味だ。

「血が沸いたというか、興奮しましたね。まずは1点を取って同点にしたかった」からスクイズのサインを出したが、「まさか菊地彪まで還ってくるとは」、ベンチの監督自身も気づかなかった。ただ、「菊地彪は、チームで一番足が速い。内野手がどこでバントを捕ったかを見て走ったと思う。ナイス判断です」。

 これで金足農は、初出場だった1984年夏以来のベスト4進出を決めた。"農"の字のつくチームが4強に進むのはそのとき以来で、さらに日大三(西東京)との準決勝も吉田の好投で制したから、31年の嘉義農林(台湾)以来、"農"のつく高校としては87年ぶりに決勝の舞台に立ったことになる。

 その決勝では大阪桐蔭に大敗し、東北勢はまたも大旗を逃したが、それはまあ、いい。投手複数制が浸透するなか、6試合で881球を投げた吉田、バントを多用して着実に走者を進める攻撃、そして秋田大会から貫いた、控え選手を使わない9人野球……。平成最後の夏に、金足農はまるで昭和の時代に戻ったような戦いで旋風を起こし、頂点にあと一歩と迫ったのだ。