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日米のプロ野球界も大注目!! 日本の金メダルを阻止した“台湾の大谷”劉致榮

横尾弘一野球ジャーナリスト
アジア選手権決勝に登板し、155キロのストレートで胴上げ投手になった劉致榮。

 2020年東京五輪の予選となる第2回プレミア12は、現地11月2日にグループAがメキシコで幕を開け、日本が入ったグループBは5日から台湾、グループCは6日から韓国で熱戦が繰り広げられる。そこで最上位のチームに出場権が与えられるアジア勢にとって、前哨戦と位置づけられた第29回BFAアジア野球選手権大会は、10月20日に台湾・台中市で決勝が行なわれ、社会人選手で編成した日本は、チャイニーズ・タイペイに4対5で惜敗。2大会連続優勝を逃した。

 日本の野球にも詳しい台湾のメディアは、17日のドラフト会議で東北楽天から1位指名された小深田大翔(大阪ガス)、中日から3位指名された岡野祐一郎(東芝)に注目。決勝でも2安打を放った小深田には、プロ入りの意気込みなどを尋ねていたが、決勝を終えた後に最も記者を集めたのは胴上げ投手となった20歳の劉致榮だった。

18年ぶりの優勝に沸くチャイニーズ・タイペイの選手たち。中央の背番号16が劉致榮。
18年ぶりの優勝に沸くチャイニーズ・タイペイの選手たち。中央の背番号16が劉致榮。

 1点リードの7回裏一死一、二塁で交代がコールされると、スタンドからは大きな歓声が上がる。182cm・85kgというボディは、サイズ的にも見た目にも威圧感は覚えないが、軽めの投球練習でもストレートは140キロ台後半と、パワー・ピッチングが持ち味のようだ。

 実際、日本代表の主将・佐藤 旭(東芝)が打席に立つと、147キロのストレートにもやや振り遅れている。そして、130キロ台のスライダーでカウントを稼ぐと、勝負球に投げ込んだストレートは155キロをマーク。佐藤旭を空振り三振に仕留める。

 さらに、8回裏に日本の一番からの好打順を3者連続三振に斬って取ると、球場のボルテージは最高潮に。最終回もきっちりと3人で片づけ、チャイニーズ・タイペイに18年ぶりの優勝をもたらした。

「陽名山大谷」の異名を持つ台湾の二刀流

 驚かされたのは、本格的に投手となって2年と聞かされたからだ。台北の郊外・新北市の鶯歌工商(高校)時代は俊足好打の内野手。「台湾の甲子園」と呼ばれる玉山杯では左右両打席で本塁打を放ち、2年続けてベストナイン遊撃手に選ばれた。また、2016年に小枝 守監督(故人)が率いる日本が優勝したU-18アジア野球選手権大会では、準優勝でベストナイン二塁手に輝く。翌2017年にカナダで開催された第28回U-18ワールドカップでは打率.316。まだ練習をしていなかった投手としても2試合に先発し、防御率1.98とセンスのよさを見せていた。

 当時を知る記者によれば、「高校時代は体重が70kgに満たず、バットコントロールには定評があったけれど、投手としては線が細いと見られていた」そうだが、野球の名門・文化大へ進学すると、体格的にもがっしりとしてきた昨年あたりから投球練習にも本格的に取り組むようになったという。

 台湾のファンを沸かせたのは、9月下旬から開催された大学の全国大会に当たる梅花旗だ。内野手登録のままマウンドに登ると、ストレートは158キロを叩き出し、視察していたメジャー・リーグのスカウトが密着を開始したという。結局、この大会では5試合で打率.619、3本塁打10打点で三冠王、胴上げ投手にもなってMVPを獲得。台湾のメディアは、投打にわたる大活躍に「陽名山大谷(台湾の大谷翔平という意味)」と名づけ、その勢いのまま代表に滑り込むと、アジア選手権でも目立つ結果を残したというわけだ。

 すでに獲得に動いているメジャー球団もあると言われ、これからオフシーズンにかけて、その去就が大いに注目されている。「大谷のように、メジャーで大活躍してほしい」という声もあれば、「大谷は日本で実績を残してから渡米した。劉もそうすべきだ」と熱弁をふるうファンもいた。さて、日本のプロ球団は、この金の卵をどう見ているだろうか。(写真は2点ともPaul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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