6月21日、トヨタ自動車が、マスコミ各社に向けてコメントを発表しました。

「車両に異常なかった」池袋暴走事故、トヨタがコメント(朝日新聞デジタル/2021.6.21)

 池袋の暴走事故で、プリウスを運転し、母子を含む11人を死傷させた飯塚幸三被告が、裁判で「車両に技術的な欠陥がある」と述べ、無罪を主張してきたことを受けてのトヨタ側のアクションです。

 そのコメントの中に、以下の一文がありました。

本件の被告人が、裁判の中で、本件の車両に技術的な欠陥があると主張されていますが、当局要請に基づく調査協力の結果、車両に異常や技術的な問題は認められませんでした

 トヨタとしては、自社の車の安全性や調査結果を全面否定されたことが看過できなかったのでしょう。

 しかし、私のもとには、自動車に詳しい複数の技術者から、交通事故捜査における現在の車両調査について、以下のような意見が寄せられているのも事実です。

当局(捜査機関)の要請とはいえ、問題となっている事故車両をつくったメーカー自身が、当該車両の欠陥の有無を調査するというのは、あまりにも公平性を欠くのではないでしょうか。万一、車両に不具合があった場合、メーカーも『事件の当事者』ということになるのですから……

 大変重要な指摘です。

 この問題については、改めて別の機会に掘り下げる予定です。

■EDR(イー・ディー・アール)とは何なのか?

 さて、今回は交通事故裁判の報道でよく耳にする『EDR(イベント・データ・レコーダー)』とは何なのか? これを調べればどんなことが分かるのか? について取材しました。

 国土交通省によると、EDRとは、

エアバッグ等が作動するような事故において、事故前後の車両の運動データや運転者の操作等を記録する車載記録装置をいいます

 と解説されています(*以下のイラスト参照)。

国土交通省の資料より抜粋
国土交通省の資料より抜粋

国土交通省の資料より抜粋
国土交通省の資料より抜粋

 では、「EDR」にはどのような種類があり、何が、どのようなかたちで記録されるのでしょうか

 トヨタ自動車広報部に質問し、具体的に解説していただきました。(*取材は2020年12月)

<トヨタの回答>

 製造時期によって仕様の差異がありますが、《車両取扱書のEDRに関する記載内容》には、以下のように記述されています。

お車には、イベントデータレコーダー(EDR)が装備されています。EDRは、一定の衝突や衝突に近い状態(SRSエアバッグの作動および路上障害物との接触など)が発生した時に車両システムの作動状況に関するデータを記録します

 EDRは車両の動きや安全システムに関するデータを短時間記録するように作られています。ただし、衝突の程度と形態によっては、データが記録されない場合があります。

 EDRは次のようなデータを記録します。

・車両の各システムの作動状況

・アクセルペダルおよびブレーキペダルの操作状況

・車速

 これらのデータは、衝突や障害が発生した状況を把握するのに役立ちます。

注意:EDRは衝突が発生したときにデータを記録します。通常走行時にはデータは記録されません。また、個人情報(例:氏名・性別・年齢・衝突場所)は記録されません。

 ただし、事故調査の際に法執行機関などの第三者が、通常の手続きとして収集した個人を特定できる種類のデータとEDRデータを組み合わせて使用することがあります。

 EDRで記録されたデータを読み出すには、特別な装置を車両またはEDRへ接続する必要があります。トヨタに加え、法執行機関などの特別な装置を所有する第三者が車両またはEDRに接続した場合でも情報を読み出すことができます。

■EDR以外にも車はさまざまな箇所で操作履歴を記録している

 以前取材した死亡事故で、加害車両に装備されていたカーナビに記録されていたGPS(Global Positioning System=全地球測位システム)のデータをもとに、加害者の赤信号無視が立証されたという事例(*以下の記事参照)がありました。

カーナビが立証した被告の「赤信号無視」 無念晴れるも、遺族が抱く初動捜査への不信

 GPSとは、「GPS衛星」の電波を受信することで現在位置や時間を測っているのですが、この記録を分析することで車の位置や時刻などが特定できれば、事故発生時の信号サイクルと照合し、信号の色がわかるということなのです。

 カーナビ(種類にもよりますが)からもこうした事実を明らかにすることができるというのは、意外な発見でした。

 では、EDRやカーナビ以外に、操作履歴や挙動を記録しているものは車の中にあるのでしょうか。

<トヨタの回答>

 EDR以外にも、車両の制御や操作に関するデータなどを記録しており、各機能の作動や操作状況により、主に次のようなデータを記録します。

・エンジン回転数/電気モーター回転数

・アクセルペダルの操作状況

・ブレーキペダルの操作状況

・車速

・運転支援システムの作動状況

・前方カメラの画像情報

 グレード・オプション装備により記録されるデータ項目は異なります。

 なお、会話などの音声や車内の映像は記録しません。

■もし、車の不具合で事故が起こったらどうなるのか…

 普段、車を運転しているときはほとんど気づいていませんが、EDRやカーナビのほか、最近の車にはさまざまな安全サポートの機能が付いており、それらにも操作状況が記録されているとのことです。

 交通事故を取材していると、事故を起こした加害者がとっさに噓をつき、長い争いになるケースが後を絶ちませんが、車が記録しているデータが、真実を解明することもあるのです。警察にはこうした証拠もぜひ活用していただきたいと思います。

 一方、車の不具合や欠陥、整備不良等が原因と考えられる事故も皆無とは言えません。

 昨年、私は以下の記事を書きました。

■アクセルの踏み間違い、それとも車の異常? 池袋暴走事故裁判から、筆者が思い返す24年前のある死傷事故

■アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故 緊迫の通話記録と「制御不能」の恐怖

 このとき、実際に原因不明の突発的な車の不具合(急加速やエンスト、ブレーキが利かなくなるなど)によって、恐怖の体験をしたというドライバーの方々から、生々しい報告が多数寄せられました(車種、自動車メーカーは多岐にわたっていました)。

25年前に熊本市内で発生した死亡事故現場。事故を起こしたタクシー運転手は、エンスト後ブレーキがまったく利かなくなったと訴えたが聞き入れられず、有罪となった(調書より筆者撮影)
25年前に熊本市内で発生した死亡事故現場。事故を起こしたタクシー運転手は、エンスト後ブレーキがまったく利かなくなったと訴えたが聞き入れられず、有罪となった(調書より筆者撮影)

 6月21日、トヨタが出したコメントの中には、以下の一文もありました。

「トヨタは、重大な事故や事案などの発生時、当局からの要請の他、お客様からのお申し出に対し、きちんと車両の技術面を調査するための仕組みをすでに運用しております。今後もしっかり対応してまいりたいと思います」

 しかし、池袋の事故においては発生から2年以上経った今も、被告人(*トヨタにとってはお客様)の主張と捜査機関側(トヨタの調査結果)が乖離したままです。その狭間で、被害者、遺族は長期間にわたって苦しみを強いられています。

 なぜ、このようなことが起こっているのか? どうすれば、車両の調査結果に異議が出ないよう、透明性を図れるのか。そして、再発防止にどうつなげていくのか……。

 コンピュータ制御による自動運転や安全装置が進化し、メカニズムがますます複雑になる中、当該メーカー以外の第三者の専門家が検証にあたるような制度を検討するなど、早急に対策を講じる必要があるのではないでしょうか。