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テレビ朝日 玉川徹氏国葬「電通」発言全文 何を語り、何を謝罪したのか 一部報道の文字起こしは不正確

楊井人文弁護士
9月28日放送「羽鳥慎一モーニングショー」で発言する玉川徹氏(筆者撮影)

 安倍元首相の国葬について伝えたテレビ朝日の情報番組「羽鳥慎一のモーニングショー」で、同社社員のコメンテーター、玉川徹氏が、菅義偉元首相の弔辞に関する出演者との議論の中で「電通」の関与に言及し、翌日、事実でなかったとして訂正、謝罪した。その後批判の声が高まり、テレビ朝日が玉川氏を10日間の出勤停止処分とし、波紋が広がっている。

 ここにきて、玉川氏の発言は、国葬の演出に電通が関わったことを指摘したものであって、菅元首相の弔辞が電通の演出によるものだと言っていたわけではないとの指摘も出るなど、発言の趣旨や処分の妥当性も議論になっている。

 そうした中、玉川氏の「発言全文」として一部メディアが報じた記事が、不正確な内容だったことが判明した。

 この「発言全文」記事では、玉川氏の問題発言の直前になされた別の出演者の発言がまるまるカットされていた。そのため、この記事を読んだだけでは、玉川氏の「電通」発言は菅元首相の弔辞に関する文脈でなされたものかどうか、判然としない印象を受ける。

 この不正確な「発言全文」記事を配信したのは、10月5日付のデイリースポーツYahoo!ニュースも配信)。この他に、より正確な「発言全文」記事は確認できておらず、一般読者は放送を視聴していなければ、実際の発言を確認しづらい。

 そこで、今後の玉川氏の発言趣旨をめぐる議論が混乱しないよう、録画に基づき、玉川氏の問題発言とその前後の発言も含めた文字起こしを掲載する。また、翌日放送における玉川氏の謝罪発言も掲載する。

 なお、同番組の国葬を取り上げたコーナーは非常に長く、全ての文字起こしを掲載することはできない。この文字起こしは、あくまで問題となった発言とその前後の発言だが、後の出演者の発言も含めて、省略せずに掲載した。

(羽鳥=羽鳥慎一キャスター、玉川=レギュラーコメンテーター・玉川徹氏、浜田=コメンテーター・浜田敬子氏、安部=コメンテーター・安部敏樹氏。以下、敬称略)

2022年9月28日(水)放送 文字起こし(問題発言の前後)

(羽鳥キャスターが菅元首相の弔辞の内容をパネルで振り返った後で)

羽鳥「・・・菅さんの弔辞に葬儀でありながら拍手が起こったという…」

浜田「一連の報道の中でも一番話題になっていたのは、この菅さんの弔辞でしたよね。先ほどもおっしゃいましたけど、なぜこれを総理時代にこれくらいのスピーチを菅さんできるんだったらやらなかったんだろうなと思いましたよね。

 やっぱりそれは、一番言葉を尽くさなければならない相手は誰に対してかと言うと、やっぱり国民に対してだと思うんですね。安倍さんも、親しい人に聞くと本当に優しい人だと聞くんですよ。自分と近い考え方の人とかにはたぶん言葉を尽くされたり非常に感情のこもったことを話されると思うんですね。菅さんもそうだったかもしれないですけども。

 やはり首相とか総理という立場になったら、会見とか、菅さんの場合、官房長官の会見が鉄面皮のような受け答えだったわけですよね、何を聞いても同じことしか返ってこない。そのときにこれくらい、なぜ私はこの政策を進めたいのか説明し納得してもらうというような、時には菅さんの素顔も見えるような、やはり政権運営をしていたら色々な逡巡もあるからというな、生身の部分も見えたら、もっとやはり私たちの感情も違っていたかなと思います。」

羽鳥「何人か弔辞、スピーチもありまして、やはり菅さんが一番刺さったかなという感じがありますけど、玉川さんいかがですか。」

玉川「これこそが国葬の政治的意図だと思うんですよね。当然これだけの規模の葬儀ですから、儀式ですから、荘厳でもあるし、個人的な付き合いのあった人は当然悲しい思いをもってその心情を吐露したのを見れば、同じ人間として、胸に刺さる部分はあると思うんですよ。

 しかし、それは例えばこれが国葬じゃなくて、自民党内閣葬だった場合、テレビでこれだけ取り上げたり、この番組でもこうやってパネルで取り上げたりさっきのVTRで流したりするかというと、なってないですよね。国葬にしたからこそ、そういった部分を我々は見る、見る形になる、僕も仕事上見ざるを得ない状況になる。

 それって例えばですね、自分では足を運びたくないと思っていた映画があったとしても、なかば連れられて映画を見に行ったらなかなかよかったよと。そりゃそうですよ、映画を作っている方は、意図があって楽しんでもらえるように、それから胸に響くように作るんです。

 だからこういう風なものも、我々がこういう形で見ればですね、胸に響く部分はあるんです。それはそういう形として国民の心に残るんですね。国葬というのはありました、あのときにああいうふうな胸に刺さる言葉がありました。いうふうに既成事実として残るんですね。これこそが国葬の意図なんですね。

 だから僕は、国葬自体が、やっぱりない方がこの国にはいいんじゃないか。これが国葬の政治的意図だと思うから。」

羽鳥「そっか、なるほどね(筆者注:少し沈黙)。私はここの部分だけちょっと違う感じがしたなと思いますけど。安部さんはいかがですか。」

安部「そうですね、玉川さんのおっしゃているような政治的意図が出てくる可能性がやっぱりあるなと思うので、その点は留保しなきゃいけないなと思うのですけど。

 僕がすごく思うのは、菅さんのスピーチは私自身も読んだり見たりしてすごく感動したんですけど、多分いまの現代の生きている日本の国民の多くの人は、これ政治利用だな、と思うものに対してけっこう鼻がきくようになっていると思うんですよね。

 鼻がきくようになっているなということ自体も菅さんとか政権にいる人たちも理解していて、だからそういうことを出してもどうせうまくいかないからやりたくないと。菅さん、例えばですね、私ガースーですって言ってめちゃくちゃすべったりしてですね、大失敗して人気が下がったという話もあったわけですけど、そういう意味である程度いまの政権にいる人たちは意図的にやったことが見透かされてしまう時代に生きていると。

 多分これは見透かされる可能性があるとか関係なく、菅さん自身が思ったことを言ったからこそ響いていると思っていて。

 そういう意味で、国葬というものが政治利用される可能性があると玉川さんが指摘するのは非常に健全なことだと思うのでいいと思う一方で、このスピーチ自体が多くの人に対して響いたのは政治的意図を超えたもので、個人としての感情として彼がお話になったのがよかったんじゃないかと思いましたけどね。」

玉川「僕は演出側の人間ですからね。テレビのディレクターをやってきましたから。それはそういう風に作りますよ、当然ながら。政治的意図がにおわないように、それは制作者としては考えますよ。当然これ電通が入ってますからね。

安部「これはわからないですよ…」

羽鳥「いや、そこまでの見方をするのか、それともここは本当に自然に言葉が出たのか、見方はいろいろ…」

玉川「いや、菅さん自身は自然にしゃべっているんですよ。でもそういうふうな、届くような人を人選として考えているということだと思うんですよ。」

安部「玉川さんがこれ言っているのが面白いと思うんですよね、僕はね。テレビっていうある意味そういう仕組みじゃないですか。」

玉川「そうそう…」

安部「テレビっていうのは番組をみてそのコンテンツの間に広告をはさんでビジネスが成り立っているわけですから、広告の話っていうのは、ある種国葬的な政治利用の観点に近いような構造があったりするんだと思うんですけど、その上でたぶん、そこのところは多くの人が鼻がきくようになっているんじゃないかというのが僕の考え方なわけですよ。どうですか、それは。」

玉川「まあ、それは演出家の考え方でね。」

安部「なるほどね…」

(国葬の席次の話題にうつる)

※ 「電通」発言直後の安部氏の発言を追記しました。「聞き取り不能」だった安部氏の発言(「玉川さんがこれ言っているのが面白いと思うんですよね、僕はね」の部分)も加筆修正しました。(10/10)

2022年9月29日(木)放送 文字起こし(訂正謝罪部分のみ)

羽鳥「ここで昨日のパネルコーナーで玉川さんが発言したことについて、玉川さんから」

玉川「はい、昨日のパネルコーナーの中で、私が安倍元総理の国葬に電通が関与しているとコメントしたんですけども、この発言はですね、事実ではありませんでした。

 さらに電通はですね、全く関わっていないということがわかりました。

 関係者の皆様、それから、視聴者の皆様、訂正して謝罪いたします。申し訳ありませんでした。(筆者注:頭を下げる)」

発言「趣旨」は解釈が入るが、客観的な事実は

 裁判所や放送倫理・番組向上機構(BPO)でテレビ放送を取り扱う場合「一般的な視聴者の普通の見方」を基準に、その内容を特定することが一般的となっている。

 そうはいっても、ひとりひとりの視聴者の実際の視聴直後の認識を把握することはできないから、「一般的な視聴者の普通の見方」を仮想しつつ、判断する側において、発言の趣旨を解釈し、特定することになる。

 このように、放送内容やその際の発言の「趣旨」については、どういう映像・音声を放送したかという客観的事実とは別に、どうしても主観的な解釈が入ることは避けられない。

 とはいえ、今回の玉川氏の発言起こしからは、少なくとも次の事実が、客観的に確認できると思われる。

◯ 当初、羽鳥キャスターが「やはり菅さんが一番刺さったかなという感じがありますけど、玉川さんいかがですか」と、菅元首相の弔辞に関する所見を玉川氏に求めた際、玉川氏は「国葬の政治的意図」について持論を述べていた。

 この発言シーンでは、「菅元首相の弔辞」への「電通」を含む他者の関与など具体的事実には言及していなかった。

◯ 玉川氏の「電通」発言は、コメンテーターの安部氏が「(菅元首相の)スピーチ自体が多くの人に対して響いたのは政治的意図を超えたもので、個人としての感情として彼がお話になったのがよかったんじゃないかと思いましたけどね」と発言したことを受けて、飛び出したものであった。

 その際、玉川氏は「当然」という表現を二度使い、推測ではなく、事実であるかのように断定的に主張した。このときの発言では「国葬全体の演出」と明示的に断るなど、菅元首相本人の自然な言葉の発露ではないかという安部氏の発言の文脈を遮断することなく、「電通」の関与に言及していた。

◯ 玉川氏の発言について、羽鳥キャスターは「電通」発言の根拠を問うことはせず、他の見方がある可能性を示唆するにとどめた。

 これを受けて、玉川氏は再び発言し「菅さん自身は自然にしゃべっているんですよ。でもそういうふうな、届くような人を人選として考えているということだと思うんですよ」と述べた。

 ここで、玉川氏は、菅元首相自身は自然に弔辞を読んでいたとの認識を示していたが、安部氏の発言や自ら「電通」に言及した文脈を遮断することなく、菅元首相を起用した「人選」への関与に言及していた。

◯ 玉川氏は翌日放送の謝罪発言において「私が安倍元総理の国葬に電通が関与しているとコメントしたんですけども」と述べており、菅元首相の弔辞についての言及はなかった。

 この謝罪発言を文字通り受け止めれば、玉川氏は「国葬に電通が関与していた」という趣旨に限って訂正、謝罪したのであって、「菅元首相の弔辞(あるいは人選)に電通が関与していた」という趣旨について明確に訂正、謝罪したわけではない。

 以上の事実関係を踏まえて、玉川氏の発言意図は何だったのか、発言の前提となる事実についてどれほどの取材、調査を尽くしていたのか、発言によって一般的視聴者がどのような印象をもつのか、それに対する謝罪放送の内容は妥当だったのか、などの論点を冷静に評価し、議論することが求められる。

これまでの経緯

9月27日(火) 安倍元首相の国葬儀挙行

9月28日(水) テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」で国葬を取り上げ、玉川氏が「電通」の関与に言及。

9月29日(木) 同番組で玉川氏が「安倍元総理の国葬に電通が関与している」とコメントしたことについて事実ではなかったとして謝罪。

9月30日(金) 西田昌司参議院議員がビデオレターで玉川氏の処分を要求。

10月4日(火) テレビ朝日社長が定例会見で玉川氏の発言を謝罪。同日付で玉川氏を10日間の出勤停止処分とすることを発表。(NHK

10月5日(水) 「羽鳥慎一モーニングショー」で羽鳥キャスターが玉川氏の謹慎処分を説明し、謝罪。玉川氏の番組復帰は10月19日(水)と説明。

同日 デイリースポーツが玉川氏の9月28日放送の「発言全文」と称する記事を配信(→不正確な文字起こし)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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