Yahoo!ニュース

『ルパン三世』の五ェ門は斬鉄剣でピストルの弾丸を斬っていた。実際にできるワザなのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

10月15日の『金曜ロードショー』では、『ルパン三世』テレビシリーズの人気エピソード4作が放送される。

全276話を対象に視聴者による人気投票を行った結果、PART1から1作、PART2から2作、PART5から1作が選ばれたという。どれも面白そうで、ヒジョ~に楽しみだ。

それを記念して、今日の研究レポートは、筆者が気になって仕方のない「斬鉄剣」について考えてみたい。

使い手は、ご存じ十三代目・石川五ェ門だが、彼の初登場は、テレビシリーズではPART1の第5話。15日の放送では、PART1は第1話が選ばれているから、登場するとしたら残る3話だ。

そこに五ェ門がまったく登場しないことはないだろうが、筆者としてはぜひとも見たいシーンがある。五ェ門による斬鉄剣の「弾丸斬り」だ。

◆刀で弾丸を斬れるか?

五ェ門の弾丸斬りは『ルパン三世』のなかでも、記憶に残る定番ワザだろう。

相手が発砲! 絶体絶命と思った次の瞬間、五ェ門は目にも止まらぬ速さで斬鉄剣を振るう。すると、真っ二つに割れた銃弾が足下にポトリ……。

こんなことが可能なのだろうか?

銃弾は「鉛」でできている。鉛は、金属としてはかなり柔らかく、鉄の10分の1ほどの力で変形する。鉛の弾丸は、理屈のうえでは、簡単に斬れるはずだ。

たとえば、相手の拳銃がワルサーP38だったとしよう。その弾丸は直径9mm、長さ19mm。

この弾丸を斬るのに必要な力は230kgだ。強い力のようにも見えるが、プロ野球の選手がフルスイングでボールを打つときの衝撃力は1tにも達するというから、五ェ門なら充分出せる力だろう。

つまり弾丸を刀で切断することは、正確に弾丸を捕える剣の腕さえあれば、充分に可能ということだ。

ただし、別の問題がある。五ェ門は斬った弾丸をその場にポトリと落としていたが、実はこれこそが難しい!

ピストルの弾丸の速度は秒速400m前後。斬った弾丸をその場に落とすには、斬っているあいだに、弾丸の速度をゼロにしなければならない。

ところが前述のとおり、鉛の弾丸は230kgの力で斬れてしまうため、斬っているあいだも、230kgのブレーキ力しかかけられない。そして秒速400mの弾丸に、そのブレーキ力が働く時間は、わずか0.00008秒というほんの一瞬だ。

この結果、斬鉄剣が弾丸を斬り終えたとき、秒速400mのスピードは、秒速382mまでにしか落ちないことになる。

これは大変だ。銃弾は真っ二つに切断されても、ほとんどスピードを落とさずに飛び続けてしまう。斬鉄剣にとって、鉛の弾丸など豆腐も同然なのだ。ほぼ無抵抗でスカッと両断されて……、そのまま五ェ門に命中する!

この刀、斬れ味がよすぎるがゆえに危ない。

このキケンな状況に、五ェ門はどう対処すればいいのだろうか。

幸いなことに、刀身の断面は三角形だ。弾丸の破片は刀の面に沿って、左右に広がりながら飛んでいくと思われる。五ェ門の顔がそのあいだにあれば、命中しなくて済むのでは?

斬鉄剣の刀身が、幅3cm、厚さ5mmだとしよう。断面が二等辺三角形なら先端角度は9.5度。弾丸の破片もこの角度で二手に分かれることになるから、もし顔の1m手前で両断したら、顔のところまで飛んでくるとき、二つの破片の間隔は17cm!

つまり五ェ門が助かるか否かは、彼の顔の幅次第ということだ。五ェ門は細面なので、幅が17cm以下であることを祈ります。

ちなみに、筆者が自分の顔の幅を測ったら、なんと20cmだった。うわ~、皆さん、さようなら~。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆コンニャクだけは斬れない!?

この斬鉄剣、コンニャク以外なら何でも斬れるという。

実際、岩や建物はもちろん、自動車や戦車も斬っていた。ただし、走ってくる車を真正面から斬ったのでは、弾丸を斬ったときと同様に、二つに分かれるだけで、速度をゼロにすることは難しい。五ェ門は斬鉄剣を振るった直後、左右に分かれた車に同時に轢かれるという珍しい交通事故に遭う可能性があるわけだが、そこは俊敏な身のこなしで大丈夫だろう。

注目は、車を斬るのにはすごい腕力が必要なこと。

これはどんなに刀の切れ味がよくても、鉄を切断するにはそれなりの力が必要だからで、大量の鉄でできた車を一瞬で斬るとなると、なおさら重要だ。

計算すると、一般的な乗用車を両断するのに必要な力は1万3千t、戦車を叩き切るのに必要な力は16万8千t。もう人間ワザとは思えない。

五ェ門はあのスリムな体に、とてつもない怪力を秘めているのだ。

それほどすごい五ェ門と斬鉄剣なのに、なぜコンニャクは斬れないのだろうか。

そのエピソードは、テレビ第2シリーズ第61話「空飛ぶ斬鉄剣」で描かれ、確かに斬鉄剣でコンニャクは斬れなかった。

コンニャクは、水と、デンプンと、グルコマンナンでできており、包丁でも切れる。筆者はこのナゾを解きたくて、群馬県の「こんにゃくパーク」まで行って、コンニャク作り体験をしたこともあるのだが、いまだに理由がわからぬままだ。どなたかご存じの方がいらっしゃったら、ぜひお知らせください。

――という具合にナゾに満ちた斬鉄剣だが、それゆえにとても魅力的だ。10月15日の『金曜ロードショー』では、五ェ門は斬鉄剣を振るってくれるだろうか。

どうか皆さんも、その目でご確認ください。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事