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独断で選ぶ、第1回女子新語・流行語大賞 ~今年の女子ワードは?~

米澤泉甲南女子大学教授
筋肉女子。引き締まったお腹、二の腕。筋肉こそ最高のアクセサリーだ。写真:アフロ

 今年も残すところ十日あまりとなった。新語・流行語大賞に、今年の漢字と振り返りイベントも一段落ついたところで、気になるのが「そだねー」と「災」で今年を終わらせてもいいのかということである。世の中には、女子目線の振り返りがないではないか。あるとしてもせいぜい美容雑誌の「ベストコスメ」ぐらいである。これはこれで、コスメオタクすぎて世相を反映しているとは言いがたい。

 そこで、今年最後の「女子学ダイアリー」では、女子的に2018年を振り返ってみることにした。題して「独断で選ぶ、第1回女子新語・流行語大賞」である。

今年女子的に世間を騒がせた新語・流行語は何か。

 まずは新語からいってみよう。「ラグジュアリー家電」、このインパクトある組み合わせは、『25ans』2018年5月号に初めて登場した。「最新&おしゃれなラグジュアリー家電」と題して、ダイソンのドライヤーやバルミューダのトースターに代表される機能性だけでなく、デザイン性、ファッション性にも優れたラグジュアリー家電が特集されたのだ。極めつけはドルチェ&ガッバーナの冷蔵庫だろう。

 ナノイオンスチーマー、美顔器、高級ドライヤーなどの美容家電は数年前から盛り上がりを見せているが、ここにきて、よりライフスタイルに即したラグジュアリー家電が注目を浴びた一年だった。『anan』でも朝ごはんをはじめとする朝ライフを豊かにする「かわいくて高機能な朝家電」が紹介されるなど(『anan』2018年3月21日号)、最新のライフスタイルには「ラグジュアリー家電」が欠かせない。

 生活を便利にするだけでなく、豊かさと心地よさ、そして新しいライフスタイルを提案する「ラグジュアリー家電」は女子のあいだにすっかり定着した「ていねいなくらし」の必須アイテムなのである。

 続いて、本家流行語大賞にもノミネートされた「筋肉は裏切らない」の女子バージョン「筋肉女子」を挙げなければならないだろう。今年ほど「筋肉」、それも女子の「筋肉」が話題になった年はなかったのではないか。モデルの中村アンやクロスフィットトレーナーのAYAに代表される筋肉女子、腹筋女子は今や女子の憧れである。腹筋が割れているお腹、引き締まった二の腕や太もも、細いだけでなく力強さを感じさせる脚。従来の女らしい「ナイスバディ」とは異なる「筋肉ボディ」は女子を魅了してやまない。ブランドバッグや豪華な宝石よりも健康的で意志的なボディ。ついに「筋肉こそ最高のアクセサリー」の時代がやってきたのだ。

 だが、「筋肉女子」は思い立ってすぐになれるわけではない。食生活に気を配りワークアウトをこなす、ストイックで意識の高い生活が要求される。「筋肉女子は一日にしてならず」である。しかしながら、努力すれば必ず手に入るのが、筋肉というアクセサリーなのだ。自分の努力の成果の分だけ筋肉はご褒美についてくる。そう、まさに「筋肉は裏切らない」のである。

 では、「筋肉女子」たちは、鍛えあげた筋肉ボディに何を纏うのか。一昔前ならばそのボディをひたすらコンシャスする方向に向かっただろうが、今は「自然体」、頑張りすぎることが敬遠される時代である。抜け感、こなれ感が必須の「ゆるコーデ」が流行するなか、ぴったりとしたボディコン、身体の線を強調するファッションは最もファッショナブルでないと考えられている。

 そんな「ゆるコーデ」が席巻する今年、注目されたファッション用語が「ふわもこ」である。「ふわもこ」とは、文字通りふわふわもこもこした素材を身につけるファッションであるが、とりわけ今年の「ふわもこ」ファッションはボアフリースに代表される新素材が注目されているのが特徴的である。

 「ふわもこ」だからといって、毛皮やモヘアを着るのではなく、ユニクロのボアフリースのようなポリエステル100%の毛足が長く起毛タイプの「ふわもこ」が主流となっている。

 「ふわもこ」ファッションを身につけることは、動物愛護や環境や社会に対する配慮、意識の高さも同時に纏うことに繋がる。もう毛皮を着て、ラグジュアリーさをアピールする時代は完全に過去のものだ。シャネル、グッチ、ジバンシイといったハイブランドも次々とリアルファーを使用することを取りやめ、クオリティの高い新素材の「毛皮」を積極的に登場させている。

 かつては、人工的に作られた毛皮はフェイクファーと呼ばれ、格下に見られていた。しかし、現在フェイクファーという言葉は死語になりつつある。代わって今年一気にポピュラーになったのが「エコファー」という言葉だ。

 動物由来の素材を使わず、環境に配慮した素材を使用するエコファー。本当にエコなのかどうかは、各ファッションブランドの姿勢にもよるだろうし、そのレベルもまちまちだろう。

 しかし「エコファー」という言葉の登場によって、フェイクファーにまとわりついていた「偽物」というイメージが完全に払拭されたのは間違いない。本当は毛皮が欲しいけれどフェイクファーで我慢する。かつてのそれは、消極的選択として手に入れるものだった。しかし、現在のエコファーはむしろ積極的に手に入れるものへと変化した。エコファーが欲しい、エコファーがオシャレ、エコファーこそマストアイテムとなりつつある。むしろ、エコファーが今選ばれるべき正解になったのだ。新しいラグジュアリーを体現しているエコファーを身につけることは、良識ある意識の高い私を表わす記号なのだから。今後、リアルファーはますます分が悪くなっていくに違いない。 

ていねいなくらしを反映

 「ラグジュアリー家電」「筋肉女子」「ふわもこ」「エコファー」。このように、今年の女子的新語・流行語を並べてみると、健康的で、自然体でありながら、かつ環境にも配慮するライフスタイル、「ていねいなくらし」を実践している女子の姿が見えてくる。

 そんな女子の将来の姿を予見しているのが、今年いろんな意味で話題となり、議論をも起こした「グレイヘア」である。もともとはファッショナブルな白髪ヘアの高齢女性の写真集から広がったグレイヘアだが、今年はまだアラフィフなのに颯爽とグレイヘアを実践する近藤サトが現れたことで、一気に火がついた。

 美魔女のように白髪を一本たりとも許さず、染めぬくのか。それとも「ナチュラル」なグレイヘアを目指すのか。黒か白か、それが問題だ。グレイヘア問題は身だしなみやおしゃれの範疇を超え、生き方の選択にまで発展している。

 ただ、グレイヘアはただの白髪ではない。ありのままの白髪をグレイヘアとは呼ばない。美しいグレイヘアになるためには、黒髪以上のメンテナンスが必要である。こまめにカットし、手入れをして艶を保たなければならない。決して自然体に任せていてはいけないのだ。

 そこが男性の白髪との決定的な違いである。放っておいてもロマンスグレーと呼ばれる男性とは違い、グレイヘアもまた「自然美」へのたゆまぬ努力が求められるのだ。それは、エフォートレスに見せるためにエフォートするのと何ら変わりはない。白髪になってもやはり女子は大変なのである。いくつになっても「映(ば)え」なければならない宿命なのか。

 というわけで、栄えある(映えある?)第1回女子的新語・流行語大賞は、「グレイヘア」に贈りたい。女子の誰もが避けて通れない「グレイヘア」問題は、来年も注目のトピックとなるだろう。そして、「ていねいなくらし」に明け暮れた女子界は今後どうなっていくのか。来年も現役女子大生とともに引き続き、盤石の体制で見守っていくつもりである。

 それではみなさま、よいお年を!

甲南女子大学教授

1970年京都生まれ、京都在住。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。扱うテーマは、コスメ、ブランド、雑誌からライフスタイル全般まで幅広い。著書は『おしゃれ嫌いー私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『筋肉女子』など多数。

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