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センバツ開幕は聖光学院が勝利! ささやかな夢・ビールを飲みながらのテレビ観戦記

楊順行スポーツライター
ビールとテレビとスコアブック(撮影/筆者)

 今日付けの毎日新聞によると、「球春」という言葉は、野球シーズン到来の喜びを分かち合う意味で、戦前の同紙ですでに使われており、今年1月に発行された広辞苑第7版にも掲載されたという。「春はセンバツから」というコピーも同紙の発案。桜の便りが例年より早いこの春、センバツが今日から始まった。

 ワタクシゴトで恐縮だが、過去通算52回、春夏の甲子園を取材している。会期途中で1、2日の中抜けはあったとしても、原則的にすべての試合を見ているから、まあ観戦は2000試合を越えただろう。ただ今大会は、諸般の事情があって4日目からの出陣。開会式を見られないのは2005年の春以来2回目だ。05年は雨にたたられた初日、史上初めて、開会式のみで試合はなし。その開会式もグラウンドコンディションに配慮し、全チームがアップシューズでの入場だった(確かセンバツの開会式は、これ以後アップシューズになったのでは……)。ちなみに、優勝は愛工大名電(愛知)。覚えていますか?

高校野球withビールの愉悦

 スケジュールの都合で、たまたま仕事場にいるこの機会に、ひとつ、やってみたいことがあった。それは、ビールを飲みながら、高校野球をテレビ観戦すること。ふだんは甲子園の記者席にいるのだから、もちろんアルコールなどとんでもない。だが今日は、一ファンという立場。で、朝からスコアブックとガイドブックを開き、満を持してテレビの前に陣取ったわけである。ビール込みの高校野球観戦なんて、取材に行かなかった1996年春以来の"快挙"だ。平日の昼間で、やや後ろめたさもあるが、まあ個人的プレ金だとお許しください。

 まず、開会式。甲子園のある西宮市の気温は、その時点で6度くらいだったようだが、とにかく寒い日が多いのがセンバツの取材。春とはいっても、ときにみぞれが混じる日すらあるのだ。そんな日には、携帯カイロの売り子が出たこともあった。陽光が当たる観客席はともかく、銀傘の下にある記者席はつねに日陰で、ことに気温が低い日は足もとから寒さが伝わってくる。だから取材には、丈の長いベンチコートが必需品。初めての取材という後輩には「とにかく、寒いからね」と念を押すのだが、なぜかタカをくくり、軽めのブルゾンくらいでやってきては、決まってガチガチ震えている。

 それにしても、テレビはいいですね。当たり前だが、行進する選手一人一人の顔がわかる。見知った顔も手に取るようだ。昨日NHKが放送していたセンバツ特番では、アップになった投手の雄叫びの声や表情までが鮮明だったが、記者席からはのべつ双眼鏡で見ない限りは、まるでわからないのだ。かつて斎藤佑樹が「ハンカチ王子」と騒がれたときも、たまたまニュースで目にして初めて、青いハンカチを使っているのがわかったくらい。

かつてはガムをかんで開会式に臨んだ投手も……

 さあ、東筑(福岡)と聖光学院(福島)の開幕戦だ。おっ、NHKの実況は知人。そうか、テレビ観戦だと知人の実況ぶりを聞いたりもできるのか。そういえば聖光学院の控え選手にも、知人の息子がいる。長いこと取材していると、だんだん知人も増えてくるのだ。試合は、いきなり活発な打ち合い。ファーストストライクを積極的に振っていく姿が目立つ。かつて、80年代の開幕戦で投げたことのある投手から「緊張するのがわかっていたので、開会式から内緒でガムをかんでいた」と聞いたことがあるが、最近の高校生は場数を踏んでいるからか、地に足がついている。

 テレビ観戦は新鮮だ。ピッチャーの球種も、微妙なコース、高低もわかる。現場では見えにくいはずの微妙なプレーも、リプレイしてくれる。聖光学院の右打者が、東筑・石田旭昇のツーシーム対策として、投げた瞬間に三塁方向に下がるのもよくわかる。ただテレビ観戦の弱点は、守備位置がわかりにくいことですね。たとえば無死満塁で、内野は前進守備か中間か。あるいは情報戦の盛んな昨今、極端な外野手のシフトもよく見かける。実況でもそれはときおり伝えてくれるのだが、目の前で見るのがわかりやすい。音や空気といった臨場感も、やはり生で見るほうがいい。

 それなら取材の現場でも、中継を横目で見ながら観戦すればいいじゃないか……とも思うのだが、そこはそれ、ライブ会場にいながらイヤホンをするのは野暮だろう。結局試合は、序盤の点の取り合いから中盤はガマン比べ。だが聖光が9回、東筑の守備の乱れもあり2点を勝ち越し。「8回、エンドラン失敗もあったので、9回は1死からでも送ろうと思っていました」と聖光・斎藤智也監督がいう1時間58分のナイスゲームは、5対3で聖光が2回戦進出を決めた。福島県勢は、13年の聖光以来5年ぶりのセンバツ勝利。次戦では、優勝候補の一角・東海大相模(神奈川)と対戦する。

 さて、原稿も書いたし、第2試合以降はゆっくりとビールを飲もうかな。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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