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東京都、病床確保数も不正確と認める 緊急事態宣言延長前2000→3300床に修正

楊井人文弁護士
小池百合子知事の動画(4月30日)。病床確保数、入院者数ともに著しく不正確だった

 東京都が緊急事態宣言延長前、新型コロナウイルス感染症患者の入院者数を実際よりかなり多く発表していた問題に続き、病床確保数を少なく発表していたことが判明した。都はこれまで病床確保数について、4月末時点で2000床、5月11日に3300床に拡大した、としていたが、実際は、4月末時点で3300床確保していたことが、都への取材でわかった。厚労省は最近、都から訂正報告があったことを認めた。

 政府は5月4日、「依然として医療現場の逼迫が続いている」との専門家の見解も踏まえ、緊急事態宣言の延長を決定した。今回の訂正で4月末に都内の病床使用率が大幅に改善していたことになるが、当時の不正確な情報が政府側の現状認識に影響した可能性がある。

都が病床確保数を修正 宣言延長時、病床使用率は5割以下に

 東京都は、社会経済活動再開に向けたロードマップ改訂版を5月26日に発表。その中で、病床確保数を「3,300床確保(4月)」との記載があった。従来の発表と異なるため、都福祉保健局感染症対策課に取材したところ、同課長が「3300床(うち重症者用400床)確保を把握したのは4月末」と回答。今回の取材を受け「厚労省に訂正報告した」と説明した。厚労省健康局結核感染課の担当者も、都から訂正報告があったことを認め、「現在、修正作業中」(6月3日)と話した。

5月上旬までの東京都の入院患者数が不正確だったことを表すグラフ

東京都新型コロナ対策サイトより。5月12日を境に不自然に激減しているのは、11日までのデータが不正確だったため。現在は「参考値」と注記されている。
東京都新型コロナ対策サイトより。5月12日を境に不自然に激減しているのは、11日までのデータが不正確だったため。現在は「参考値」と注記されている。

 東京都は5月11日、都内の入院患者数について不正確な発表をしていたことを認め、大幅に下方修正している。4月27日の入院患者数は「2668人」(療養中含む)から「1832人」に修正されたが(厚労省5月6日発表)、病床確保数は「2000床」とされ、その時点の病床使用率は9割超とみられていた。

(既報)【新型コロナ】東京都の重症者病床使用率、大阪を下回る 正確なデータを公表せず

 ところが、今回の病床確保数の"上方修正"で、4月30日時点での都内の病床使用率は約60%(3300床に対し入院患者(推定)1800名(*1))、重症病床の使用率は約25%(400床に対し入院患者101名)と、大きく改善していたことが判明した。

 5月6日(宣言延長の前日)はさらに改善し、病床使用率が約46%、重症病床使用率が23%になっていた。

4月30日の病床確保数と入院者数の訂正前と訂正後

【訂正前=4月30日当時の発表】

病床確保数:2000床

入院等:2608人(うち宿泊療養191人)

   ↓

【訂正後】

病床確保数:3300床(うち重症者用400)

入院:約1800人(重症者101人)

宣言延長前、政府専門家会議「依然として逼迫」と分析

 もちろん、東京都内の病床が一時、極めて逼迫していた時期があったことは間違いない。4月2日時点で病床確保700床に対し入院患者は628人と9割近くに達し、医療現場からも窮状を訴える声が相次いでいた(5日付、忽那賢志医師、など)。政府は、新型コロナ患者急増に加え、医療供給体制の「逼迫」を理由に初の緊急事態宣言を発令した(7日)。

 ただ、最も感染者が多い東京都では、早い段階から軽症者の療養ホテル受け入れが進められ、12日に受入病床を2000床確保(*2)。新規感染者のピークが過ぎた4月中旬以降、病床の逼迫状況は改善に向かっていた可能性がある(29日付、忽那医師参照)。4月末には新規感染者数がピーク時の半分以下に減少(*3)。軽症者の療養ホテルもかなり余裕ができていた。

NHK首都圏ネットワーク(5月11日)。実際の使用率は5割を下回っていたが、東京都が不正確な発表していたため”誤報”につながった。
NHK首都圏ネットワーク(5月11日)。実際の使用率は5割を下回っていたが、東京都が不正確な発表していたため”誤報”につながった。

 にもかかわらず、政府専門家会議は5月6日の期限を前に「特定警戒都道府県においては、依然として医療現場の逼迫が続いている」(1日見解)との認識を示し、政府もこの認識を踏襲して延長を決定した

 この時点で、厚労省はまだ都道府県別の病床使用状況を公表していなかった(政府専門家会議がどこまで情報を把握していたかは未解明)。唯一、独自取材で各都道府県の病床使用率を詳報していたNHKは、都が数字上「131%」(4月27日現在)と突出して逼迫している状況を伝えていた。5月11日の時点でも東京都の病床利用率が9割超と報じていたが、都が大幅にデータを修正。NHKはその後、13日時点で5割を下回っていたと事実上訂正している(21日更新記事)。

画像

不正確な情報提供の原因は未解明

 これまでの調査で、以下の事実が明らかとなっている。

・緊急事態宣言が延長される前、東京都が入院患者数を実際より多く発表していたこと(既報参照、5月6日ごろ厚労省発表で下方修正)。

・緊急事態宣言が延長される前、東京都が病床確保数を実際より少なく厚労省に報告していたこと(今回判明)。

・4月末時点で、東京都の実際の病床使用率は60%、重症病床使用率は25%にまで改善していたこと(今回判明)。

・政府は、医療提供体制が逼迫状況にあるとの専門家会議の見解を根拠に挙げて、緊急事態宣言の延長を決定したこと(政府の基本的対処方針=5月4日改定版)。

・緊急事態宣言の延長前後、東京都の病床が依然かなり逼迫していると報道されていたこと(既報参照)。

 大幅な自由の制約、多大な犠牲を伴う緊急事態宣言が、行政やメディアからの正確な情報を欠いたまま延長される、ということがあってよいだろうか。東京都がこうした不正確な情報提供をしていた原因はまだ究明できていない。延長の判断が正しかったかどうかの意見は様々にあるだろうが、それは別として、予断を持たずに、徹底的に検証されるべきではないか。

(*1) 各自治体からの報告をとりまとめた厚労省の資料により、都内の入院患者は4月27日に1832人、5月6日に1511人と大きく減少しており、4月30日時点では多めに見積もって1800人と推定される。

(*2) 当時の共同通信報道。東京都福祉保健局感染症対策課にも確認。

(*3) 1日あたり新規感染者(7日平均値)はピークの約550人超(4月18日ごろ)から約250人(4月30日)に減少していた。(東洋経済オンライン特設サイト参照)

(注)冒頭写真および東京都新型コロナウイルス対策サイトのグラフ(入院患者数)はスクリーンショット(筆者撮影)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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