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全足利クラブが16大会ぶりの日本一!! 第45回全日本クラブ野球選手権大会が2年ぶりに開催される

横尾弘一野球ジャーナリスト
16大会ぶり11回目の優勝を決め、マウンドに駆け寄る全足利クラブの選手たち。

 昨年は新型コロナウイルスの感染拡大で大会史上初の中止を余儀なくされ、2年ぶりの開催となった第45回全日本クラブ野球選手権大会は、5月29日から3日間にわたって岐阜県岐阜市の長良川球場と大垣市の大垣北公園球場で熱戦が繰り広げられた。

 大会前には大会関係者、出場チーム関係者のPCR検査を実施。チーム関係者から陽性者が出た大和高田クラブ(奈良県)が、管轄の保健所から活動の自粛を指導されて出場を辞退した。出場16チーム中最長の7大会連続19回目の出場で、2大会ぶり5回目の優勝を狙っていた強豪だけに残念だったが、無観客かつ徹底した感染対策で14試合が無事に行なわれた。

 7試合中4試合がコールドゲームと一方的な展開が多かった一回戦では、ハナマウイ(千葉県)とMSH医療専門学校(広島県)がタイブレークの延長10回におよぶ見応え十分の勝負を演じた。主役は、MSH医療専門学校の先発を任された辻 興聖だ。中国・四国二次予選では松山フェニックスから3失点完投勝利を挙げた20歳の左腕は、昨シーズン創部2年目で都市対抗へ出場したハナマウイの強力打線を相手に3者三振で立ち上がると、緩急を生かした投球で3者凡退を続け、4回表にも再び上位を3者三振に。その間に武田金太郎の一発などで2点を援護してもらい、6回表二死満塁も四番の田中勇利を3打席連続三振に仕留めて切り抜ける。

ハナマウイを相手に15奪三振の快投を見せたMSH医療専門学校の辻 興聖(写真提供/小学館グランドスラム)。
ハナマウイを相手に15奪三振の快投を見せたMSH医療専門学校の辻 興聖(写真提供/小学館グランドスラム)。

 6回裏に3点目を奪った時は、会心の勝利が見えかかったが、ハナマウイも7回表に1点を返し、続く8回表には林 弘佑希が同点2ラン本塁打をレフトスタンドに突き刺す。それでも、3対3で9回を終え、10回からは一死満塁で攻撃を始めるタイブレークに。その10回表、林の二塁打と大友 潤の3ラン本塁打で力尽きたものの、155球で15三振を奪う辻の快投は強く印象に残った。

「右打者のインコースをもっと使えばよかったことが反省点。また、予選と同じく後半に失点した。スタミナのアップが今後の課題です」

 そう言ってグラウンドを去った辻の今後が楽しみだ。

最多優勝の全足利クと初優勝を目指す千曲川硬式野球クが決勝へ

 大会2日目は、準々決勝と準決勝のダブルヘッダー。大会連覇に突き進むマツゲン箕島野球部(和歌山県)を2対0で倒した全足利クラブ(栃木県)は、ハナマウイとの準決勝では打線が爆発する。2回表に一死一、三塁のチャンスを築き、リードオフの藁谷遵人が右前に先制タイムリーを放つと、四番の松本大吾まで4者連続の適時打を浴びせ、ハナマウイのエース・平野暖周をKO。山崎竜馬の二塁打でさらに2点を加えるなど、4回までに8点をリードする。結局、20安打で13点を奪い、7回コールドで決勝に駒を進める。大会最多10回の優勝を誇る名門も、その10回目の優勝を手にした2004年の第29回大会から16大会ぶりの頂上決戦だ。

 一方、THINKフィットネスGOLD'S GYMベースボールクラブ、TOKYO METSと東京勢を連破したのは千曲川硬式野球クラブ(長野県)である。2016年の第41回大会では準優勝し、その後もコンスタントに実績を残しながら世代交代も進めるチームは、投打の歯車が噛み合い、北信越地区に悲願の優勝旗を持ち帰れる力をつけている。

 そうして、5月31日の午前10時に開始された決勝は、2回裏に3安打を集中して全足利クラブが1点を先制すると、5回表には打撃好調の石渡大成の中前安打から千曲川硬式野球クラブが同点とする。次の1点が勝敗を大きく左右すると思われた6回、全足利クラブはエースの中田智暁が14球で3者凡退に抑えると、その裏に倉澤弘毅と岩崎昂佑の右前安打で一死一、三塁とチャンスを築く。

 ここで、千曲川硬式野球クラブは左腕の名取泰誠から本多将吾に継投したが、山崎竜馬が初球にスクイズを成功させ、全足利クラブが再びリードする。さらに、7回裏には連続二塁打で1点を加え、7回から登板した岩崎海斗で最終回まで漕ぎ着ける。千曲川硬式野球クラブも粘って1点を返したが、全足利クラブが際どく逃げ切った。

 現役時代に全足利クラブの主砲だった椎名博士監督は、1997年に優勝の原動力となって最高殊勲選手賞を獲得。名門の再建を託されて2019年から指揮を執ったが、その年はクラブ選手権関東二次予選で屈辱の敗退を喫する。それでも厳しく選手を鍛えて王座に返り咲き、試合直後のインタビューでは言葉を詰まらせるシーンもあった。

 大会連覇や初優勝にひた走るにも多くのエネルギーを必要とするが、長く王座から遠ざかるチームを復活させる道のりは、さらに険しかったはずだ。優勝して初出場を決めた日本選手権では、思う存分暴れまわってもらいたい。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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