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メルカリは6万円「テレワーク手当」はIT以外の業界でも導入すべき?

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(写真:アフロ)

新型コロナウィルスの感染防止のため、テレワーク(リモートワーク、在宅勤務)を実施する会社が増えている。パーソル総合研究所が4月10~12日に行った調査によれば、テレワーク実施率は全国平均で27.9%。

政府が人と人との接触を8割減らす目標を掲げていることを考えれば、3割に満たない実施率は十分とは言えないが、緊急事態宣言がまだ出ていなかった3月と比べて2倍以上に増えている。

3月と4月のテレワーク実施率(出典:パーソル総合研究所 「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」第二回調査)
3月と4月のテレワーク実施率(出典:パーソル総合研究所 「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」第二回調査)

そんな中、自宅での仕事をスムーズにできるようにと「テレワーク手当」を出す会社が出てきている。

■各社のテレワーク手当の中身は?

新型コロナウイルス対策としてのテレワーク実施のために社員に手当を出している会社と手当の内容を一覧にした。

テレワーク手当を出している企業一覧(社名の五十音順)。各社の発表をもとに筆者が作成
テレワーク手当を出している企業一覧(社名の五十音順)。各社の発表をもとに筆者が作成

各社からの発表を元に、4月23日時点で筆者が把握したものに限るが、Webマーケティングやソフトウェアの開発・販売など、すべてIT系の企業である。そして、自宅でのテレワークの環境を整えるためであれば特に使途が限定されていないケースが多い。

これらの会社では大多数の社員が在宅で実施しやすい業務を担っており、社員によってテレワークできる(手当をもらえる)/できない(手当をもらえない)という不公平感が起きにくいことが、この種の手当を支給する判断につながりやすい面があるだろう。

また、一時金ではなく毎月支給していくことや、テレワークをした日数に応じて支給していくことを発表している企業の中には、新型コロナウイルスの問題が収束した後も、引き続きテレワークを積極的に取り入れて行こうという意思が見られるところもある

こういった事情を考えると、どんな企業でもテレワーク手当を出すべきとまでは言えない。

しかし、緊急事態宣言が出てやむを得ずテレワークをするようになった人たちの中には、在宅勤務の環境が整っておらず、「通信環境が不安定で仕事に支障が出ている」「集中できない」「腰痛・肩こりが悪化した」という声も聞こえてくる。生産性を上げるためにはそれらの問題を解消する必要があり、社員に手当を出すのは一つのやり方だろう。

また、手当を出すことは、会社から社員に「テレワークを推奨している」「社員の経済的負担や健康に配慮している」といったメッセージを伝えることになる。この状況下で不安やストレスを感じている社員のモチベーションを維持するための方法としても、参考になるのではないだろうか。

■手当の原資はどこから?

コロナ禍で業績が悪化しているのに、新たな手当なんて出してられないという会社も多いだろう。

事態が収束した後もテレワークを続けていくつもりの企業であれば、先行投資という考え方もできる。特に、業務の大半がテレワークで行われるのであれば、光熱費や通勤費、オフィス賃料などの出費が抑えられ、手当の分を回収できるのではないか。

例えば、2016年から全社員が基本的にはテレワークという働き方に転換したシックス・アパートは、毎月15,000円のテレワーク手当を支給している。新たな働き方に合わせて小さなオフィスに移転したことで、家賃・光熱費・定期代などを合わせて4000万円ほどのコスト削減が実現し、これがテレワーク手当の原資になったそうだ。(参考:2017年度「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」事例紹介資料

テレワークがいまの事態を乗り切る一時的なものでしかなく、そこまで投資できないという場合はどうするか。

そこは、十分な準備期間もなく不十分な環境で業務を行わなければならなくなった社員にどこまでの成果を求めるのか、ということだと思う。「こんな時期だから、みんな無理してでもがんばろう」ということだと、いつ終わりが来るかわからない状況のなか、気力や体力が続かなくなってしまう恐れがある。仕事をする上での障害を取り除くサポートができないなら、この間は無理をせず、成果が下がるのも仕方ないと認めることも必要だ。

■現物支給やベビーシッター補助など、ニーズにあったサポートを

手当が社員の精神的な支えになるという面もあるが、あくまでニーズに合ったものでなければ無駄に終わることもある。該当者が少なかったり、的外れ内容であった場合、「会社は現場のことを分かってない」とかえって社員のモチベーションを下げてしまう可能性もある

その点で、現金支給は個人によって異なるニーズに応える良い方法だ。ただ、「テレワークのための環境整備を」とお金を渡されても、何をすれば良いのか分からない人もいるだろう。

例えば、これからインターネットをつなげるようにするのであれば、まずはどんなサービスがあるのか調べるところから始めなければならないし、契約して使えるようになるまでに時間もかかる。せっかく契約しても、業務での使用に耐えるものでなければ意味がない。

そういうケースも考えると、会社がまとめて必要な機器を購入したりレンタルしたりして社員に貸与する方が、確実なサポートになることもある。ファイル共有やウェブ会議に使うソフトウェアやクラウドサービスなども、共通で使うべきものを会社が選定して契約すべきだ。

この場合、政府の補助金を使うことも考えられる。4月7日に閣議決定された補正予算案では、新型コロナウイルス感染症の経済的影響を緩和するため、従来のIT導入補助金に特別枠が設けられている(参考:IT導入補助金2020)。

また、テレワークの環境を整えるということ以外に必要とされている支援もあるだろう。学校や保育園が休みになり、子どもが家にいる状態で仕事が進まないという親もたくさんいる。そのため、ベビーシッターの費用を補助する会社なども出てきている。

誰も経験のない事態に直面し、「こうすればうまくいく」という正解はない。各企業は、早急に社員のニーズを把握するべきだろう。

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フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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