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「去年の服、何か違う→毎年買い足す」問題 繰り返さないために気をつけることとは

米澤泉甲南女子大学教授
クローゼットにはたくさんの服があるのに着る服がない!(写真:アフロ)

どうするか? 着る服がない問題

 「きょ年の服では、恋もできない。」と言ったのは、安室奈美恵さんの結婚会見で有名になったバーバリー・ブルーレーベルの広告だった。時代は、1990年代後半。当時は今に比べてシーズンごとの流行がはっきりしていた。したがって、季節が変われば新しい服を手に入れなければならないという強迫観念が現在よりも強かった。

 あれから20年以上の時が経ち、ファッションはよりシンプルにベーシックになった。誰もが追いかけるような目立った流行もない。むしろ今では「流行がないことが流行」と言われるほどだ。暮らしに根ざしたLifeWearが提唱され、機能的でロジカルなおしゃれがさかんに推奨されている。サステナビリティの観点からも新しい服を買うことがおしゃれではないと言われている。もう、今までの服で十分ではないか。サイズが合わなくなったり、破れたりしない限り、シーズンごとに新しい服を買う必要はないのではないか。

 とはいえ、私たちはいまだに季節が変わる度に着るものに悩まされている。すでにたくさんの服を持っているのに、「着る服がない」状態に毎回陥ってしまうのだ。つい最近もこんなツイートが話題になった。

クローゼットに服は沢山あるんだけど「なんか違う」「ダセェ」「そもそも似合ってねえ」「なんで去年はこれ着て外出れてたんだろう」みたいなのばっかりで結局服を買い足さなければいけなくなってしまう現象、毎年起こる @niconicokyn

 このツイートには12.1万件のいいねが付き、1.6万件のリツイートがあった。それだけ、今も多くの人々が「着る服がない問題」に悩んでいるということだろう。「きょ年の服では、恋もできない。」時代から私たちはあまり進歩していないのである。

 そもそもファッションシステムの成り立ちからして、「去年の服」が古くなるように作られているのだから仕方がないとはいえ、サステナブル・ファッション全盛時代に無駄な服を買わずにすむためにはどうすればいいのだろうか。

毎日同じ服を着てみる

 数年前、一定期間「服を買わないチャレンジ」や「毎日同じ服を着るチャレンジ」が話題になった。ミニマリズムの流行もあり、なるべくものを持たずに暮らしたい、とにかくクローゼットを占拠している大量の服をなんとかしたいという思いが、こういったチャレンジを流行らせたのだろう。とにかく、手持ちの服でなんとかやってみるという作戦である。

 ベストセラーにもなった松尾たいこさんの『クローゼットがはちきれそうなのに着る服がない! そんな私が、1年間洋服を買わないチャレンジをしてわかったこと』(扶桑社)によれば、「今ある服でなんとかする」「洋服以外の工夫でファッションを楽しむ」「自分のスタイルを見直してみる」といったことを繰り返していくうちに、しだいに「ファッション断食」の虜になっていくという。

 「洋服を買わない」という快楽に目覚めると、最終的には1年間服を買わないチャレンジを達成できるのだ。そこから見えてきたのは自分が本当に好きな服であり、心から大好きと言える「自分らしいスタイル」だった。

 しかし、誰もが「ファッション断食」にチャレンジできるわけではない。ダイエットと同じで「食べない」のは最もシンプルな方法だが、目先の欲望に負けないストイックさを要求される。また、「毎日同じ服を着る」のもなかなか勇気がいる。よほど自分を確立しているか、逆にどう思われてもいい、ファッションへの無関心を貫くかだが、こちらも強い意志を求められる。スティーブ・ジョブズ方式でいくのも凡人には難しいのだ。

自分のスタイルを確立するのはなかなか大変だが・・・。
自分のスタイルを確立するのはなかなか大変だが・・・。写真:アフロ

自分のスタイルを確立する

 より現実的なのは、自分のスタイルを何パターンか決めて、若干の新しい服を加えつつ着回していくことだろうが、ここで問題なのが、「自分のスタイル」をどう確立するかである。日本人は中学生、高校生の多感な時期に制服を着用することが一般的になっているので、自分に似合うもの、好きなものを見つける機会を逸する傾向にある。

 大学生や社会人になっていきなりファッションデビューということになり、雑誌やSNSの情報を鵜呑みにしてしまい自分のスタイルがわからなくなっている人も多いだろう。ユニクロが「国民服」的にここまで広がったのも何も考えずに制服代わりにユニクロを求めてしまったためではないか。

 幸いなことに、昨今はパーソナルカラー診断や骨格診断など肌や目の色、体型などに合わせてより、個人的にアドバイスを行うシステムが定着してきた。こういった診断を利用して、自分に似合うものを見つけるのもスタイル確立への近道だろう。

 結局は「自分を知る」ことしかないのである。「この○着で1ヶ月着回す」といったロジカルなおしゃれをいくらマネしたところで、自分に似合わなければ元も子もない。自分に似合うもの、そして自分が好きなもの、身につけると心地よくいられるものを知ることで、シーズンごとにたくさんのアイテムを買い足すことから脱却できるのではないだろうか。

 コロナ禍もあり、人と対面で会う機会も激減するなか、今までのようにあまり好みではない「通勤服」や「社交服」を買う必要はない。数を求めるファストファッションから質を重視するスローファッションへと世の中も移り変わってきている。

 今こそ、自分が本当に好きと思える服を着ればよいのではないだろうか。それが、結果的に無駄な服を買うことの削減につながるのではないだろうか。

甲南女子大学教授

1970年京都生まれ、京都在住。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。扱うテーマは、コスメ、ブランド、雑誌からライフスタイル全般まで幅広い。著書は『おしゃれ嫌いー私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『筋肉女子』など多数。

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