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阪神の佐藤輝明が初の四番で大アーチ!! 落合博満が考える四番打者とは【落合博満の視点vol.31】

横尾弘一野球ジャーナリスト
心身のタフさや野球頭のよさなど、落合博満は真の四番打者になるための条件を挙げる。

 5月2日の広島戦で、阪神の注目ルーキー・佐藤輝明が初めて四番でスタメン出場した。この試合では開幕から四番を務めてきた大山悠輔がスタメンを外れたため、代役の形で実現。阪神で新人が四番を務めるのは、2017年の大山以来4人目と注目される中、1回裏一死一、二塁では三振を喫し、3回裏一死一、二塁では二塁ゴロに倒れるなど、やや硬さがあるかと見られた。

 しかし、2点を追う5回裏無死満塁で打席に入ると、カウント2ボール2ストライクから野村祐輔の低目のチェンジアップをライトスタンドへ叩き込む逆転グランドスラム。さらに、6回裏一死満塁でも詰まりながら左前に落とすタイムリーと、重圧など感じていなかったのかと思わせる活躍を見せつける。

 今回は、大山に適度な休養を取らせるためだったが、矢野燿大監督は代役に外国人ではなく佐藤輝を起用した理由を聞かれると、「長いシーズンの間には、色々なことが起こりうる。その準備という意味でも、四番、サードを経験しておいてもいいかと考えた。その機会に逆転満塁ホームランを打つなど、“持っている”とは感じた」と答えた。抜擢ではなく、あくまでも経験ということだが、ヒーローインタビューの佐藤輝は「自分のスイングをすることだけを考えた。結果を残せてよかった」と笑顔だった。ともあれ、佐藤輝は四番でも目立つ結果を残したことで、さらに自信を深めたはずだ。

 さて、現役時代に四番打者が代名詞だった落合博満は、監督によって四番やエースに対する考えも異なると言う。巨人で3年間をともにした長嶋茂雄監督は、落合が移籍してきた1994年のシーズン、何があっても『四番・落合』を変えなかった。だが、チームが19年ぶりの8連敗を喫した直後、9月10日の広島戦では流れを変えるために1試合限定で落合を五番に据えた。試合前には落合を呼んで「色々な手を打ったが悪い流れを変えられないので、今日だけ五番を打ってくれ。明日はまた四番に戻すから」と伝える。落合が「わかりました。四番は誰に打たせますか」と返すと、「吉村(禎章)だ」と明かす。

「あの頃、四番を打てるのは吉村しかいなかった。長嶋さんも四番の経験が豊富だから、誰が四番の器なのかという点では、私と考え方が一致していた」

 落合はそう振り返る。一方で、日本ハム時代の監督だった上田利治は、若手の西浦克拓と落合に四番の座を競わせた。上田監督は阪急を率いていた時にも、プロ野球記録の12年連続開幕投手を務めていた山田久志を、1987年の開幕戦に先発させなかった。こうした起用について落合は言う。

「長くレギュラーを務め、中でも四番やエースの座にいた人と、その経験がない人では、チームの中心となる役割に対する考え方ははっきりと異なる。長嶋さんが正解で、上田さんが間違っているというわけではない。ただ、四番やエースに配慮したほうが、チームが勝てると考えるかどうかだ。もちろん、それに見合う選手がいることが前提だけど」

誰かに育てられるのではなく自らつかみ取る存在

 では、四番に見合う選手とは。

「長打力はほしいけれど、絶対条件ではない。簡単には休まない心身のタフさ、場面ごとに何をすればいいのか理解できる野球頭のよさ。また、好不調の波を小さくするために、技術だけでなく野球を学び続ける姿勢も必要になる。要するに、スタメン用紙の四番の欄だけは、名前を印刷しておけるような選手が理想的だ」

 そして、そんな選手はどうやって育てられるのか。

「私が三冠王を3回手にできたのも、一軍に定着した3年目に、山内一弘監督が首位打者を獲らせてくれたのが大きなきっかけ。タイトルの獲り方は、山内さんのような経験者にしかわからないものだからね。ただ、そこから三冠王を獲り、それを2回、3回と積み上げていったのは、私自身の強い意志というか執念。同じように、四番に抜擢して形にしてくれるのは監督だけど、その先も不動の四番になれるかどうかは本人次第だろう。周りに育てられるというよりも、自己成長できるかが条件。四番としての責任感をひしひしと感じながら、誇りを持ってその仕事を全うしようと向き合い、つかみ取れるか。それが四番の存在感を大きく左右する。やるべきことは、たくさんあるぞ」

 阪神の佐藤輝は、初めて四番に座った経験をどう受け止め、どんな打者を目指していくだろうか。大山と切磋琢磨して四番の座も競い、日本を代表する攻撃の核となってくれればと期待せずにはいられない。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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