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【落合博満の視点vol.26】開幕直後は戦力が足りないチームの戦いぶりに注目だ

横尾弘一野球ジャーナリスト
1999年の福岡ダイエーは、篠原貴行ら2年目の投手の台頭で日本一に登り詰めた。

 3月26日のペナントレース開幕を控え、プロ野球はオープン戦も終盤に入った。12球団の勝敗だけを見れば、今季もパ・リーグがセ・リーグを上回りそうであり、中でも福岡ソフトバンクの力が頭ひとつ抜けているという印象だ。セ・リーグでは佐藤輝明の打棒とともに阪神が好調だが、巨人と首位を争うことはできるだろうか。その一方で、2年連続最下位から上昇したい東京ヤクルトはオープン戦でも振るわず、なかなか希望が見出せない。

 ただ、落合博満は、東京ヤクルトのようなチームにこそリーグ制覇のチャンスがあると言う。落合は現役を引退して評論家となった1999年、高知県でキャンプを張る福岡ダイエー(現・福岡ソフトバンク)の王 貞治監督を訪ねた。5年目を迎えた王監督は、攻撃面に手応えを感じていたものの、投手陣には不安を抱えていた。そんな王監督に、落合はこう言った。

「先発投手がいなくたって、試合を放棄するわけにはいかない。どうせ誰かが投げなきゃいけないんだから、思い切って若手を使ってみてはどうですか?」

 王監督は「そう簡単に言うなよ」と苦笑しつつも、「人材不足という状況は、人が育つ最大のチャンスでもあるんだよな」と返した。そんな王監督に、落合は「若手を上手く使えば、優勝も狙えますよ」と真剣な眼差しで伝えた。

 ペナントレースが開幕すると、4月は4連敗で最下位にも落ちた福岡ダイエーは、5月7日からの西武との3連戦に3連勝して首位に立つと、その座を譲ることなく悲願のペナントを手にする。その原動力となったのは、先発を任された永井智浩と星野順治、中継ぎを担った篠原貴行の2年目トリオだった。

 永井と星野が10勝を挙げ、篠原は上手く白星を拾って14勝をマークした。前年は2勝5敗だった3人の勝敗は34勝14敗。実に20の貯金を作ったが、チーム成績が78勝54敗3引き分けと24の勝ち越しだから、3人の台頭がそのままチームを押し上げたと言っていい。

黄金時代の西武を知らないというメリット

 のちに落合は、王監督に若手投手の起用を薦めたもうひとつの理由をこう語った。

「当時の福岡ダイエーは、西武に対して苦手意識が強かった。ほかの球団には勝ち越すのに、どうしても西武にだけはやられていたんだ。私にも経験があるけど、1980~90年代の西武の強さは凄まじかった。それを覆していくには、西武の黄金時代を知らず、苦手意識を持っていない若手を使うのがひとつの手だと考えていたわけ。実際、1999年の西武戦は、永井が5勝3敗、星野が2勝4敗、篠原が1勝0敗でしょう。チームとしては12勝15敗なんだけど、負け越しを3つに止めたのが、4ゲーム差で西武を振り切ることができた大きな要因だから」

 プロ野球のような長期のリーグ戦の場合、若手の持つ勢いも大きな力となるものの、チームの安定感につながるのは実績ある選手たちのパフォーマンスだ。ゆえに、出場機会を与えながら若手を育てるのは、口で言うほど簡単なことではない。ただし、先発ローテーション投手の枚数が足りなかったり、レギュラーのリタイアによってポジションが空いた時、すなわち誰かをそこで起用しなければならない状況は、チームにとって危機である反面、若手を抜擢してチームを押し上げるチャンスなのだ。

 オープン戦でまずまずの戦いを見せているオリックスで若い力が台頭してきているように、攻撃陣がそこそこ揃っている東京ヤクルトは、若手投手を上手く起用すればセ・リーグを熱くする戦いを見せることができるのではないか。高津臣吾監督の選手起用や采配に注目してみたい。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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