西村康稔経済再生大臣(コロナ担当兼務)は7月13日の記者会見で、特措法に基づく休業要請等の対象となる飲食店対策のため、メディア・広告業界に何らかの要請を行うことを検討していることを明らかにした。

 金融機関への働きかけ要請や酒類販売事業者への取引停止要請には法的根拠がなく、憲法違反などの批判を受け、2件の文書の撤回に追い込まれた。

 一方で、メディア・広告への要請も、報道・表現の自由との関係で問題となる可能性があるが、何らかの働きかけを検討している事実は否定していない。

記者会見で表明した「関係機関への依頼」にメディアも

 西村大臣は、東京都に4回目の緊急事態宣言を発出することが決まった7月8日夜、緊急会見で、飲食店対策として、(1)金融機関、(2)メディア・広告、(3)酒類販売事業者に協力を依頼する方針を明らかにしていた。

7月8日の西村大臣の記者会見で配布された資料(大手メディア記者提供)
7月8日の西村大臣の記者会見で配布された資料(大手メディア記者提供)

 このうち、メディア・広告業界への依頼について、西村大臣は8日の会見で「メディアや広告で扱う際に、遵守状況について留意していただくよう依頼を検討しております」と表明。

 13日の会見では、要請に応じなかった飲食店に命令を行った際には公表できることを踏まえ「公表された事実にも留意していただけるよう何らかの対応ができないか検討している」と言及した。

 さらに「公表された店舗は取り上げるべきでないという趣旨か」との記者の質問に対しては、明確に否定せず、「事実として公表がなされた場合にですね、これは周知の事実になりますけれども、そういったことを踏まえて何か対応ができないかということを検討している」と答えた。

 西村大臣は、具体的な内容は決まっていないとして明らかにしなかったが、何らかの検討を行っている事実を認めた形だ。

 だが、東京都では従来、時短・休業命令を出しても、店舗数だけ発表し、具体的な店舗名を明らかにしていないため()、店舗を特定して報道することは事実上できない(首都圏では、埼玉県=まん延防止等重点措置の適用=だけが店名を公表している)。

 一方、命令を受けたことを自ら公表し、提訴したケースは、社会的注目度が高く、多くのメディアが報道している。要請に応じていない飲食店が、取材を受け報道されることもある。飲食店の営業状況がみられるグルメサイト等もある。

 こうした情報発信について、メディア等に何らかの要請を行うことを検討している可能性がある。

 いずれにせよ「検討」を継続している限り、報道への介入に敏感なメディアの追及を受けることは必至だ。

要請不協力を理由にした不利益取扱いは違法

 西村大臣が8日に発表した飲食店対策のうち、2つは撤回された。

 いずれも法的根拠がなく、営業・取引の自由を制限するもので、憲法違反に加え、法令違反(違法)行為だった疑いがある。

 西村大臣が所管する内閣官房の新型コロナ対策推進室は、昨年4月、特措法上の「要請」は行政手続法上の「行政指導」にあたるとの見解示していた(その後、法改正で「命令」が可能になったが、「要請」が行政指導であることに変わりはない)。

 行政指導は任意の協力を前提にしており、不協力を理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されている行政手続法32条2項)。

 飲食店にとって酒販売事業者の取引停止をされることは「不利益」にほかならず、行政手続法違反になる。だが、この要請文書を出した内閣官房は、行政手続法の検討を怠っていたという(山尾志桜里議員の調査)。

 メディア・広告業界への何らかの要請も、それが休業要請等に応じていない飲食店にとって「不利益」となるものであれば、同様に行政手続法違反の問題となり得る。

免許権限のある国税庁を通じて要請 事実に基づかない釈明も

 金融機関に対する融資先飲食店への働きかけについては、関係省庁に通知したものの、実際に金融機関に依頼を行う前に撤回(9日)したため “未遂” にとどまった。

 一方、酒類販売事業者への取引停止依頼は、業界団体に通知を行っており、要請に応じて加盟社に通知した団体もあった。いわば “既遂” だったため、改めて業界団体に廃止の周知を求めることとなった。

 これまでの西村大臣の説明も、事実に基づいていると言えない。

 13日夜、「それぞれの事情に応じ可能な範囲で協力をお願いする趣旨」だったと弁解したが、実際の文書にはそうした趣旨の文言はなく、「当該飲食店との取引を停止するようお願いします」と選択の余地のない表現になっていた。しかも、わざわざ酒業者の免許権限を握っている国税庁酒税課と連名で出しており、「従わなければ不利益を受けるかもしれない」と思わせる狙いがあったとも指摘されている

 金融機関への働きかけ依頼についても、西村大臣は「決して融資を引き上げるという趣旨ではありませんでした」(13日会見)と釈明した。

 だが、当初の8日会見では、「融資の引き上げを期待するのか」という記者の問いを否定せず、「遵守していただけるように金融機関からも働きかけを行っていただきたい」と述べていた。実際、財務省や経産省などの金融関係部署とも調整が行われていた。

 麻生太郎財務大臣は、事前に説明を受けた際、融資を止める話と認識し、「普通に考えておかしい」と思ったと吐露している

ほかにも違憲違法な措置に関与の疑い

 8日の会見資料には「要請等に応じない店舗への命令・罰則の厳正適用を更に強化」とも書かれ、積極的に命令を出すことを奨励する方針のようにみえる。

 だが、特措法上、要請に応じないからといってただちに命令が出せるわけではなく、「特に必要と認められるときに限り」という要件がある。

 内閣官房は4月、命令発出の必要性について合理的説明ができるか慎重に判断するよう、自治体に注意喚起する内容の事務連絡を出していたが、西村大臣の方針はそれと矛盾しかねない。各地で威嚇、制裁目的と疑われる命令が相次ぎ、違憲の疑いも出ているが、こうした状況に拍車をかけるおそれがある。

 西村大臣がコロナ対策の担当相として違憲性、違法性が疑われる措置に関与した事案は、これだけではない。

 4月23日、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置のいずれでも「酒類提供停止措置」ができるように厚労省告示改正が行われた。西村大臣が率いる内閣官房新型コロナ対策室が主導したとみられる(新型コロナ担当の内閣官房審議官が国会で説明し、西村大臣が記者会見で表明)。

 だが、もともと西村大臣は、特措法改正法案の審議で「まん延防止等重点措置では営業時間の変更というものは最も私権の制約が大きいものと考えております」と明言し、政令改正では休業要請はできないと言っていた。この国会答弁を覆し、重点措置でも居酒屋・バーなどの事実上休業させることを意味する措置ができるよう告示改正がなされたのは、「特措法の委任の範囲を超えて違法の疑い」(曽我部真裕・京都大教授)がある。

東京都の飲食店営業制限は8月22日(宣言期限)で連続260日を超える。筆者主宰「コロナ禍検証プロジェクト」作成
東京都の飲食店営業制限は8月22日(宣言期限)で連続260日を超える。筆者主宰「コロナ禍検証プロジェクト」作成

 また、第3次緊急事態宣言(4月25日〜)について、西村大臣は、東京都が全体としてステージ4でないことを認めつつ「予防的な措置」で宣言を出したと答弁していた

 しかし、特措法上、宣言を出せるのは「緊急事態」に該当する場合であって、「予防的な措置」として宣言を出すことはできないと憲法学者(横大道聡・慶大教授ら)から指摘されている。

 第4次緊急事態宣言(7月12日〜)でも、菅義偉首相が医療体制にまだ余力がある中で「予防的な措置」として宣言を出すことを明言してしまった。コロナ担当相としての責任は免れない。