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連覇のかかる大阪ガスなど近年の王者が激突【第46回社会人野球日本選手権大会デイリー・リポート10】

横尾弘一野球ジャーナリスト
磐石の試合運びにベンチのムードも最高の大阪ガス。いよいよ大会連覇に近づいてきた。

 第46回社会人野球日本選手権大会10日目は準々決勝3試合が行なわれ、三菱重工Eastが同じ神奈川の名門・東芝を2対0で下す。都市対抗との連覇を目指すHondaは、タイブレークの延長10回でセガサミーに1対0のサヨナラ勝ちを収め、2年越しの大会連覇を狙う大阪ガスはJR四国に8対0で快勝。すでに4強のNTT東日本を含め、最近数年の間に日本一を経験しているチームや選手が準決勝で顔を合わせることになった。

 第1試合では、神奈川県勢の三菱重工Eastと東芝が激突。三菱重工Eastは、三菱パワーを母体に三菱重工名古屋と三菱重工広島の選手も合流して今季からスタートを切った。新たに就任した佐伯 功監督は、2018年に三菱重工名古屋を率いて日本選手権を制しており、安田亮太をはじめ日本一を経験した選手も加わっている。また、東芝の平馬 淳監督とは同じ1975年生まれ。互いにリスペクトしつつ、負けられない相手でもある。

 1か月前の前期神奈川県企業大会では、東芝が藤村哲之から善 武士への継投で1安打完封勝利を挙げた。平馬監督は、その藤村に先発を託す。対する佐伯監督は、左腕の本間大暉を先発に起用する。

 先手を取ったのは、2回表の三菱重工Eastだった。四番・小栁卓也の四球から一死一、三塁のチャンスを築き、矢野幸耶が右前に運ぶ。さらに、4回表二死一、二塁から久保皓史が一塁へ内野安打を放つと、敵失が絡んで二塁走者が一気に生還する。

 東芝の反撃は4回裏だ。一死から吉田 潤の右前安打と松本幸一郎の四球で一、二塁としたが、本間は後続を上手く打ち取る。続く5回裏も一死一、二塁を無失点で凌ぐと、6回からは長島 彰がリリーフ。三菱重工広島でもよくあったという本間から長島への継投が決まり、8回からは大野亨輔を投入。その8回裏の無死一、二塁も併殺で潰した東芝は、ホームが遠かった。

「やはり、東芝は手強いですね」

 そう佐伯監督は苦笑したが、三菱重工名古屋で日本一になった2018年も、準決勝では東芝に5対0で完勝している。ただ、東芝もこのままでは終わらないはず。ENEOSも含めて三つ巴の都市対抗西関東二次予選にも注目したい。

都市対抗準決勝の再戦も同じような展開となり……

「選手たちは打ちたい、抑えたい、勝ちたいと必死にやっている。勝敗は、その結果に過ぎません」

 セガサミーの西田真二監督は、試合後に実感を込めてそう語った。第2試合は、昨年の都市対抗準決勝の再戦。1点リードを9回表に追いつかれ、タイブレークの延長10回表に佐藤竜彦の満塁弾でHondaに敗れた12月の記憶は、まだ選手たちの脳裏にはっきりと残っているだろう。

 その悔しさを糧にチームは進化したが、この日も1回表の二死二塁を皮切りに、3回表一死一、三塁、4回表一死二塁、5回表には無死一、二塁も先制点を奪えない。それでも、先発の横田 哲、5回からは横山 楓がHondaの打線に仕事をさせず、スコアレスのまま9回を終える。

 またも一死満塁のタイブレークだ。何とかリベンジを果たしたかったものの、四番の澤良木喬之、続く北阪真規は、Hondaの福島由登に連続三振に仕留められる。その裏、Hondaの井上彰吾は快音を残したが、二塁手の北川智也が痛烈なゴロに飛び込み、本塁をフォースアウトに。あとワンアウトで11回に持ち込める。

 この回から登板した石垣永悟は佐藤を2ストライクに追い込むも、3球目をライトへ打ち返される。Hondaのサヨナラ勝ち――いや、ライトゴロになるのでは……。右翼手の植田匡哉はワンバウンドで捕球すると矢のような送球を一塁へ。「ヤバいと思った」という佐藤も全力で走る。果たして……一塁手の根岸晃太郎はベースに入っておらず、佐藤が間一髪のタイミングで駆け抜ける。

サヨナラの場面は、一塁手がベースにつけばライトゴロにできるタイミングだったが……。
サヨナラの場面は、一塁手がベースにつけばライトゴロにできるタイミングだったが……。

 土壇場での勝負強さについて問われたHondaの開田成幸監督は、穏やかな表情でこう言った。

「最後のアウトを取るまで諦めずに粘ろう。私たちは常にそう選手に伝え、その意識を選手が共有してくれている」

 厳しい表現になるが、根岸にはその意識がなかった。少なくとも、スタンドで観ている者でも「ライトゴロか」と思えた場面で、一塁ベースに入らなかったのだから。1対0という僅差は、ストレートの球速や長打力といったパフォーマンス力ではなく、最後まで考えられるベストプレーを実行できるかどうかの差なのではないか。そうして、全力を尽くして初めて、西田監督が語る結果を自分たちのものにできるのではないか。

 ただ、セガサミーも、そんな僅かな差を埋めれば頂点に届く位置まで登り詰めてきた。そして、根岸はその原動力として絶対に不可欠な存在なのだ。都市対抗東京二次予選では、さらに成熟した姿を見せてくれることに期待したい。

日本一経験者を温存して3試合無失点の大阪ガス

 第3試合は、三菱重工Westとトヨタ自動車を連破して勢いのあるJR四国を、大阪ガスが8対0と一蹴した。二大大会初先発という21歳の左腕・宮本大勢がイキのいい投球を見せ、1回表二死三塁から四番・末包昇大の中前安打で1点を先制した打線は、3回表には4安打を集めて4点を追加する。

 リリーフ投手をはじめ、途中出場の選手たちも期待された仕事をきっちりとこなし、3試合で22得点はもちろん、失点はゼロという完璧な戦いぶりだ。しかも、投手力がものを言う準決勝・決勝を前に、2018年の都市対抗優勝に貢献した温水賀一、前回大会で最高殊勲選手賞の阪本大樹、強気の投球が光る左腕の秋山遼太郎が温存されたままなのだ。

「野手では青栁 匠や峰下智弘が元気なうちに、若手にも頭角を現してほしい。そう考え、JABA大会から出場機会を与えていますが、逞しくなっていますね」

 今季から指揮を執る前田孝介監督は、控えめな表現ながらもチームの進化に手応えを感じているようだ。東京五輪の影響で夏開催となり、コロナ禍で2年越しとなってしまった異例尽くめの連覇も、いよいよ現実になるか。

(写真提供/小学館グランドスラム)

【7月13日の対戦カード】

◆準決勝

13:00 NTT東日本×三菱重工East

17:00 Honda×大阪ガス

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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