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2年前のドラフト指名を辞退した板東湧梧(JR東日本)が本格化してプロ入りを目指す

横尾弘一野球ジャーナリスト
JR東日本のエース・板東湧梧は、静岡大会準決勝でJX-ENEOSを相手に好投。

 社会人野球の第65回JABA静岡大会は、4月7日に浜松球場で準決勝と決勝が行なわれ、若きエース・勝野昌慶が決勝でJR東日本を7回まで1安打に抑え込むなど、投打の歯車がしっかりと噛み合った三菱重工名古屋が12大会ぶり2回目の優勝を果たした。

 三菱重工名古屋にタイブレークの延長12回でサヨナラ負けを喫し、3年続けてあと一歩で優勝を逃しているJR東日本も、豊かな将来性を備えた若い選手たちが着実に力をつけているという印象。その中心にいるのが、本格派右腕の板東湧梧だ。

 徳島県出身で、鳴門高では入学直後からベンチ入りし、2年春から4季連続で甲子園に出場する。2年夏まで大舞台での登板はなかったが、秋の新チームでエースになると県大会で優勝。四国大会準決勝では済美高の安樂智大(現・東北楽天)に投げ勝ち、翌春は2試合、ベスト8入りした夏は4試合、甲子園のマウンドをひとりで守り抜く。

 その姿に注目した堀井哲也監督から熱心に誘われ、2014年にJR東日本へ入社。社会人野球に対する知識がなく、体力面でも成長途上にあったルーキーは徹底した体作りに取り組む。2年目には、7回コールド負けという大敗の中ではあったものの日本選手権に登板。そして、3年目はシーズンの開幕を告げる東京スポニチ大会で、準決勝進出をかけた大阪ガスとの試合に先発する。酒居知史(現・千葉ロッテ)との投げ合いでも一歩も引かず、3安打の1失点完投で見事に勝利に導くと、数球団のスカウトは徹底マークを開始する。

ドラフト指名辞退から3年目の本格的な飛躍

 この2016年のドラフトは、創価大の田中正義(現・福岡ソフトバンク)を中心に、東京ガスの山岡泰輔(現・オリックス)や酒居らが対抗馬。高校生では、履正社の左腕・寺島成輝(現・東京ヤクルト)が熱い視線を集めていた。板東も都市対抗東京二次予選準決勝で先発を任され、山岡に投げ勝つと、1位候補にもリストアップされるなど一気に評価を高める。

 都市対抗は、1年下の田嶋大樹(現・オリックス)が一回戦に先発し、完投したもののサヨナラ負け。晴れの舞台に立つことはできなかったが、板東のドラフト指名は間違いないだろうと見られていた。

 だが、ドラフト会議で板東の名前が呼ばれることはなかった。板東は、日本選手権前に右ヒジを痛めていた。また、プロ入りについて周囲に相談すると、「プロは入るだけでなく、活躍しなければ意味がない世界。JR東日本の絶対的エースになってからでも遅くはない」という助言に納得し、実は堀井監督に指名を辞退したいと申し出ていた。社会人の場合、指名の辞退を日本野球連盟に書面で提出(発表はされない)すれば、指名対象から外れる。ただ、板東の決断時には提出期限を過ぎており、堀井監督が指名を検討する球団に事情を説明して回避してもらったのだ。

 強い決意で臨んだ4年目――。しかし、板東の右ヒジの痛みはなかなか消えず、チームでは田嶋がフル回転。結局、ベスト8入りした都市対抗でも登板できず、田嶋が華々しくプロ入りするのを見送った。ただ、シーズン後半には右ヒジの痛みが消え、不安なく投げられる状態には戻った。

 堀井監督によれば、思い通りに投げられなかった約半年の間に、板東は必死に下半身や体幹を鍛え、トレーニングやコンディショニングに関しても色々と学んでいたという。その成果は、今年2月にアメリカ・フロリダ州で行なったキャンプで表れた。やや硬さのあった投球フォームに柔軟性が増し、8割の力でリリースしてもボールが走っているイメージ。しかも、捕手の背後から見ると角度もある。かつてニューヨーク・メッツのエースで、キャンプで臨時コーチを務めたドワイト・グッデンも絶賛した板東の投球が、実戦の中でどこまで進化していくのか楽しみだ。

 静岡大会では、リーグ戦第1戦でジェイプロジェクトを5回まで2安打無失点に抑えると、準決勝では名門のJX-ENEOSを相手に6回二死までひとりも走者を許さぬ快投。100球を超えた8回に2点を失ったが、伸びのあるストレートを軸にした投球も今季の板東にとっては序章に過ぎないのだろう。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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