なぜ社会人野球ではプロ経験者の監督、コーチが急増しているのか

JX-ENEOSに復帰の大久保秀昭(左)、日本製鉄かずさマジックの渡辺俊介両監督

 全国の社会人野球チームの監督、コーチ、マネージャーら指導スタッフが一堂に会する第44回JABA指導者研修会が、1月11日に東京都内で実施された。ラグビー日本代表の強化委員長を務めた薫田真広氏、元NHKアナウンサー・小野塚康之氏の講演のほか、社会人野球将来構想プロジェクトの経過報告、規則改正に関する説明、出席者によるグループ・ディスカッションなど、今年も盛りだくさんのプログラムを消化。そんな中、例年と会場の空気が少し違うと感じたのだが、それはプロ経験者が急増しているからだろう。

 プロと社会人は1960年代から約30年にわたって断絶状態にあっただけに、野村克也が2003年にシダックスの監督に就任した時は大きな話題となった。その年の都市対抗で快進撃を見せ、決勝に進出したものの逆転負けすると、新鋭チームを全国優勝にあと一歩まで導いた手腕は大いに注目された。

 2008年には、新日本石油ENEOS(現・JX-ENEOS)の大久保秀昭監督(元・大阪近鉄)が田澤純一(現・シンシナティ・レッズ)をエースに育てて日本一となり、2013年には51年ぶりの都市対抗連覇も達成する。そうしてプロ経験者が高い手腕を発揮したこともあり、多くの社会人チームが監督やコーチにプロ経験者を招聘している。

 昨年までに、セガサミーで青島健太(元・ヤクルト)、佐々木 誠(元・阪神)、初芝 清(元・千葉ロッテ)、ジェイプロジェクトで大石大二郎(元・オリックス監督)、バイタルネットで加藤正樹(元・近鉄)、カナフレックスで河埜敬幸(元・福岡ダイエー)、日本新薬で吹石徳一(元・近鉄)、パナソニックで梶原康司(元・阪神)、大和高田クラブで佐々木恭介(元・大阪近鉄監督)、三菱重工広島で町田公二郎(元・広島)、エナジックで石嶺和彦(元・阪神)らがチームを指揮。コーチやクラブチームの指導者まで含めれば、数多のプロ経験者がユニフォームを着ている。

プロ経験者でも簡単に勝てない野球の難しさ

 さらに、今シーズンは、大久保が慶大監督から6年ぶりにJX-ENEOSへ復帰したのをはじめ、日本製鉄かずさマジックでは渡辺俊介(元・千葉ロッテ)が投手コーチから監督に。東京で新規参入するJPアセット証券は、ヤクルトで現役を引退したあと、大学の指導を歴任した野林大樹監督。セガサミーは西田真二、カナフレックスは山田 勉と、広島OBが揃ってチームを率いる。

 なぜ、プロ経験者にチームを預けるのか。企業側の考え方を総合すれば、以下の理由が浮かび上がる。

「昭和の時代は、ドラフト指名されても社会人に残留する選手が何人もいた。だが、現在は高校や大学から社会人入りする選手の大半が、最終目標としてプロを目指すようになった。高校、大学からのプロ入りは就職だが、社会人からは転職となる。ならば、転職先の世界に詳しい人たちから指導を受けたほうが、転職に成功する確率は高くなるのではないか」

 ただ、プロ経験者は社員ではない。選手たちには企業人としての教育も不可欠ゆえ、プロ経験者はコーチに据え、社員の監督とマネージャーに教育面を担当させるという考え方もある。

 また、企業スポーツの存在意義として、社員や地域のシンボルとなることが挙げられるが、多くの人から愛されるチームには強さも必要で、チーム力向上にはプロで培った手腕を求める声も少なくない。

 それでも、プロ経験者を監督に据えたからと言って、すぐに成果には結びつかないのが野球の難しさ。古くからの社会人野球ファンの中には、「プロから来た監督が、一発勝負の社会人で苦しみ、悩む姿を見るのも、野球の奥深さを感じられていい」という視線もある。

 さて、東京五輪の影響で、クラブ選手権が5月、日本選手権が7月、そして、都市対抗が11月に開催される2020年のシーズンに日本一を手にするのは、生え抜きの社会人監督が率いるチームか、それともプロ経験者が作り上げたチームか。そんな角度から見てみるのも面白そうだ。

(写真提供/小学館グランドスラム)