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ルーキー・吉村貢司郎がプロ初勝利!! 東京ヤクルトは連敗を7で止める

横尾弘一野球ジャーナリスト
春季キャンプ地にはためいた吉村貢司郎の幟。今後は、この笑顔が何度も見られそうだ。

 一発が出れば同点という場面を守護神の田口麗斗が三振で切り抜けると、ベンチの吉村貢司郎は安堵の表情を浮かべた。6回を2安打1失点で、チームの連敗を7で止める好投は、5試合目の先発で吉村自身が手にしたプロ初勝利だ。

 春季キャンプでブルペンを視察した評論家の多くが、キレ味抜群のストレートを絶賛したルーキーは、開幕投手の小川泰弘、新外国人のディロン・ピーターズに次いで4月2日の広島戦に先発。2点を先行されるも味方打線が追いつき、5回を5安打2失点と初登板はまずまずの内容だった。

 中6日で甲子園のマウンドに立った9日の阪神戦も、5回まで4安打1失点で勝ち負けはつかず。ただ、大胆さと繊細さを兼ね備えた投球で、ほどなく白星は手にするだろうと思われた。

 16日の広島戦は、1回表に5点の援護をもらう展開。いきなりの大量リードは難しいと言われるが、慎重になり過ぎずに3回までは無失点で切り抜ける。ところが、4回裏に連打で1点を奪われると、初めて足を踏み入れた6回裏に二死満塁とされて交代。リリーフした星 知弥が田中広輔にグランドスラムを浴び、同点となって初勝利の権利も吹き飛んだ。

 さらに、23日の巨人戦はコントロールが甘くなったボールを確実に仕留められ、5回6失点で先に初黒星を喫してしまう。即戦力と評されるだけに、早く白星を手にして波に乗りたいところだが、4回の先発でプロの厳しさを嫌というほど味わわされる。

 そんな吉村は、日大豊山高で1年秋からエースとなり、3年夏の東東京大会はオコエ瑠偉(現・巨人)を擁する関東一高に決勝で大敗したものの準優勝。國學院大でも2年からリーグ戦のマウンドに登り、卒業時にはプロ志望届を提出するもドラフト指名はなし。当時は、ストレートの威力が高く評価される一方で、安定感や4年生で負った右肩の故障が懸念された。

 社会人の名門・東芝で2年後を目指し、順調な進化を見せていたが、ドラフト指名が解禁となる2年目は都市対抗予選で敗退。ただ、シーズン途中から左足を振り子のように振る始動で安定感を高めており、何人かのスカウトが「大きなきっかけをつかんだイメージがある。来年はブレイクするかも」と見ていた。

 その3年目(昨年)は、3月の東京スポニチ大会で優勝の原動力となり、最高殊勲選手賞に選出される。自ら試行錯誤してものにした投球フォームでストレートの破壊力は増し、対戦した打者は「あのストレートは社会人ナンバーワン」と舌を巻く。アピールしたかった都市対抗は一球に泣いて一回戦で敗れたが、10月6日に日本シリーズを控えた東京ヤクルトとの練習試合に登板し、村上宗隆から三振を奪うなど好投。高津臣吾監督は、ドラフト会議前日に吉村の1位入札を公言し、三度目の正直となる10月20日のドラフトで東京ヤクルトから1位指名される。

プロでもパワー・ピッチングを持ち味にしたい

 大卒社会人が3年目に指名されるケースは珍しくないが、一気に1位まで評価を上げた例はそうない。それだけ前年秋から急成長したわけだが、吉村の豊かな感性によるところが大きい。左足を大きく振るフォームも、「バランスを取るドリルの動きがしっくりきたので、これを投球フォームにも生かそうと考えて」採り入れ、リズム、右腕の振り、重心移動など、すべての動きがよくなったという。

 そんな吉村が追求するのは、ストレートを主体にしたパワー・ピッチングだ。プロ入りを控えたインタビューで「今の実力には満足していませんし、ストレートも今のままではプロで通用しないと思っています。すべての面でしっかりと成長し、プロでもパワー・ピッチングを持ち味にしたい」と語ったように、30日の阪神戦も1回表に3四球で二死満塁としてしまうが、井上広大を自慢のストレートで三振に打ち取って流れを引き寄せる。

 そして、3回裏に村上の左犠飛とドミンゴ・サンタナの2ラン本塁打で3点をリードすると、攻める姿勢を貫く力投。6回表に中野拓夢にソロ弾を許すも、6回を2安打8奪三振の1失点で、勝利への道筋を築いた。

 ヒーロー・インタビューに登場した吉村は、穏やかな笑顔でこう話した。

「率直に、メチャメチャ嬉しい気持ちでいっぱいです。自分の仕事は、バッターを一人ひとり抑えること。初回から飛ばしていこうと投げましたが、6回に一発を許してしまった。今後は、それも防げるようにしたい。監督からも、『ここから勝っていけるように頑張っていこう』と声をかけていただきましたが、少しでも多くお立ち台に立てるように頑張りたい。ウイニング・ボールは両親に渡します」

 セ・リーグ王者のビッグルーキーが、3連覇と新人王に向かって走り出した。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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