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どんな仕事を頼む? 給与や情報共有は? 副業者を雇う企業が解説

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
株式会社YOUTRUST 代表取締役の岩崎由夏さん

「人手は足りないが、フルタイムの社員を新たに雇うのは負担」、「稼働時間は少なくてもスキルや経験の豊富な人の手を借りたい」というニーズから、スタートアップや中小企業で他社の社員を副業者として受け入れる動きが広がっている。

18人のメンバーのうち3分の2がほかに本業を持つ“副業メンバー”であるというYOUTRUST 代表取締役 岩崎由夏さんに、副業メンバーのいる組織をマネジメントしていくコツを伺った。

■副業者は誠実に仕事をし、会社は適正な対価を払う。信頼を重視するからできる相互関係

ーー 前回のインタビューでは、御社のサービス「YOUTRUST」の運営に関して、ITエンジニア、営業、マーケティング、企画など、様々な役割で副業メンバーが関わっていることが分かりました。

皆さんそれぞれに副業に費やす時間や成果は異なるわけですよね。報酬はどのように決められているんですか?

岩崎:時間給を決めて稼働時間に対してお支払いする場合と、月額固定でお支払いする場合と、2パターンあります。

ーー どちらにするかは、本人の希望で決めるんですか?

岩崎:基本的にはそうです。希望がない場合は、仕事内容によって決めます。例えば、エンジニアやデザイナーについてはアウトプットの量が稼働時間に比例しやすいので時間給にすることが多いです。一方で、人事や企画みたいなものは時間だけでは成果がはかりづらいので、最初に「ここまでのことをやってほしい」というすり合わせをして、固定給にしています。

ーー 具体的な金額については、なにか基準があるんですか?

岩崎:本業での年収を元に、大体の時間給を計算して適用することが多いです。

ーー ベテランの方だと、結構高くなるでしょうね。

岩崎:はい。1万円くらいになる方もいらっしゃいます。

ーー 時間給の場合、稼働時間は自己申告ですよね? ちゃんと正直に申告してくれているのか、という不安はないですか?

岩崎:そこは信頼関係に基づいてやっています。人によっては、Slackで日々の稼働状況をマメに知らせてくれて、月末にそれをまとめたものを請求としてくださる方もいます。

ーー なるほど。月額固定の場合、「期待していたほど仕事してくれなかったな」といったギャップがあったりすることはないですか? 特に副業だと、本業の状況によって思ったほどできなかった、ということもあるのではないでしょうか。

岩崎:そういうときは、「今月は全然時間がとれなくて、思ったほどのアウトプットができなかったので半額で請求します」とか、皆さんの方で判断して減額されることはありますよ。

ーー 成果と報酬のバランスを双方で納得できる形にすり合わせるのは、結構難しそうです。

岩崎:場合によっては難しいですよね。私たちは、みんなもともとの知り合いか、知り合いの知り合いという関係性があるんです。下手なことをすると、その人自身の信頼度や、そのコミュニティの信頼度が下がってしまう。それがお互いに誠実な行動をとる理由かもしれませんね。

ーー それは、YOUTRUSTさんの側が副業メンバーの方を安くこき使ったりしないということにもつながりますね。

岩崎:そうなんです。会社としても個人としても、信用というのはとても大事だと思っていますので、不当に高く請求したり、不当に低くオファーしたりということはやりません。

■副業メンバーには「重要度高/緊急度低」の仕事を

ーー いくら信頼関係があっても、ほかに本業があって、こちらの指示にいつでも応えてくれるというわけではない副業メンバーのマネジメントというのは難しそうです。なにかコツみたいなものはありますか?

岩崎:副業メンバーにお願いすべき仕事と、そうでない仕事というのはありますね。重要度と緊急度のマトリクスを描いた時に、重要度が高く、かつ緊急度が低いものを、副業メンバーにお願いするようにしています

それと、中長期的にお客様とおつきあいする仕事については経営者や正社員がやります。同じメンバーが長く担当できた方がいいですし、平日日中のお問い合わせなどにもすぐに答えられた方がいいですからね。

ーー なるほど! そういうことは、最初からうまくできていたのですか?

岩崎:失敗もありましたよ。

例えば、創業以来サービスの内容を企画するのは私の役割だったんですけど、正直言って苦手意識がありました。だからサービス企画のプロが副業で来てくれることになったとき、「やった、プロが来た!」と、その人に全部お任せしてしまったんです。そしてしばらく経ってから、「あれ? サービスの改善があまり進んでないな」と気づいて……。

その人はプロだとは言っても本業があるので、本業と同じようなスピード感ではできないわけです。私はそれをすっかり忘れて、どんどん進むことを期待していたんですよね。自分が苦手なことをやってくれる人がきてくれたというので、すっかり舞い上がってしまってました。

ーー 丸投げはよくないということですか?

岩崎:内容によります。緊急度が低いものについては、相手がプロなら信頼して任せればいいと思います。ただ、緊急度が高いものはこちらでコントロールしなければいけませんね。

「YOUTRUST」を利用されている会社さんでも、副業メンバーをうまく活用できなかったという場合は緊急度の高い仕事をお願いしてしまっているケースが多いです。そうなると会社側は「急いでるのに全然やってくれない」と思ってしまい、副業の方からすると「できるわけない」という状況になりますよね。

ーー とても重要なポイントですね。ほかに、副業メンバーに仕事をお願いするときの注意点はありますか?

岩崎:副業の方にどこまで情報共有するのか、ということはしっかり設計しなければいけません。極端な場合は、「社員じゃないから」とほとんど情報共有しないという会社もあります。私たちは逆に、ほとんど社員と変わらないアクセス権限を渡しています。

ーー それは、なぜですか?

岩崎:相手がプロの場合、なるべく情報を開示した方が良いアウトプットにつながると思うからです。例えばマーケティングのプロであれば、マーケティングに関しては私たちよりも詳しいわけです。見せられるものは全部お見せした上で、その方に必要な情報を判断してもらうようにしています。

YOUTRUSTのオフィス。副業メンバーも打ち合わせなどの必要があればここに来るほか、月に1度は全員が集まって一緒に食事をする
YOUTRUSTのオフィス。副業メンバーも打ち合わせなどの必要があればここに来るほか、月に1度は全員が集まって一緒に食事をする

■副業メンバーが全体の3分の2で、会社は回る?

ーー お話を伺って、副業メンバーには緊急度の高い仕事はお願いしない、ということが大きなポイントだと分かりました。

ただ、それだといくら副業メンバーがいても、正社員の大変さが軽減されないような気もします。特に御社のようなスタートアップだと、即時判断、即時対応が求められることも多そうです。3分の2が副業メンバーという状態で、仕事が回りますか?

岩崎:それは、あまり考えたことがなかったですね……。

ーー じゃあ、あまり困っていないんですね?

岩崎:そうですね。わりと大きな会社を辞めてスタートアップを立ち上げてみて初めて気づいたんですけど、スタートアップだから忙しい部分と、スタートアップだからゆとりがある部分があるんですよ。

ーー と、いいますと?

岩崎:スタートアップって、人が少ない分、ミーティングがあまりないんです。大きい会社は、毎日ミーティングが3本とか4本とか入っていて、勤務時間のうちの半分がミーティングだったりします。今はそういうのがない分、少ない人数でも多くの仕事ができるんです。

ーー 確かに、判断にかかる時間も少なくすみますね。

岩崎:私も、スタートアップはすごく忙しいというイメージがあったので、最初は「なんでこんなに暇なんだろう」と不安になったんですけど(笑)、ミーティングがないからだと途中で気がつきました。

誰かに相談する必要がない、というより自分で決めるしかないので速いんです。会社勤めの時に効率よく仕事をする習慣を身につけたということもあるかもしれませんが、今のところ緊急度の高い仕事が溜まって困る、ということはありませんね。

ーー 自分でやるべきことと人に任せることをうまく切り分けていらっしゃるんでしょうね。素晴らしいです。

■副業採用から正社員獲得につなげたい中小企業へのアドバイス

ーー YOUTRUSTさんで副業を経て社員になった方は、最初からその可能性を考えて副業を始めたのですか?

岩崎:ひとりは最初から転職の可能性あり、という前提で副業をしてもらってました。もうひとりは、本業の方で転職したばかりだったので、うちで社員になる気は全然なかったんです。

ーー その気はなかったのに、もう一度転職することになったんですね。

岩崎:そうなんです。

ーー この記事を読んで、うちでも副業の人を採用してみよう、そしてゆくゆくは社員になってもらえたらいいな……と考える会社さんも出てくると思うのですが、何かアドバイスはありますか?

岩崎:「YOUTRUST」を利用する企業さんにもよくお伝えすることなんですが、副業で来られた方に「嘘をつかない。ありのままを見せる」というのは大事です。ありのままを見てもらった上で「社員として働きたい」と思ってもらえなければ、意味がないですからね。

もうひとつ、これは小手先のワザですが、最初の契約は1ヶ月か2ヶ月で区切って更新するようにすること。そして、最初の段階で「1ヶ月か2ヶ月一緒に働いた上であなたに来てもらいたいと思ったら、フルタイムの社員になってほしいと口説きますよ」と予告しておくといいです。

そうすると、その人は「口説かれるかもしれない」と思って働くし、実際2ヶ月後に「社員にならない?」と言われたらまんざらでもない気持ちになりますよね。逆に予告なしにいきなり口説くと、「ちょっと小遣い稼ぎをしようと思っただけなのに、面倒くさいな」と思われてしまうこともあります。

ーー 「社員候補として見てますよ」と伝えておくんですね。最初にそう言われれば、その気がない場合もそう伝えやすいし、いいですね。

岩崎:逆に、1〜2ヶ月働いてもらって「この方は自社にはフィットしないな」と思えばダラダラ続けずに契約を終わらせることも、お互いのためです。

ーー なるほど。副業者の方で「この会社は違う」と思えば、契約を更新しないこともできますね。お互いに緊張感をもって仕事ができそうです。

副業の広がりをきっかけに、会社と個人の関係も変わっていきそうだと感じました。

今日は参考になるお話を、ありがとうございました。

(写真はすべて筆者撮影)

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』(http://mydeskteam.com/ )を運営中。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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