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53年前の今日『ウルトラセブン』最終回が放送された。あのとき、ダンとアンヌが別れなかったら……!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

いまから53年前の1968年9月8日、『ウルトラセブン』の最終回が放送された。そこで描かれたモロボシ・ダンとアンヌの別れは、悲しくも本当に美しいシーンであった。

度重なる戦いで衰弱したウルトラセブンは、故郷のM78星雲に帰らねばならなくなった。ダンはそれまで誰にも正体を明かさなかったが、このときアンヌだけに打ち明ける。

「アンヌ、僕は……僕はね。人間じゃないんだよ。M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!」

瞬間、画面はシルエットに切り替わる。風になびくアンヌの髪。表情は見えない。

やがて、ダンが「びっくりしただろう?」と優しく言葉を続けると、アンヌはこう答えた。

「……ううん。人間であろうと宇宙人であろうと、ダンはダンに変わりないじゃないの。たとえ、ウルトラセブンでも」

おお~っ、なんという純粋な心! アンヌは、ダンが何者であっても、ダン個人を愛すると言っているのだ。筆者はこれまでの人生で、これほど美しい言葉を聞いたことがありません!

とは思うのだが、冷静に考えれば、アンヌのこの言葉は、ダンの心に暗い波紋を投げかけたかもしれない。

だって彼、本当はウルトラセブンなのである。ダンは地球で暮らすための仮の姿。そっちのほうを愛してもらっても……と言う気はしなかったのだろうか?

アンヌのセリフを、バカ殿に扮した志村けんに置き換えると、こうなる。「バカ殿だろうと志村けんだろうと、バカ殿はバカ殿に変わりないじゃないの。たとえ志村けんでも」

そう言われて、嬉しいかなあ。ダンとしては「いや、本当の俺はセブンのほうで……」と言いたかったのではなかろうか。

それはともかく、ウルトラセブンは傷ついた体で去っていき、それによって2人の恋も終わりを迎えるのだが、もしもセブンが無病息災で地球に留まったなら、その後2人はどうなったのだろうか?

◆もし2人が結ばれたら?

ダンとアンヌ。2人が晴れて結ばれたら、人類と宇宙人の垣根を越えたラブラブ生活を送れるだろうか?

問題になるのは、ウルトラセブンは「セブンとダンのどっちの姿で生活するのか」ということだ。

セブンも家にいるときくらい、本当の姿でノンビリしたい……と思ったら、彼は身長40m、体重3万5千tで暮らすことになる。

すると大変だ。身長40mとは、人間の24倍。家具や設備も、通常の24倍サイズを取り揃えなければならない。

その場合、テーブルの高さは20m。便器の高さは10m。浴槽の深さは12m。アンヌにしてみれば、そんなトイレや風呂など、絶対に使いたくない! セブンが伸び伸び暮らそうとすると、アンヌにはキケンすぎる自宅になってしまうのだ。

よって、ここはウルトラセブンに譲ってもらい、モロボシ・ダンの姿で暮らすことにしよう。しかし、地球人とM78星雲人。うまく暮らしていけるのだろうか?

最終回で、体調を崩していたダンは、こうつぶやいた。「脈拍360。血圧400。熱が90度近くもある……」

こんなヤツ、病気になってもへたに看病できない! 人間の皮膚は、60度のものに触れるだけでもヤケドしてしまう。劇中、アンヌは献身的にガーゼでダンの汗を拭っていたが、直接額に触れたら大ヤケドするところだった。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆記録的「年の差カップル」だ

さらなる頭痛のタネは、年齢差だ。

ウルトラセブンの年齢は、なんと1万7千歳。一方アンヌは18歳。その差は1万6982歳もある!

これだけ年齢が離れていて、会話は弾むのだろうか。日本で発見された最古の土器は、いまから1万6500年前の縄文式土器だ。それが作られた頃に生まれた宇宙人と、20世紀に生まれた人間……。考えただけで頭がクラクラする。

それだけではない。深刻なのは、2人の寿命があまりにも違うことだ。

ウルトラセブンの1万7千歳も充分すごいが、ウルトラの星のヒトタチの長生きっぷりは、そんな程度ではない。長老のウルトラマンキングの年齢は30万歳。つまりウルトラセブンは、人類の3千倍ほど長く生きる可能性がある。

時間に対する感覚が、生涯の長さで決まるとしたら、これはウルトラセブンにとってツラい事実である。アンヌは自分の3千倍の勢いで年を取っていくのだ。たった1日に8.2歳ずつ。18歳の若妻が、5日経ったらもう59歳!

しかも、18歳のアンヌが90歳まで生きるとしても、余命は72年。人間の感覚にして、1週間ちょっとでこの世を去ってしまう。人間がセミに恋をするようなものである。

そして、その後28万2928年も続くセブンのヤモメ暮らし。

さすがにこれは寂しくなり、いずれは再婚に踏み切るかもしれない。そのまま地球に留まり続け、60年ごとに結婚と死別を繰り返すとしたら、ウルトラセブンが生涯に迎える地球人妻は、なんと4715人。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

こ、これほど大勢の地球人女性が、一人の宇宙人に取られてしまうとは……。

結婚したくてもできない男性が増えている現状を鑑みれば、ウルトラセブンは地球において再婚禁止! とっとと故郷に帰って、寿命のつり合った相手を探していただきたい。

――などと勝手なコトを書いておりますが、実際のところ、セブンとアンヌが恋に落ちたかどうかは微妙である。筆者としては、番組の最終回で2人の心が通じたように思ったが、あれは別れを告げるシーンに他ならない。

でも、結ばれてほしかったなあ。『ウルトラセブン』が大好きだった筆者は、いまでも心からそう思い、こんなシミュレーションをしてしまうのである。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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