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中日ドラゴンズが上昇するためのキーマンは背番号211のモイセ・シエラだ

横尾弘一野球ジャーナリスト
モイセ・シエラの打撃は、育成選手にしておくのは勿体ないレベルだ。

 プロ野球の春季キャンプは第1クールを終えた。毎年、このクールで注目するのはルーキーや新外国人、つまりチームを変化させる要素についてである。特に、劇的な変化をもたらす可能性のある外国人は興味深い。

 オリックス入りしたメジャー・リーグ通算282本塁打のアダム・ジョーンズは、走攻守にわたって他の選手と同じメニューをこなしながら、時間を見つけてはブルペンに足を運び、打席に立って日本人投手の球筋やストライク・ゾーンを確認。異なる環境に入れば当たり前のことなのだが、第一線で活躍してきた選手の取り組み方や意識の高さは、若い日本人選手にとっても手本になる。ジョーンズが本領を発揮できるかどうか以前に、チームに与える影響を考えてもプラスになるだろう。

 投手5、野手3の外国人8人体制となった阪神では、3人の野手が精力的な動きを見せている。一軍登録の4名は先発投手1、リリーフ投手1、野手2が予想されるだけに、まずは打線に不可欠な存在になろうと、自分の持ち味をアピールしている。

 昨年はやや期待外れだったとはいえ、1年の経験があるジェフリー・マルテは三塁に取り組んでおり、新戦力のジャスティン・ボーアはメジャー通算92本塁打のパンチ力、ジェリー・サンズは韓国で打点王に輝いた勝負強さがセールスポイント。守備位置の関係もあるが、それぞれがどんな立場で開幕を迎えるか楽しみだ。

落合博満曰く「ビシエドにはパートナーやライバルが必要」

 そうしてザッと新外国人をチェックした中で、特に目を引いたのは中日のモイセ・シエラである。昨年はエンニー・ロメロが先発、ライデル・マルティネスとジョエリー・ロドリゲスがリリーフで実績を挙げており、野手もダヤン・ビシエドが全143試合に出場。前年に打率.321をマークしたソイロ・アルモンテもロメロの登録を抹消しなければ起用することができず、なかなかの実力を備えていたスティーブン・モヤはシーズン途中でオリックスへトレードした。

 今季はロドリゲスがテキサス・レンジャーズと契約したが、その穴を埋めようとルイス・ゴンザレスを獲得。基本的には投手3とビシエドという陣容は変わらず、アルモンテとも契約を更新している。

 ただ、アルモンテのコンディションが不安だったことから、“保険の保険”のような形で育成契約したのがシエラなのだ。チーム事情とはいえ、2013年のワールド・ベースボール・クラシックで優勝したドミニカ共和国代表のメンバーで、メジャーでも4年プレーしている31歳と、推定年俸2500万円で育成契約するとは意外だった。

 それでも、春季キャンプの打撃練習ではセンターを中心に打ち返し、パワーはもちろん右方向へ持っていく器用さも見せる。外野守備や走塁もそつなくこなしており、日本のスタイルに適応できる可能性は高いという印象だ。

 ビシエドを獲得した際のゼネラル・マネージャーだった落合博満は、「外国人選手が活躍できるかどうかは、彼らの性格をしっかり把握してやることも大事な要素」と語り、「ビシエドの場合は、似たタイプの選手と並べれば、相乗効果にも期待できる」と見ている。そう考えると、2017年のアレックス・ゲレーロや2018年からのアルモンテよりも、シエラは絶好のパートナーであり、ライバルになるという印象だ。

 とりあえず、背番号211のシエラは、開幕後はウエスタン・リーグにしか出場することはできない。また、昨年の中日は、チーム打率.263がセ・リーグ1位、チーム防御率3.72は同3位、チーム守備率.992も同1位と、すべての部門で優勝した巨人を上回りながら、その巨人と9ゲーム差の5位に甘んじた。課題は選手のパフォーマンスではなく、戦い方にある。

 あえて戦い方に変化をつけるなら、4名の外国人枠を投手2、野手2とし、打線に外国人を2人並べるのも面白そうだ。そして、落合の考え方を参考にすれば、それはビシエドとシエラになるのだろう。そんなふうに考え、シエラの「長く日本でプレーしたい」という意気込みを聞くと、今季の中日のキーマンだと思えてくる。

(写真=Paul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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