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【新型コロナ】東京都、軽症者用ホテル受入室数の発表も不正確 大幅縮小で一時逼迫するも改善

楊井人文弁護士
東京都の小池百合子知事。病床使用率などの基礎的なデータを公表していない(写真:つのだよしお/アフロ)

 東京都で新型コロナウイルス感染者急増で「軽症・無症状者向け宿泊施設がパンク寸前」などと報じられていた問題で、東京都が宿泊療養施設の受入可能室数について、厚生労働省に正確なデータを報告していなかったことが、都などへの取材でわかった。都はこれまでに入院患者数や確保病床数などについても不正確な情報を出してきたことが明らかになっている。こうした不正確な情報は、現状把握や過去の検証を難しくする要因になっている。

都は「受入可能室数」ではなく「借上げ室総数」を厚労省に報告

 各都道府県は、新型コロナの無症状者や軽症者で病床が埋まり、医療機関が逼迫する事態を回避するため、ホテルなど宿泊施設の確保を進めてきた。

 都は、6月まで5棟のホテルを借り上げ、受入可能室数を合計2865室と厚労省に報告。その情報が厚労省のサイトに掲載されてきた。だが、それは実際に患者が使える室数ではなく、借り上げた部屋の総数だった。

 都福祉保健局の感染症対策部事業推進課長によると、医療関係者や都職員が使用する部屋などを差し引いた後の患者受入可能室数は「5棟で1150室程度」だったという。

 そして、現在は3棟で670室と公表されているが、患者用の受入可能室数は480室程度だと明らかにした。

 他方、神奈川、埼玉、千葉の三県と大阪府の各担当者に確認したところ、いずれもスタッフなどが使用する分を差し引いて、患者の「受入可能室数」を厚労省に報告している、との回答を得た。

 厚労省側も、都だけがスタッフの使用分を含む「借上げ室数」を報告している現状を認識しているが、都に対して特に是正を求めていないという。

 しかし、宿泊療養施設が逼迫しているかどうかを判断するためにも、患者の受入可能室数の正確なデータは重要だ。都の不正確な報告は、政府や専門家の事実誤認、ひいてはメディアの誤報につながる恐れもある。

 菅官房長官は20日午前の定例会見で、都のホテル受入可能室数について、6月30日時点で2865室、7月16日時点で371室とコメントした。だが、それは「借上げ室数」であって、患者の「受入可能室数」はそれぞれ1150室、260室程度だった。

 さらに、専門家らの「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の資料(7月22日)にも、都が報告した「借上げ室数」のデータを「受入可能室数」と誤って記載していた。

 今後も東京都が出す宿泊療養施設に関するデータは「借上げ室数」なのか「受入可能室数」なのか、注意が必要となりそうだ。

近隣三県は受入能力を維持 都だけが大幅に縮小し、一時逼迫

 前出の感染症対策部事業推進課長によると、都は5月は5棟のホテルを借り上げていたが、6月末で3棟の契約が終了。残る2棟のうち1棟も7月中に契約が切れるため、7月12日以降の受入れを停止した。

 そのため、都内で受け入れる宿泊療養ホテルが1棟だけになり、受入能力が6月と比べ2割以下に激減。この時期に無症状・軽症者が急増したため、満室に近い状態になったとみられる。

グラフ(1) 東京都が一時、ホテルの受入能力を急減

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 その後、都は16日に1棟23日に1棟のホテルを新たに借り入れ、運用を開始。現在は、借上げ室数は673室、うち患者の受入可能室数は約480室にまで増えた。これを前提にした療養ホテル使用率は、35%程度(7月23日現在)にまで改善していることがわかった。都はホテルの追加借り上げを急いでおり、今月中にあと3棟の運用を開始する見込みだとしている。

東京都の対応について苦言を呈した菅義偉官房長官(7月19日フジテレビ放送、筆者撮影)
東京都の対応について苦言を呈した菅義偉官房長官(7月19日フジテレビ放送、筆者撮影)

 一方、神奈川県は2431室、埼玉県は904室、千葉県は736室確保しており、三県とも5月とほぼ同水準の受入可能室数を維持してきた(グラフ(1)参照)。そのため、三県での宿泊療養ホテルの使用率は1割程度かそれ以下の水準で、まだかなり余裕がある(グラフ(2)参照)。

 都は借上げ契約終了に伴い新規ホテルの確保が遅れ、7月中旬にかなり逼迫した状況を招いたことについて、菅義偉官房長官は19日フジテレビの番組に出演し、「いざ増え始めてから今必死になって探している」と都の対応に苦言を呈していた。

グラフ(2) 東京都の宿泊療養ホテルだけが一時逼迫

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確保病床数の情報が錯綜 病床使用率も公表せず

 医療提供体制の状況を把握する指標である「確保病床数」についても、都の発表は正確ではないことがわかっている。

 都は、5月下旬の緊急事態宣言の後、それまで確保していた3300床を1000床にまで縮小した。ただ、そのことは公表せず、厚労省にはその後も3300床と報告し、発表されていた。1000床に縮小されていたことは、再び病床確保の準備を医療機関に要請した文書をメディアが報道したことで明るみとなった。

 都は、実際にどれだけ病床を確保し、患者で埋まっているかを表す病床使用率も、いまだに公表していない

 病床使用率は医療提供体制の現況を示す重要な指標とされ、大阪府神奈川県埼玉県京都府石川県などが毎日、最新のデータを公表しているものだ。 

 しかし、都のモニタリング会議の資料などでも確保病床数や病床使用率は示されず、情報が錯綜している。政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の資料(7月22日)では、「3300床(7月14日時点)」と書かれた資料と「2800床(7月15日時点)」と書かれた資料が混在していたし、「1500床(7月16日時点)」という報道も流れた。

 そこで16日、都に対し、ホームページなどで正確な病床使用率を公表する考えはないのかを質問した。しばらく回答がなかったが、小池知事が22日の会見で2400床確保したことを明らかにした。これにより、7月23日現在の病床使用率は40%(重症者病床使用率は21%)と判明した。

 翌日夜、都の感染症対策部から、「知事の記者会見等で随時公表しております」との回答が届いた。ただ、小池知事は7月3日の会見で1000床確保し、280人が入院していることを明らかにしていたことはあるが、その後は22日の会見まで具体的な確保病床数や病床使用率に言及していなかった。

 こうした都の現状を念頭に、大阪府の吉村洋文知事は23日、東京都も病床使用率をリアルタイムで公表すべきだと指摘している

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ピーク時の都内入院患者数は不明 比較検証が困難

 都の不正確な情報発信はこれだけでない。4月中に3300床(重症者用400床)を確保していたことも、当時公表していなかった(東京都、病床確保数も不正確と認める 緊急事態宣言延長前2000→3300床に修正)。一方、入院患者数は過大に公表し続けていたため、緊急事態宣言の期限(5月6日)前に病床使用率が「9割超」と逼迫した状況にあるとの事実誤認につながったことが判明している。この点に関しては、新型コロナ分科会の資料で、4月28日の病床使用率は実際の確保病床を基に算出すると「61.6%」だったとの注記が盛り込まれ、当時の都の発表が事実上修正された資料6頁)。

 だが、都はいまだに、4月から5月11日までの入院患者数の正確なデータを明らかにしていない(*1)。今後の検証のために正確なデータに修正する考えはないのか尋ねても、「修正発表する予定はありません」との回答(当時の都の感染症対策課長)だった。

 そのため、4月の感染拡大ピーク時における都内入院患者数や病床使用率、検査件数(*2)が正確にわからない状態が続いている。緊急事態宣言前後の感染状況との比較検証などを行うためにも、都は、過去の分も含めて正確な基礎的データをすみやかに公表することが求められる。

(*1)現在、公表されているのは退院者数・療養者数を含めた不正確なデータであるため、都は「参考値」と注記している。

(*2) 東京都は、5月6日までは医療機関での保険適用検査の検査数をカウントせずに公表していたため、4月時点の検査数との比較検証ができない状態になっている。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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