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落合博満のバッティング指導とは【落合博満の視点vol.20】

横尾弘一野球ジャーナリスト
「練習では徹底して基本を追求し、試合では応用力で対処する」が落合博満の考え方だ。

 落合博満の現役時代の映像を見たり、テレビなどでの談話を耳にした人からよくこう聞かれる。

「落合さんは、どうやってバッティングの指導をするのですか?」

 そう言われれば、落合がバッティングを教える際、どんな表現で何を伝えているのかはあまり世に出ていない。そこで、社会人選手に対する指導を例に、落合の打撃指導を再現してみたい。

 指導者の中には、「こうすれば打てる」という表現を用いる人もいるが、落合はすべての指導のはじめに断りを入れる。

「これをやれば絶対に打てるというものはないが、これをやったら打てなくなるというものはある」

 そして、肝心なのはトップの位置からミートポイントまでバットを最短距離で走らせることであり、トップの位置に入れるための予備動作に不正解はないということだ。つまり、構える際にバットを立てるか寝かせるか、踏み出す足を上げるかどうかなどは選手本人のフィーリングであり、自分がバットを振りやすい形にすればいい。

 また、落合が定義する理想的なトップの位置は、「できる限り深く」である。弓を引く原理と同じで、なるべく深い位置から振り出したほうが、スイングスピードが上がるから。ただし、バットは両手で握っているため、捕手寄りの腕(右打ちなら右腕)を伸ばしていくと、投手寄りの腕(右打ちなら左腕)は肩を動かさないとついていけなくなる。首の関節が硬い人は、肩とともに首も動いて目線がブレてしまうから、投手寄りの腕がついていける深さが限度と考える。

 次に、高さの目安は、ストライク・ゾーンの高目いっぱいの位置とする。ここから振り出せば、バットのヘッドの重みを十分に利用できるからだ。

 そうやってトップの位置が決まったら、なるべく早くトップの位置に入れることを考える。投球をできるだけ長く見て、打つべきボールかどうか判断するためだ。最近の若い選手は、このトップの位置に入れるのがやや遅い。だから、トップの位置を浅くして振り出すなど急ぎ打ちをしてしまい、ボールを見極める時間も少ないからストライクからボールになる変化球を振ってしまう。

バッティングとは時間との闘いである

 ちなみに、落合の場合は、投手が振りかぶるなど、投球動作を始めるあたりで動き出し、トップの位置に入れて待つというタイミングの取り方だった。だから、バットを振り出し、目で「ボールになるスライダーだ」と見極めればスイングを止められたのだ。

「打者がボール球、ストライクからボールになる変化球をしっかり見極めたら、投手はホームプレートの上に投げ込むしかなくなる。もちろん、そのストライクを打ち返したほうが、打者もヒットにできる確率はうんと高くなるでしょう」

 そう説く落合は、バッティングの肝は“時間との闘いを制すること”だと続ける。

「フリーバッティングで打撃マシンを打つ時のように、一定のタイミングでストレートが来るとわかっていたら、かなりの確率でヒットゾーンに打ち返すことはできるでしょう。それは、ミートポイントにバットを出すタイミングがわかっているから。でも、実戦では『打たせまい』と緩急をつけたり、投球フォームでもタイミングを外そうとしてくる。そんなボールを打ち返すには、ストレートにタイミングを合わせて振り出し、変化球ならトップの位置で間を取って合わせる。それが、最も確率の高い打ち方でしょう。どんな投手でも、最速の球種はストレート。それに合わせておけば、あとの球種は全部ストレートより遅いボールなんだから、タイミングを合わせる時間はあるんです」

 これが、実際にスイングを見る前に、落合が選手に伝える基本的な考え方である。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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