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<ワクチン接種> 自治体の約半数が「年内に終わらず」との見通し=JX通信社 全国自治体独自調査

米重克洋JX通信社 代表取締役
医療従事者への接種進捗率は、JX通信社の試算では19日時点で約25%にとどまる(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

報道ベンチャーのJX通信社では、今年2月から、自分がいつ新型コロナウイルス感染症のワクチンを接種できるかをアプリで簡単に予測できる「AIワクチン接種予測」を提供している。

本プロジェクトは「人口の7割の接種が必要」とされるワクチンの接種機会がスムーズに確保できるかどうかや、スムーズに進まない場合ボトルネックがどこにあるのかを検証することを目的とした、データジャーナリズムのプロジェクトだ。データサイエンスを専門とする米イェール大学の成田悠輔助教授監修のもと、共同で進めている。

このプロジェクトに伴い、JX通信社では今月8日から20日までの間、全国の基礎自治体を対象とした独自のアンケート調査を行い、570の自治体から回答を得た。同様の調査は前回今年2月上旬にも実施しており、全国の自治体を対象としたものとしては2度目となる。

今回の調査で、ワクチン接種のオペレーションが越年すると見込む自治体は約半数に上るなど、接種全体の進捗の遅れと、その要因が見えてきた。

高齢者向け接種「5月上旬開始」が最多 4月開始は4割に満たず

今月12日から、第1群の医療従事者に次いで優先度の高い、高齢者向けの新型コロナワクチン接種が始まった。しかし、現時点では実際に高齢者向けの接種作業を開始できている自治体は一部にとどまっている。

今回の調査で、全国の自治体に高齢者向けの接種の開始時期について質問したところ、5月上旬に開始するとした自治体が最多だった。具体的な日付を回答した自治体の中では、ゴールデンウィーク明けの5月10日からの開始を予定しているとの答えが最多だった。

実際、19日時点での高齢者向け総接種回数は2万回に満たない。対象となる高齢者は総計で約3000万人とされることから、接種できている高齢者はごくわずかであることが分かる。高齢者より優先度の高い医療従事者についても、19日時点で総接種回数は203万回(2回目の接種も含む)に留まっている。JX通信社の試算では、1度以上接種を受けたことのある医療従事者は19日時点で約25%だ

「6月末」時点での高齢者接種一巡は困難

こうした状況を踏まえてか、国の当初の目論見どおり、今年6月末の時点で高齢者向けの接種が一巡すると見込む自治体はほとんどないことも分かった。

今回の調査で、6月末時点で高齢者へのワクチン接種がどの程度進捗しているかについての見通しを聞いたところ、希望する高齢者全体の「半分程度」と見込む自治体が最も多かった。ついで「分からない」「3割は終えられる」という回答が多かった。

ワクチン接種「年内には終わらず」最多

優先対象ではない一般の人も含めたワクチン接種が一巡する目処についても聞いたところ「年内には終わらない」という自治体が47%に上り、最多だった。次いで多かったのが「12月」の17%だった。

前回2月に行った第1回調査で同じ質問をしたところ、接種が終わる見込み時期については「9月」とした自治体が最多で、年内には終わらないとした自治体は23%だったが、今回の調査結果ではこうした2月時点の見通しから大きく後退し、より悲観的なものになっていることが分かる。

ただ、今回の調査後まもなく、今月17日に菅首相とファイザー社のCEOが電話会談したことを受けて、ワクチン接種を担当する河野太郎行政改革担当大臣が、9月にも「日本国内の対象者全員分」の供給が確保される見通しを明らかにしている。

こうした供給状況の変化の影響が、国から自治体への情報提供に具体的に織り込まれた場合、自治体の見通しも変わる可能性がある

接種作業に当たる医療従事者の調整はなお難航か

ワクチンの供給以外で、接種の進捗に大きく影響しそうなのが、実際の接種業務に当たる医療従事者の調整だ。今回の調査で、自治体に接種に当たる医療従事者の調整状況について聞いたところ「全て決まった」とした自治体は32%にとどまり、「一部決まったが調整中」「全く決まっていない」としたところが合わせて68%に上った

前回2月の調査で同じ質問をした際には、97%が「一部決まったが調整中」もしくは「全く決まっていない」としていたが、2ヶ月経過してもこの割合は3割程度の減少に留まっている。

進捗が懸念されるワクチン接種業務をめぐり、自治体担当者からのコメントが多く寄せられている。それらのうち主なものを要約して以下に紹介したい。

  • ワクチンの供給量やスケジュールがはっきりしないため準備の見通しも立たない
  • 業務に関わる医療従事者への謝金など、体制確保に関する財源の措置が不明瞭
  • ワクチン接種を管理するシステムが、厚生労働省のV-SYS、内閣官房IT戦略室のVRSとそれぞれ別々に構築され、説明会や実際の利用も別々となっているため行政・医療機関ともに非効率
  • 4月12日にあたかも全国で一斉に高齢者接種が始まったかのような、実態が伴わない情報提供は問い合わせ殺到の原因となるためしないでほしい
  • 職員が他業務と並行して準備にあたるため、自治体でのマンパワー不足も深刻
  • 医療従事者の優先接種が遅れているため、高齢者への接種にスムーズに移行できない
  • 副反応をめぐる情報提供について工夫してほしい。マスコミの報道でも、効果についてより伝えてほしい。接種率はマスコミ次第でもある

JX通信社では、今後も継続的にワクチン接種の進捗の可視化や実態調査に取り組んでいく。

AIワクチン接種予測プロジェクト(リンク)

※アプリ(無料)内の予測ページより、生年月日や職業などの情報を入力することで、ご自身の接種時期予測を確認することが可能です。

前回調査についての記事

<新型コロナ>ワクチン接種 4月から高齢者接種「可能」5割台にとどまる = 全国662自治体独自調査(2月15日)

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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