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開幕カード連敗もセ・リーグのキャスティングボードを握るのは東京ヤクルトだ

横尾弘一野球ジャーナリスト
古巣に復帰した五十嵐亮太(左)と攻守にシャープな動きを見せる山田哲人(右)。

 3月29日の開幕戦は、1回表にいきなり派手に3連打を披露したものの得点できず、1-1で迎えた延長11回裏に一死三塁と攻められ、石山泰稚の暴投でサヨナラ負け。ベテラン左腕の石川雅規が先発した30日の2回戦は、1回表二死から山田哲人が二塁打でチャンスメイクするも、ウラディミール・バレンティンが倒れて先制を逃す。そして、その裏に許したソロ本塁打の1点を最後まで取り返せなかった。延長サヨナラと1安打シャットアウトの連敗は、多くのファンをもやもやさせているだろうし、選手たちも気分がいいはずはない。それでも、東京ヤクルトはセ・リーグの優勝争いに加わり、ペナントの行方を左右するチームだと感じている。

 小川淳司監督が復帰し、宮本慎也がヘッドコーチに就いた昨シーズンに2位へ浮上すると、伸び盛りの星 知弥、梅野雄吾、松本直樹、村上宗隆、塩見泰隆をアジア・ウインター・ベースボールに派遣。各々が翌年へのテーマを持って臨み、一定の成果を残したことで、今春のキャンプはこれまでと違ったムードになるのではないかと思われた。

 そして、2月の浦添キャンプ。オフにもレベルアップに励んだ若手が目の色を変えているのに加え、輝かしい野球人生を集大成しようと10年ぶりに古巣へ復帰した五十嵐亮太、18年目のシーズンを4つ目の球団で迎えた寺原隼人、電撃トレードで移籍してきた高梨裕稔ら新戦力の必死さにルーキーや新外国人も引っ張られ、投手陣には一軍の登録枠を巡って殺気立つムードさえ感じられた。

 また、野手では山田が攻守にシャープな動きを見せ、2017年に日米通算2000安打を達成している青木宣親も着実な調整ぶり。廣岡大志、奥村展征といった飛躍が期待される20代前半の選手たちは、同じグラウンドにいるだけで刺激を受け、学べるチームに成熟したという印象だった。

ファンやメディアには見えなかった部分がポイントになる

 オープン戦は、7勝9敗1引き分けとまずまず。昨年の開幕投手を務めたデービッド・ブキャナンが下半身の違和感を訴えている以外は重大な離脱者もなく開幕を迎えられたことで、昨季にプラスアルファを積み上げられる戦いに臨む準備は整った。

 そうして迎えた阪神との開幕戦では、青木が4安打と暴れ、先発の小川泰弘も7回まで1失点と好投。近藤一樹、デーブ・ハフ、梅野もしっかりとバトンをつなぎ、クローザーの石山を投入する展開まで持ち込んだ。続く2戦目も、先発の石川は5回を一発による1失点に凌ぎ、スコット・マクガフ、五十嵐、大下佑馬も今季初登板を無難にこなす。つながりを欠いた打線も、各選手のスイングや打つべきボールの選択には不安がなく、投打の歯車が噛み合い、面白いように勝てる時期もあるだろう。

 そんな見立てで、広島、巨人といった優勝候補とも互角に戦えると希望を抱いたのだが、それを現実にするためには、キャンプの時期にファンやメディアには見えなかった部分、すなわち2月の1か月間を各選手がどう過ごしたかがポイントになると思う。しっかり自分自身と向き合い、一人ひとりが明確なビジョンを描けているなら、オールスターゲームまで勝率5割ラインをキープすれば、夏場に力強さを発揮して上位に進出できるはず。主力が戦列を離れても、その穴を埋める戦力が台頭するだろう。

 選手たちのプレーする表情から、そうしたチームになっていると信じ、ペナントレースのキャスティングボードを握り、一気に主役になれるチームとして東京ヤクルトの戦いを見ていきたい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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