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落合博満の視点vol.3『荒木雅博の通算2000安打は、練習は嘘をつかないことを証明する偉業』

横尾弘一野球ジャーナリスト

中日ドラゴンズの荒木雅博が、6月3日の東北楽天戦で史上48人目となる通算2000安打を達成した。残り10本を切ってカウントダウンになってから、監督、ゼネラル・マネージャーとして11年間、荒木と接してきた落合博満は「練習は嘘をつかないということを証明する偉業」と、達成の日を心待ちにしていた。

2003年10月に就任した落合監督は、秋季キャンプでの荒木の動きを見て、「飛び抜けた身体能力と底なしの体力。こいつを鍛えて“守り勝つ野球”を実践しよう」と考えた。そうしてスポットライトを浴びた荒木も、12球団一と言われた厳しい練習に食らいつき、2004年のペナントレースは初めて全138試合に出場。5年ぶりのリーグ優勝に貢献した。

特に、井端弘和(現・巨人コーチ)との二遊間コンビは抜群の安定感を誇る。6失策で守備率.992をマークし、ゴールデングラブ賞を手にすると、荒木は胸を張ってこう言った。

「138試合でいくつもの打球を処理しましたが、すべて北谷(春季キャンプ地)のサブグラウンドで受けたノックの時に見た打球だった。あれだけ練習すれば、こういう経験ができるのだと自信になりました」

もともと練習熱心だった荒木は、さらに練習の虫となる。6年連続ゴールデングラブ賞の守備と2007年に盗塁王を獲得した走塁は、チームにとっても大きな武器となった。ただ、打撃面では苦労した。自己最高打率は2005年の.300で、シーズン本塁打も2001、08年の4本が最多。一時はスイッチヒッターにも挑戦している。落合も、こんなエピソードを明かす。

「ある年のキャンプイン前日、荒木は私に『今シーズンは、ワンバウンドするような変化球を絶対に振りません』と宣言した。何かつかんだのかと楽しみにしていたが、今度は高目のボール球に手を出すようになった。本来なら『おまえはクリーンアップか』と注意したくなるところだけど、常に課題を見つけて克服しようと努力する男。堅実な守りでヒットをアウトにし、何点も防いでくれるのだから、バッティングには多少、目を瞑っていた」

それでも、2004年には1試合4安打以上を9回の日本記録を樹立。2008年のオールスターゲーム第2戦では3安打3打点でMVPに選出されるなど、固め打ちで存在感を示すこともある。そんな荒木に、落合も惜しまず賛辞を送る。

「守りと足で達成した2000本。それに、私が監督を務めた8年間、ずっと規定打席をクリアした唯一の選手だ。レギュラーになっても安泰と思わず、努力を続けたように、若手の手本になれる選手が達成したことにも大きな意味があると思う」

かつての名将から絶大な信頼を得ていたフォア・ザ・チームの男は、これからの目標を問われると、こう答えた。

「このチームが強くなっていくこと。心の底からそう思う」

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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