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EV新時代/どうなるガソリン車、ディーゼル車  電気自動車に駆逐されず生き残るワケ

安井孝之Gemba Lab代表 フリー記者
新型ディーゼル車の発表会で質問を受ける小飼雅道マツダ社長(右)=(筆者撮影)

EV旋風が吹いている。自動車の主要市場、欧州や中国でガソリン車、ディーゼル車の販売禁止の動きが出て、EVが従来型のエンジンを駆逐する、という見方も出ている。EVが「実用化」を目指す新時代に入ったのは事実であるが、あと20年や30年でガソリン車もディーゼル車もなくなるとは思えない。

9月はEVを巡るニュースが駆け巡った。日産自動車が航続距離を400キロに伸ばした新型リーフを発表し、西川廣人社長が「EVは普通のクルマになった」と新時代を宣言した。ドイツで開かれたフランクフルトモーターショーでは主要メーカーが新型EVを発表し、「電動化」への動きが加速。日産のカルロス・ゴーン会長はフランクフルトで仏ルノーと三菱自動車を含めたグループで2022年に世界販売台数は1400万台になり、そのうち3割が電動車両になると見込む中期経営計画を発表した。

欧州で起きたディーゼル車の排ガス不正問題から欧州ではEVシフトが始まった。中国でも環境問題が深刻になるとともに、EV開発をテコに中国の自動車産業の振興を進めようとする中国政府の思惑もあり、EVシフトが進む。米国ではイーロン・マスク氏が率いるテスラが高級EVから量販EV「モデル3」にも進出し、50万台の受注を獲得したという。

こうしたニュースをみると、EV新時代の到来と言えるのは確かだ。だが、20~30年後にEVが世界の自動車市場の過半を占め、EVが世界どこでも走り回っているという将来絵図を描くとすれば、それはいささか楽観的過ぎる。

依然として課題が多いEV

これまでEVの課題として挙げられてきたのは、(1)航続距離の短さ(2)充電時間の長さ(3)電池寿命(電池の劣化問題)(4)価格の高さ、などだった。航続距離や電池寿命、価格は徐々に改善してきたが、依然として充電時間は急速充電でも1時間近くかかる。新型リーフの400キロという航続距離は平日に通勤や買い物に使う程度なら十分の距離だが、長期休暇に家族で遠出となればやや不安になる距離である。ましてや夏場や冬場のレジャーに行くとすれば車内の冷暖房はフル稼働する。そのための電気消費量で航続距離は短くなっていく。特に冬場はEVが不利だ。ガソリン車やディーゼル車ではエンジンの排熱を利用し、暖房に使えるが、EVでは無理。温風をつくらねばならず、そのための電気消費が増えてしまう。

こうしたEVの課題や現状については、ここではこれ以上、詳しくは書かないが、EVの現状は消費者をすべて満足させるものかというと、そうではない。ある一定の使い勝手に限れば「不便はあまり感じない」という段階だ。まだまだ改善の余地は残っている。

詳しくは以下のサイトでモータージャーナリストの清水和夫さんと対談したので、参考にしていただきたい。

http://president.jp/articles/-/23052

http://president.jp/articles/-/23053

http://president.jp/articles/-/23114

http://president.jp/articles/-/23120

http://president.jp/articles/-/23152

マツダは「マルチソリューション」

EV旋風の中で、マツダは14日、クリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D 2.2」を搭載した新型SUV「CX-8」の発売(12月14日から)を発表した。その発表会の席上で小飼雅道社長は「マツダはマルチソリューションを目指す」と語った。世界の中で地域ごとに特性、規制に合わせて、さまざまなパワートレインを提供しながら、環境問題を克服するという考え方。EVだけでは世界の環境問題は改善できないという。

ディーゼル車は欧州で悪者にされ、逆風が吹いているが、もともとはガソリン車に比べCO2排出量は少ないクルマだ。その代わりにNOxなどの排気ガスの処理が問題だったが、マツダは排ガス問題をクリアし、クリーンディーゼル技術を確立した。ディーゼル車は排ガスをきちっと処理できれば、エコカーとして有力な選択肢だったのに、フォルクスワーゲンの排ガス不正で苦境に陥ったに過ぎない。石炭火力発電で発電した電気をEVに充電した場合、CO2排出量をWell to Wheel(油田から車輪まで)でみるとEVは必ずしもCO2削減に貢献しない。ディーゼル車も十分、競争力を持ちうるものだというのがマツダの主張だ。

マツダはトヨタ自動車と提携し、ハイブリッド(HV)やプラグハイブリッド(PHV)、EV、燃料電池車(FCV)などの技術をトヨタから導入できることになった。マツダはトヨタとの提携を活用し、複数の形のパワートレインを組み合わせて、クルマと環境との共生を目指すと考えだ。

こうした考えはマツダに限らない。トヨタやホンダはガソリン車、HV、PHV、EV、FCVを自社開発し、全方位で環境問題に対応する考えだし、独ダイムラーはEV開発にも力を入れるが、今後10年間でガソリン車の開発に100億ユーロを投入する方針。今回のフランクフルトモーターショーでは新型FCVも展示し、FCVの開発にも余念がない姿勢を示した。

「電動化」には内燃機関の活用も

EVに依然として課題があることはすでに述べた。その課題を解決するための具体的な方策は、日産ノート「e-POWER」や「レンジエクステンダー」と呼ばれている小さなエンジンを発電機として搭載しているEVだ。e-POWERはエンジンで発電した電気でモーターを動かす「充電しないEV」、レンジエクステンダーは電池が切れそうになったら、小さなエンジンで発電し、急場をしのぐEVだ。いずれもEVの航続距離や充電時間・充電インフラの課題を内燃機関との組み合わせで克服したクルマだ。

近距離の移動や都市部で求められるゼロエミッションを実現するための方策としてEVは有力かもしれないが、消費者の様々なニーズにこたえるクルマをEVだけでつくるのは難しいのが現実だ。EVへの過度な傾斜は長い目で見れば消費者目線で考えると、不便なモビリティ社会を招くかもしれない。

消費者に受け入れられ、環境にも優しいモビリティ社会を世界中でつくるとすれば、ガソリン車、ディーゼル車、EV、HV、PHV、FCVなどを適材適所に組み合わせて作り上げるしかない。最適解はEVだけでは導けないのだ。

Gemba Lab代表 フリー記者

1957年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部卒、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年、朝日新聞社に入社。東京経済部、大阪経済部で自動車、流通、金融、財界、産業政策、財政などを取材した。東京経済部次長を経て、05年に編集委員。企業の経営問題や産業政策を担当し、経済面コラム「波聞風問」などを執筆。2017年4月、朝日新聞社を退職し、Gemba Lab株式会社設立、フリー記者に。日本記者クラブ会員、東洋大学非常勤講師。著書に「2035年『ガソリン車』消滅」(青春出版社)、「これからの優良企業」(PHP研究所)など。写真は村田和聡氏撮影。

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