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『SPY×FAMILY』のヨルさんは、テニスのラケットをマッハ20で振っていたことが判明!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

アニメの第2期もスタートした『SPY×FAMILY』が、モーレツに面白い!

スパイと、殺し屋と、超能力者が、それぞれ自分の利益を考えて偽装家族になる、という設定も秀逸だし、そんな3人の絆が深まっていく様子には胸が熱くなる。

そのうえで、筆者が心惹かれるのは、妻のヨルさんのメチャクチャな強さだ!

バーリント市役所に勤務するヨルさんは、27歳。

その正体は「いばら姫」の暗号名を持つ殺し屋で、世間に怪しまれずに殺し屋の仕事を続けるために、家族を持つことにした。

普段からていねいな言葉を使っているが、その態度は殺し屋のときも変わらない。

相手に向かって「大変恐縮なのですが…」と敬語で話しかけ、「息の根 止めさせて頂いてもよろしいでしょうか」と物騒な言葉をつないで、容赦なくブチ殺す!

密かに暗殺したりするのではなく、警護の者たちが何人いても、平然と乗り込んでいって、全員の命を奪っちゃうのだ。

そんなことができるのは、ヨルさんがもうビックリするほど強いから、である。

◆平手打ちで弟を飛ばす!

ヨルさんの身体能力が発揮されたエピソードに「弟のユーリを平手打ち」がある(コミックス第3巻、アニメでは第1期9話)。

たまたまそうなったのだが、勢いよく振った左手がユーリのほっぺたを直撃すると、彼の体は「ギュラララ」とキリモミ回転しながらスッ飛んだ!

描写から、5mほども飛んだ模様である。

人間を平手打ちで飛ばすなど、なかなかできることではない(というか、普通できない)。

こうした現象では、「5mぶっ飛びのエネルギー」と「ギュラララ回転のエネルギー」は等しくなるケースが多く、これに作中の状況を加えると、ユーリは時速21kmで打ち出され、毎秒5.8回転しながら飛んでいったと思われる。

ユーリの体重が70kg、ヨルさんが50kgなら、ヨルさんの平手打ちは時速820km。

プロボクサーのストレートの20倍も速い平手打ちを見舞ってしまった……!

◆テニスボールをガットで切断!

そしてもう一つ、インパクト絶大なのがコミックス第6巻のシーンだ。

ここを読んだとき、筆者はヨルさんのオソロシイ実力に、もう大笑いしてしまった。

たぶんアニメ第2期でも描かれるエピソードと思うが、マンガを未読でアニメを楽しみたい方は、この先はネタバレになりかねないので、お気をつけください(ストーリーには触れませんが)。

ヨルさんはテニスの試合をすることになった。

対戦を申し込んできた相手は「全力でかかってきなさい」と威圧する。

ヨルさんは「…そうですね 手を抜いて打っては相手に失礼です 全力で…!!」と独白してサーブの体勢に。

そして、その腕にビキビキビキと力が入り、ヨルさんはラケットをピュンと振った……のだが、ボールは地面に落下した。

一瞬「ヨルさんが空振り?」と思ったが、そうではなかった。

地面に落ちたボールはまったくハネ返らず、直後にパカッと無数の破片に分かれたのだ。

まるで包丁でスライスしたように!

ヨルさんは「またやってしまいました 力を込めすぎると なぜかガットに沿ってボールが裂けてしまうんですよね…」と涙顔になっていたから、これまでに何度も同じコトをやらかしてきたのだろう。

悲しそうなヨルさんには同情するが、ラケットのガットでボールを切断することなど、人間にできるのだろうか?

硬式テニスボールは、直径6cm、厚さ3.5mmのコアボールをフェルトが包む構造になっていて、全体の直径は6.7cmだ。

作中の割れ方を見ると、ボールは縦横5本ずつのガットで分断されている。

ゴムを切断するための力は切断面の面積で決まり、上の数値から計算すると、その面積は62cm²。

また、筆者が「1.1mm角の輪ゴムを金属片の上に置いて、ドライバーの先端を押しつけて切断する」という実験を行ったところ、切断には16kgの力が必要だった。

ここから計算すると、テニスボールを切断するのに必要な力は123tとなる!

しかもヨルさんがすごいのは、これだけの力を空中のボールに与えたことだ。

普通は強い力を発揮すればするほど、ボールはそれだけ速く飛んでいくだろう。

飛ばずに切断されたからには、ボールがほとんど動くヒマもないほどのスピードでラケットを当てたわけである。

空振りしたように見えたから、ボールは1mmしか動かなかったと仮定しよう。

57gのテニスボールに123tもの力がかかると、1mm動くのに0.0000098秒しかかからない。

ところがヨルさんのラケットはボールをコマ切れにしたのだから、この短い時間にボールの直径分を動いたはずなのだ。

そのスピードは、なんと時速2万5100km=マッハ20.5!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

――もう本当にすごすぎる人である。

ヨルさんは、周囲の人々に怪しまれたりしないように、普通の(偽装)家族を持つ選択をしたわけだが、身体能力が高すぎて、やっぱり怪しまれてしまうのではないだろうか。

とはいえ何に対しても真剣で、見ているだけで心がほっこりする殺し屋さんだ。

※ちなみに、タイトルのイラストで、近藤ゆたかさんが「なんでそんな音が……まさか!?」と気にされているのは「シャオン」という擬音で、これは『北斗の拳』に出てくる「南斗水鳥拳」と同じだそうです!! 芸が細かい!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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