こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

子どもの頃、「怪獣図鑑」が大好きで、時間を忘れて読み込んだものである。

そこには、怪獣や宇宙人の詳細なデータが記載されていた。

本によって違いはあったが、基本的な項目は、①身長、②体重、③出身地、④得意技、⑤弱点……の5つだ。

なかでも楽しかったのが、④の「得意技」や、⑤の「弱点」だ。

現実の昆虫図鑑や動物図鑑には載っていない、怪獣図鑑ならではの項目だったが、これがまことに楽しかった。

本稿では、④の「得意技」に注目してみよう。

怪獣や宇宙人が有しているすごい能力の記述だが、科学的に考えても、それはスゴいのか?

実は、なんとも微妙だったりするのである。

◆その能力は日の目を見るか?

たとえば、バルタン星人の場合。

ウルトラマンの宿敵ともいうべきこの宇宙忍者は、怪獣図鑑によれば「1万m先のコメツブが見える」という!

1万mといえば、東京では上野-品川の距離。この宇宙人は、上野動物園で親子連れが食べているオニギリの一粒一粒を、品川から識別できるというのだ。

その視力はどれほどか?

現実の視力検査を参考に計算すると、バルタン星人の視力は、なんと600!

人間の視力は、最高で4.0くらいではないかといわれているから、バルタン星人の目のよさは、その150倍だ。さすが宇宙忍者!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

もっとすごい視力の持ち主もいる。

『ウルトラマンタロウ』に出てきた、うす怪獣モチロンは、なんと5万km離れたモチを発見できるという。モチの直径を5cmとするならば、その視力はなんと「30万」ということになる!

空前絶後の視力だが、冷静に考えると、微妙になってくる。

モチロンの身長は50m。その目は、ウスの形をした胴体の真ん中についており、視点の高さは30mほどだろう。

そんなモチロンが地上に立つと、視力がどんなによくても、20km以上離れたところは、地球の丸みに隠れてしまって見えない。5万km離れたモチが見えるはずなのに、4万9980km分の能力は活かしようがないのだ。

普段モチロンは月面に棲んでいるが、月-地球の距離は38万km。月から地球のモチを発見するには、今度は5万kmの視力では足りない!

オビに短し、タスキに長し、とはモチロンのことですなあ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

『帰ってきたウルトラマン』に登場したキングマイマイは、10万km彼方が見えるという。

しかし、地球1周は4万km。たとえ、地球の裏側を見ることができたとしても、地上でこの能力を最大に発揮できる機会はない。

するとこの視力は、宇宙空間の敵を発見するためのもの? が、不憫なことに、彼は蛾の怪獣なのだ。いくら羽ばたいても、大気圏外に出ると空気はなく、羽は空振りするばかり。どうしても宇宙には行けない。

宇宙に敵を発見して、じっと見つめるキングマイマイ……。

輪をかけて気の毒なのが、やはり『帰ってきたウルトラマン』のロボネズだ。

彼の自慢は、2万km彼方に落ちた針の音を聞き分ける能力を持っていること。

2万km彼方は地球の反対側であり、そんなところの音が聞こえるとは、すごい地獄耳である。

しかし、音の速度は、秒速340m。2万km離れたロボネズの耳に届くまでに、16時間20分かかる。ロボネズがその音を聞いて、何かを重大な事実を知ったとしても、それは半日以上前のできごとなのだ。

しかも、空を飛べないネズミのロボット。マッハ1で走っていっても、やはり16時間20分かかる。現場に到着したときには、すべてが32時間40分前に終わっている……。

◆ジャイアント馬場の500倍!

かつての怪獣図鑑にしばしば載っていたのが、「すごい建造物や人間との比較」だった。

巨大な建造物でいえば、有名なのが黒部ダムだ。

怪獣図鑑によれば、ナックル星人は黒部ダムにパンチで穴を開け、化石怪獣ステゴンはコナゴナにし、魔神怪獣コダイゴンはバラバラにするという。

確かにすごい力だが、本当にやるのはキケンである。

黒部ダムは16年の歳月をかけ、述べ990万人が工事に参加し、67人もの尊い犠牲者を出して、ようやく完成したのだ。絶対に壊さないでもらいたい。

しかも、その貯水量は2億t、総コンクリート量380万t、壁の厚さは平均17m。こんなものを壊したら、2億tの水が怒涛となって押し寄せる。ナックル星人は体重2万t、ステゴンは1万3千t、コダイゴンは3万8千t。いずれもアッという間に押し流されるでしょうなあ。

人間との比較も、たいへん興味深い。

たとえば『帰ってきたウルトラマン』に登場したモグネズンは、キックボクシングのチャンピオン・沢村忠の1万倍のキック力を誇るという。

沢村忠は、1970年前後に人気を博したキックボクシングの大スターで、公式戦通算241試合、232勝、228KO勝ちというズバ抜けて強い人だった。

その1万倍のキック力というとすごそうだが、モグネズンの体重は2万4千tである。それは沢村忠の40万倍。なのにキック力が1万倍ということは、体重あたりのキック力では、沢村選手の2.5%しかないことになる。

『マグマ大使』に出てきたグラニアは、片手の力がジャイアント馬場500人分もあるらしい。

しかし、体重は730tとジャイアント馬場の5千倍。これも、体重あたりの力で比べると、馬場先生の10分の1しかない。

同様に『ウルトラQ』のゴルゴスも、ぶちかましは稀代の横綱・大鵬の1万倍だが、体重は大鵬の70万倍もある。

こうしてみると、どうも引き合いに出された選手たちのほうがすごくないか?

体重あたりの破壊力でいえば、キックの鬼・沢村忠のキック力は、モグネズンの40倍。

プロレス界に君臨したジャイアント馬場のチョップは、グラニアの10倍。

昭和の大横綱・大鵬幸喜のぶちかましは、ゴルゴスの70倍。

――怪獣図鑑の「得意技」はこんな感じの記述で、自慢のはずなのに、冷静に考えるとなんとも哀愁を帯びている。

しかし、そういう面も含めて、怪獣たちが大好きだった。異端の存在に心を寄り添わせるように、怪獣図鑑をむさぼり読んだものである。あのワクワク感を超える本には、なかなか出合わない。