Yahoo!ニュース

オリックスをV字回復させた要因はこれだ!!

横尾弘一野球ジャーナリスト
球団公式サイトのトップ画面には、華やかなチャンピオンのロゴが躍る。

 NPB AWARDSが終わると、プロ野球関係者と激闘を繰り広げたシーズンを振り返って様々な話をする。その中で感じるのは、ユニフォームを着た監督、コーチの『現場組』と編成担当やスカウトの『背広組』との考え方の違いだ。

 どちらも短期目標では優勝を目指し、中・長期的には常勝チームを築こうとする。もちろん、不可能とわかってはいても、入団したすべての選手に大成してほしいと願っている。だが、監督やコーチから「スカウトは、何であんな選手を獲ってくるんだろう」という溜息が漏れ、スカウトは「なぜ、あの選手を使ってくれないのか」と首を傾げることが少なくない。どんな世界でも、人を育てたり、大成するきっかけを与えたりするのは簡単なことではないだろう。とはいえ、現場と編成が一枚岩で選手を育成し、チームを強化することには想像を超える難しさがあるのかと実感させられる。

 そんな中、現在のオリックスは、現場と編成が一体になって動いていると感じられる。きっかけは、6年連続Bクラスと2年連続最下位に沈んだ2020年シーズン直後のことだ。何人かの選手を労うと、「いいチームになりました。来年は見ていてください」と口を揃えた。ペナントレースで散々な経験をさせられたのに、である。あえて理由を聞かず、2021年の戦いぶりを見ながら考えてみることにした。

 前年途中から監督代行を務め、そのまま正式就任した中嶋 聡監督は、高卒2年目を迎える宮城大弥や紅林弘太郎らを数年後の主力としてではなく、「力があるならすぐに」と一軍に抜擢。守備位置が定まらなかった宗 佑磨をサードに固定し、福田周平を内野から外野へコンバートする。実は、そうした考えは、編成部の牧田勝吾副部長からチーム力を高めるプランとして聞いていたものだった。

 福田はNTT東日本の都市対抗優勝に貢献し、日本代表にも選出されていた実力を備えていた。だが、2018年にドラフト3位で入団した時点ではオリックスがどんな形で戦力に考えているのか今ひとつイメージできず、当時はスカウトだった牧田に僭越ながらこんな質問をした。

「現状の社会人で、福田より打てる選手も守れる選手にもほかにいます。なぜ福田なんですか」

 牧田はこう言った。

「私自身は、福田を内野手としては評価していません。でも、外野にコンバートすればいいリードオフになってくれると思っているんです」

現場と編成が一体となったチーム作り

 同じように牧田は、宗はポジションを固定したほうが力を発揮できるのではないか、高卒新人もどんどん起用すべきといった私見を話してくれた。ただ、スカウトのそうした見立てが実現するのは、現場が理解を示してこそだ。2021年の中嶋監督の選手起用や戦い方を見ていくと、そうしたスカウトが見立てた選手の特長が生かされていると感じられ、セ・パ交流戦で波に乗ったあたりから「これは来るぞ」と思えた。実は、そんな戦いぶりを見て感じた「これは来るぞ」を、前年からすでに中嶋の下でプレーしていた選手は実感していたのだ。

 また、ルーキーだった2019年に好スタートを切りながら、2、3年目と伸び悩んだ中川圭太は、新たな可能性を広げるためにもセカンドに挑戦した。だが、練習させた上で、これまでと同様にファースト、サード、外野での併用が決まると、勝負強さを磨いてキャリアハイの数字を残した。杉本裕太郎のブレイクにも、本人の努力に加え、何かきっかけがあるのだろう。牧田は言う。

「中川については、最後のPL戦士とか、東洋大のキャプテンというバックボーンがなければ獲らなかったかもしれない。そういうものを背負って必死にやる彼の持ち味を生かしてやりたいとは、常に考えています。何でもかんでもというわけにはいきませんが、そうやって時には選手の心情や希望も考慮しながら、現場とも話し合っていきたいですね」

 他球団のコーチや編成担当者に聞けば、中嶋監督の手腕の高さとともに、昨年あたりからオリックスの選手は自信に満ちた表情でのびのびプレーしている印象があるという。それを牧田にぶつけると、こんな言葉が返ってきた。

「選手が最大限の力を発揮できるのは、『オリックスに入ってよかった』と心から思えた時。中嶋監督には勝てるチームを作っていただき感謝していますが、私たちもその一助になれているなら本当に嬉しいですね」

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

横尾弘一の最近の記事