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落合博満のリーダーシップ2——最大の危機に招集した選手ミーティング

横尾弘一野球ジャーナリスト
1994年に中日から巨人へFA移籍した落合博満は、5年ぶりの日本一に貢献する。

「プロ野球にチームリーダーはいらない」と言う落合博満が、現役時代に発揮したリーダーシップとはどんなものだったか。フリー・エージェント権を行使して、中日から巨人へ移籍した1994年のシーズン、チームの日本一に貢献した『落合効果』を振り返る。

 開幕戦で広島に11対0と大勝した巨人は、ペナントレースを快調に走る。だが、約半年にわたる長丁場のレースは、いいことばかりではない。巨人は7月7日の阪神戦に2対3で敗れると、翌8日からの広島戦にも0対1、2対3で連敗。3試合続けて1点差の勝負を落とす。さらに、10日の広島戦には2対12と大敗し、札幌に移動した12日の中日戦も0対2。まだ2位とは7.5ゲーム差があったものの、5連敗でチームのムードも沈む。

 この中日戦を終えて宿舎に戻った直後、落合はユニフォームのまま選手を集めてこう話した。

「4連敗だ、5連敗だと新聞に書かれるけれど、そんなマスコミの報道には左右されるな。5連敗していても、まだ2位に7.5ゲーム差もつけているんだから、負けたっていいじゃないか。それと、投手は野手を信頼しろ。野手も投手を信頼しろ」

 落合自身は、この5連敗が最悪の事態だとは感じていなかった。もしかしたら、もっとどん底に落とされるかもしれない。そこで、チーム状態がさらに悪くなってしまう前に、何か言っておいたほうがいいだろうと判断したのだ。

「当時のジャイアンツは、負けが込んでくると精神的な弱さが顔をのぞかせた。『打てない』と周りから言われると、選手自身も『そうなのかな』と思ってしまう。そうした“人のいい”選手が多かった。それと、投手が抑えているのに得点できないで負けたり、打線が援護してもそれ以上に投手が失点すると、お互いに不信感が出てきてしまうもの。それだけは、避けなければいけないからね」

投手は野手を、野手も投手を信頼しろ

 落合が招集した選手ミーティングの翌日から、巨人は1点差を守り切って3連勝する。そして、8月18日にはマジック25を点灯させる。ただ、落合が想定したように、8月25日のヤクルト戦で0対4の完封負けを喫すると、球団史上19年ぶりという8連敗。記録的な猛暑で体力を消耗させる選手も多く、10月8日の中日との優勝決定戦までもつれ込む。そんな中でも優勝に辿り着けたのは、投手と野手の相互信頼が損なわれなかったからだという。

 落合は中日で監督を務めていた時も、この投手と野手の相互信頼に重きを置き、大型連敗をしないチームを作った。そのために、先発投手が6イニングス以上を自責点3以内に抑えればクリアするクオリティ・スタートという指標を真っ向から否定した。

「先発投手の役割は、6回を3点以内に抑えることじゃない。チームを勝利に導くことでしょう。打線が1点しか取れなかったら、ゼロに抑えなきゃいけないんだ。反対に10点も取ってくれた試合なら、9点まで取られても投げ切ることだよね。そうやって、チームにも自分にも白星をつけるのが先発投手の仕事であり、それができるかどうかが評価の対象でしょう」

 そして、投手と野手が力を合わせ、何とか相手より1点多く取るのが落合の考える野球なのだ。監督時代の中日は、それを選手が理解して実践できるチームだった。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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