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注目! ドラフト/4 気になるあの選手 北村祥治(トヨタ自動車)

楊順行スポーツライター
日本選手権、トヨタ自動車の初戦は11月6日(対日本製紙石巻)(ペイレスイメージズ/アフロ)

「あ、決まったな、と思ったんです」

 前回、今年の都市対抗開幕戦で、藤岡裕大がサヨナラ満塁ホームランを放ったことについてふれた。亜細亜大時代からおもに一、二番を組み、藤岡の打席を次打者席で何十回も見てきた北村は、「ボールカウントが3-1になった時点で」勝利を確信したという。

「12回裏のタイブレークでしょう。相手(三菱自動車九州)は1点も許されませんから、当然前進守備です。藤岡なら、野手の間を抜けると思ったら多少ボールでも振るだろうし、もしボールを振らなければ押し出し。いずれにしても勝ちは決まったな、と」

 試合の流れを見分ける感性が、飛び抜けていると思う。試合中、まるで第三者のように試合を俯瞰できるのだ。ほかにもたとえば、優勝した昨年の都市対抗。西濃運輸との準決勝、6回は1死二、三塁のピンチだ。3対0とリードしながら、打席には老練な阪本一成で、試合の行方はまだ、わからない。

「そこでリリーフした竹内(大助)さんが、後続を連続三振で打ち取るんです。あそこがすべてでした。あれで流れがこちらにきて、準決勝だけではなく決勝も"いけるぞ"という雰囲気になったと自分では思います。まるで傍観者、ファンのような目線で、野球っておもしろいと感じていました」

 亜細亜大4年時、キャプテンとして明治神宮大会優勝を支えたのは、そういう感性だ。その4年時には藤岡同様、15年ドラフトで指名もれしたが、なにぶん東都リーグの真っ最中。キャプテンらしく、「ドラフトのことは多少頭にありましたが、自分のことよりもまずチームが勝つことが先決でした」と振り返る。

日本代表として存在をアピール

 トヨタでの1年目は、大学で守っていたショートに源田壮亮(現西武)がいたため三塁に回った。「慣れているショートとは景色も、打球の質も違う」ことに戸惑ったが、オープン戦で数多くの打球を処理するうち、ストレスはなくなった。

「それと打席でも、野球を始めたころのように新鮮な感覚になれたんです。ボールに逆らわず、素直なスイングができていた」

 その結果が、JABA岡山大会での優秀選手獲得であり、都市対抗2次予選での5割近い打率だ。都市対抗本番では、「3点を取り2点以内に抑える」野球を目ざすトヨタにあり、二番としてつなぎ役に徹して優勝に貢献。今季は藤岡と三遊間を組みつつ、「オフにしっかり走り込んで、下半身で振るよう打撃を強化」し、二番だけではなく、三番を打つケースもあった。

「その分、去年よりもバントは少ない。なにしろ去年は、前を打つ藤岡がよく塁に出ましたから(笑)。打ちたい気持ちは強いんですよ。ただ、バッティングで僕が目立つのはそれほどいいことじゃない。チームが苦しいということじゃないですか」

 と話すが、開催中のBFAアジア選手権・韓国戦では、追加点を呼ぶ貴重なタイムリーを放っている。

「そう、日本代表に選ばれたのは今季のビッグニュースですね」

 と北村はいう。 

「ただ、ドラフトについてはやっぱり傍観者。誰が指名されるのか楽しみで、他人事のように感じています。それよりもいまは、日本選手権(11月2日〜)のことで頭がいっぱい。NTT東日本との対戦が楽しみなんです。都市対抗のように、もしかするとプロよりも多くのお客さんが入り、負ければ終わりのしびれる試合ができるのは、社会人ならではの魅力ですね」

 都市対抗では、優勝したNTT東日本と2回戦で当たり、敗れた。昨季は二大大会で2勝しており、借りを返された格好だ。組み合わせが決まった日本選手権では、お互いに勝ち進めば準決勝で対戦することになる。

 プレーに決して派手さはない。だが堅実さや、各年代で主将を務めた野球IQの高さ、そして数字には表れない貢献度で、北村の存在感は決して小さくない。たとえていうなら、プリンスホテルからヤクルト入りした当時の宮本慎也、か。日本選手権開催時、すでにドラフトは終わっているが、そのころの北村が果たして、傍観者のままでいられるだろうか。

きたむら・しょうじ/1994.1.23生まれ/石川県出身/177cm81kg/内野手/右投右打/星稜高→亜細亜大→トヨタ自動車

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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