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東京都が解除間際に営業制限命令 「発信」理由に一部事業者を標的か 医療体制ほぼステージ2水準

楊井人文弁護士
東京都が発出した措置命令書。(株)グローバルダイニング長谷川社長の承諾を得て掲載

 東京都の小池百合子知事が3月18日、時短要請に応じていない一部の飲食店事業者に対し、新型インフルエンザ等対策特別措置法45条3項に基づき、営業時間短縮(施設使用制限)の命令を発出した。特措法に基づき、従わなければ過料を課せられる命令を出したのは、全国で初とみられる。

 第二次緊急事態宣言が発出されてから2ヶ月以上経過して、21日解除の方針が固まった後、残り4日間というタイミングで命令が発出されたことになる。

 時短要請に応じていない飲食店事業者は都内で約2000店とみられるが、今回命令の対象となったのは27店で、うち26店が同一企業が経営している店だった。

 都が出した命令書は、事業者側が要請に応じない旨の「発信」をしたことを、命令の理由として挙げていた。今後、命令を出したタイミングに加え、表現・取材の自由との関係でも問題となると考えられる。【文末に追記あり】

命令を出した理由は「発信」?

 イタリアンレストランなどを展開しているグローバルダイニングは、命令を受けて、解除予定の3月21日までの4日間、時短営業を行うと発表した。

 同社の長谷川耕造社長は要請段階には応じないが、命令が出れば従うとの考えをメディアの取材で表明していた(例えば、テレビ朝日)。

 ただ、同社への命令書や事前通知書には「緊急事態措置に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業を誘発するおそれがある」と、長谷川氏の発信行為が命令発出の理由になったことをうかがわせる文言もあった。これについて長谷川氏はFacebookでのコメントで「知事に都合の悪い内容を発信したことに対する懲罰」ではないかと問題視している

 要請に応じないことを社会に表明することが命令を出す理由になるのであれば、要請に応じないことを表明する自由やメディアの取材する自由が事実上制約される危険性がある。

 事業者も、命令を待たずに要請に従うことを事実上強制されるおそれがある。

要請・命令が出されたのはごく一部の事業者のみ

 特措法に基づく緊急事態宣言が発出されている場合、都道府県知事は、時短などの施設使用制限の要請を行う権限が付与される(45条2項)。

 2月初めの法改正で、この要請に応じない場合には一定の要件(後述)を満たせば命令を出し(45条3項)、命令に違反した事業者に過料30万円を課すことが可能となった。

 第二次緊急事態宣言が発出された後、東京都が45条2項に基づき飲食店の時短要請を行ったのは2月26日以後、計4回で、のべ129施設。

 都は、都内の約84500店のうち98%が午後8時以降閉店しているが、約2000店舗が営業を継続しているとみている(都の調査結果)。

 個別の要請が出されたのはこのうち約6%。命令の対象となったのは27店(要請に従っていない店の約1%)で、うち26施設がグローバルダイニング社の店だった

東京都の医療提供体制に関する発表資料(3月17日掲載)より
東京都の医療提供体制に関する発表資料(3月17日掲載)より

解除の要件を満たした状態での命令は適法か

 3月18日、東京都モニタリング会議が開かれ、専門家から「新規陽性者数の増加比は100%を超えた。今後、変異株等により急激に感染の再拡大が起こる可能性がある」「重症患者数は減少傾向が続いていたが、下げ止まりが見られる」といった見解が示された。

 ただ、東京都における病床使用率は25.2%(1270人/5048床)、重症病床使用率は24.6%(252人/1024床)で、いずれも前週より改善し、ほぼ「ステージ2」の水準となっている(同日発表資料)。

 都は各指標が「ステージ4」の段階では個別事業者に対する時短要請・命令を出しておらず、各指標が大幅に改善し、解除を目前にしたタイミングで一部の事業者に対して時短の要請、命令を相次いで発出した。その手法の是非、適法性が今後、問われることになるだろう。

「制限は必要最小限」が特措法の要請 事前に専門家の意見も必要

 ところで、法律上、緊急事態宣言下で時短要請に従うかどうかは任意で、要請に従わない事業者に対して常に命令を出せるわけではない。

 事業者は「正当な理由」があれば要請・命令に従わないこともできる。

 政府は、経営上の理由があっても「正当な理由」にならないとの見解を示しているが、法律にはそのようなことは書かれていない。

 命令を出せるのは、「特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるとき」に限られる。

 事前に「感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見」を聴く必要もある。

 そして、そもそも特措法は「国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」(5条)と規定しており、必要最小限を超える措置は違法と評価され得る。

 今回の命令を出すにあたって、どの専門家に聴取し、どのような意見が出たのかについて、都は全く公表していない。

 グローバルダイニングが受け取った命令書にも、専門家の意見を聴いたのかどうかや、命令の各要件を満たすと都が考えた具体的な根拠については、書かれていなかった。

 ただ、グローバルダイニングの長谷川社長は、命令が発出された以上、18日から21日まで営業時間を午後8時までとすると発表。解除後の22日から午後8時以降の営業を再開する方針を示している。

【追記】

 弁護士ドットコムニュースによると、グローバルダイニングは、時短命令は違法だとして、東京都に対して損害賠償請求の訴えを起こす意向を固め、早ければ3月22日にも東京地裁に提訴する。

時短「命令」を受け、グローバルダイニングは3月21日まで4日間の時短営業を表明(長谷川社長のFacebook投稿より承諾を得て転載)
時短「命令」を受け、グローバルダイニングは3月21日まで4日間の時短営業を表明(長谷川社長のFacebook投稿より承諾を得て転載)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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