落合博満の視点vol.7『プロ入りに不可欠な要素は“その気”になること』

中日監督として高い手腕を発揮した落合博満が、指導者と選手の間の問題について語る。(写真:ロイター/アフロ)

 今年ほど、スポーツ界で指導者のあり方が問われたことはなかっただろう。日大のアメフト部の問題では、元監督が「私の指導と選手の受け取り方に齟齬があった」と発言したが、落合博満は「何を今さら」と斬り捨てる。

「そもそも言葉というものは、発した側(指導者)と受け取る側(選手)では、記憶の残り方がまるで違う。そこに、自分の都合のいいように解釈するという脳の働きが加わるから、はじめから齟齬がある。だからこそ、言葉とは受け取る側が内容を理解し、納得し、実行し、さらに結果を残してはじめて『伝わった』と言えるのだ」

 ただ、指導者と選手の間で起きている様々な問題は、指導者が姿勢を変えるだけでは解決しないと指摘し、選手側も心がけなければならないことを次のように示す。

 まずは、聞き上手になれ、ということ。

 指導者や先輩の話を聞く時は、気持ちを真っ新にして、「何か吸収しよう」と心の準備をする。自分からは求めていないタイミングでアドバイスされた時でも、「今なのかよ。ほかにやることがあるのに」などと思わず、聞いてみようという気持ちになることが肝要だという。

 次は、アドバイスされたことを試してみようという姿勢を持つこと。

 例えば、投手コーチから「カーブを覚えてみないか」と持ちかけられる。近年の野球では、プロでも質のいいスローカーブを投げられる投手は少ないゆえ、アマチュアなら大きな武器になるのと同時に、プロ入りの可能性を広げてくれるかもしれない。だが、アドバイスされる投手の気持ちが前を向いてくれないと、コーチが丁寧に指導してもものにならない。

 また、技術事には根気強く取り組むことが必要だが、最近の若い投手は数日やってもしっくりこないと、「自分にカーブは向いていない」と諦めてしまいがちだ。自分の意思を尊重してくれたり、肌に合うアドバイスをしてくれる指導者を求めるだけでなく、自分が所属するチームに、自分の成長を望んでいない指導者はいないと受け止め、カーブをマスターする努力をしてほしいと説く。

プロ入りできない選手の多くは実力不足なのではない

 そして、アドバイスを試す際には、“その気”になること。

 学校の授業だけで英会話を身につけるのは容易ではないが、英語圏で生活すれば思いのほか早くマスターできる。つまり、何事もマスターする際に必要なのは、本人が「自分には必要だから、どうしても身につけたい」と“その気”になることだ。

 では、野球はどうか。プロのスカウトに注目されるなど、ある程度のレベルまで上達したのに、最終的にはプロになれなかった選手は大勢いる。その大きな理由のひとつは、プロになれる能力を備えていたのに、それを発揮する方法を身につけられなかったこと。自分の能力を発揮する方法を、“その気”になって身につけなかったことだという。

 カーブを覚えればチャンスは広がるとアドバイスされたのなら、騙されたと思って取り組んでみればいい。もちろん、取り組んだ全員が成功するはずはなく、必死に努力しても身につけられない投手もいる。だが、その気になって取り組み、どうしても思い描いた成果を挙げられず、また別の取り組み方を探すという過程は、絶対に無駄にはならない。

 むしろ、自分にはどんな変化球が向いているのか、変化球をマスターするにはどう取り組めばいいのかなど、次のステップで役立つ知識や経験を手にすることができる。はじめから「カーブは自分に向いていない」と行動を起こさなかった投手に比べれば、一段階も二段階も進歩していると言っていい。

 落合は「厳しい言い方になるが、プロ野球界で生きてきた私の目で見て、あるレベルから伸び悩む選手の大半は、指導者や先輩のアドバイスを試そうとしない。自分の殻に閉じこもり、その気になっていない」と見ている。そして、こう結ぶ。

「自分の周りには、生きた教材がたくさんいる。望めばアドバイスをしてくれる指導者も揃っている。だが、他人から学べることには限界があり、最終的には自分自身で考え抜くしかない。ユニフォームを脱ぎたくなかったら、自分の身は自分で守るという意識を強く持ち、監督やコーチを“先生”ではなく、“自分が活用するアドバイザー”と考えて自己成長を目指してほしい」

 このように、教える側、教わる側がともに知っておきたい要素を豊富な経験からまとめた著書『決断=実行』が11月7日に刊行される。40万部超のベストセラー『采配』を7年ぶりにアップデートした落合は、何を語りかけるのだろうか。