アメリカで起きたレクサス暴走死亡事故 緊迫の通話記録と「制御不能」の恐怖

アメリカのハイウェイで起こった交通事故の現場(記事とは関係ありません)(写真:ロイター/アフロ)

「10月16日付けの『アクセルの踏み間違い、それとも車の異常? 池袋暴走事故裁判から、筆者が思い返す24年前のある死傷事故』を読ませていただきました。実はアメリカでも、20年ほど前から車に何らかの原因があったとされるさまざまな事故が発生し、大きな問題となっていました。日本ではあまり報じられていなかったようですので、この機会に改めてお伝えしておきたいと思い連絡させていただきました」

 というメールをくださったのは、Jun Jim Tsuzukiさん(63)です。そこには実際に起こった事故についての報道や数々のデータが記されていました。

 Tsuzukiさんのメールは、こう続きます。

「私はロサンゼルスに34年間滞在し、長年、ハリウッドのセレブや大臣らの身辺警護兼ドライバーとして勤務する傍ら、モーターサイクル・エスコート(警察から認可された民間の警護資格者)としても活動を続けてきました。アメリカでは2輪から18輪の大型トレーラーまで、ありとあらゆる車種の運転経験を積んできました。2年前、日本に戻り、交通事故の報道を目にするようになったのですが、アメリカで交通にかかわる仕事をしてきた者として、日本で車の問題がほとんど言及されないことに大きな疑問を感じています」

 

 Tsuzukiさんのお話をもっと詳しく聞きたいと思った私は、早速、電話をかけてみることにしました。

 

ロサンゼルス市警察で、民間ポリス研修を終えたTsuzuki氏/中央(Tsuzuki氏提供)
ロサンゼルス市警察で、民間ポリス研修を終えたTsuzuki氏/中央(Tsuzuki氏提供)

■米国のハイウェイで発生したレクサス暴走、家族4人死亡の原因

 Tsuzukiさんは振り返ります。

「実は、米国では約20年前に、SUA(Sudden Unintended Acceleration=突然の予想外の加速)という単語が作られたほど、速度制御不能による事故が続いていました。特に1999年から2010年までの10年間でみると、トヨタ車だけで815事例、341重軽症、19死亡が報告されています。ドライバーの年齢層は30~40代がもっとも多く、『アイドル状態からの急加速』『ブレーキを踏んでいるのに加速が始まった』『高速道路を通常の運転中に加速した』など、さまざまな事故が発生していたのです」

 中でも、Tsuzukiさんに衝撃を与えたのは、11年前、ハイウェイで起こったある死亡事故だったと言います。

「私は仕事柄、車のトラブルやリコール、事故に関する情報には常に関心をもっていたのですが、45歳の現役ハイウェイ・パトロール警官、マーク・セイラー氏の乗るレクサスが、サンディエゴの高速道路で大事故を起こしたときはとてもショックでしたね。彼のことですから、ぎりぎりまで出来る限りの対策を取ったはずだと思うのですが……」

 亡くなった警官は、Tsuzukiさんが親しくしていたカリフォルニア・ハイウエイ・パトロール方面本部副部長の知人でした。

「2009年8月、セイラー氏は、妻(45)、娘(13)、義弟(38)が同乗するトヨタ・レクサスES350で高速道路を走行していました。その途中、突然、速度制御不能となったのです。クルマは加速し続け、速度は最終的に時速190キロにまで達します。そして、一般道路と合流した地点で交差点を飛び越えて河原に転落して炎上。全員亡くなったのです。勤続20年の彼は、まさしく高速走行に関してはプロ中のプロでした。しかし、彼の技術をもってしても、結果的に車の速度を落とすことができなかったのです」

ロサンゼルス市警察のパトカー(筆者撮影)
ロサンゼルス市警察のパトカー(筆者撮影)

■死の直前に残された52秒間の緊迫の音声記録

 実は、後部座席に同乗していた義弟は、レクサスが速度制御不能になって間もなく、携帯電話で911(日本の110番)に連絡を入れ、警察の高速隊本部に異常事態を知らせていました。

 激突・炎上の直前、警察との間で交わされた52秒間のやりとりは公式通話記録に残っており、その音声は今でも聴くことができます。

 Tsuzukiさんは神妙な口調で語ります。

「この事故は、アメリカ国内では大きく報じられました。ご紹介するABCニュースの0:35~1:30には、同じ高速道路で取材車が撮影した再現映像と事故後の実際の映像が映っています。そして、1:05あたりから公式通話記録の音声が流れます。後部座席の義弟は必死でこう告げています。『あぁ大変だ、190キロも出てる! もうすぐ交差点だ! あぁぁぁぁぁぁ、掴まれ! 祈ろう!!』その直後、セイラー氏の妻と娘の悲鳴で通話はかき消され、途絶えてしまうのです。何度聞いても、気持ちが重くなります……」

「その後、レクサスのメーカーであるトヨタは、原因究明を求められます。ご存じの方も多いと思いますが、事故の翌年には、豊田章男社長が米下院公聴会にも出席しました。しかし、懸命に調査をしても急加速を引き起こすような電子制御のトラブルは見つからず、結果的に「フロアマットがアクセルペダルに挟まっていた」として、2010年、10ミリオンドル(約10.5億円)で遺族と和解したのです。あくまでも和解なので、我々には詳しい内容はわかりませんが……」

●参考記事『サンディエゴ・ユニオン・トリビューン』

■その後も多発した「速度制御」不能による事故

 Tsuzukiさんが送ってくださった数々の情報を見ると、同様のケースが他でも多々発生していることがわかります。

 突然、速度制御不能となった車のハンドルを握るドライバーや同乗者たちが警察に緊急電話をし、ハイウェイ・パトロールから、「ギアをNに入れろ!」「足元を確認しろ」「満身の力を込めてブレーキを踏むように!」などと指示を受けている生々しい音声や動画も公開されています。

「複数のケースを見ていくと、異常の通報を受けた警察が、まず『ギアをN(ニュートラル)に入れられるか!』と尋ねていることがわかります。しかし、多くのドライバーが『出来ない』と答えているのです。レクサスを停止させられず死亡した警官のセイラー氏も、もしNに入れられるなら入れていたはずです。最近の車は昔の車と違って、ワイヤーや連結棒で直接トランスミッションのレバーを動かしているのではなく、電気信号をトランスミッションに送っているシステムなので、おそらくNに入れられないのでしょう」

 

 Tsuzukiさんによれば、アメリカでは2009年、フロアマット関連のリコールが7車種350万台。2010年にはアクセルペダルセンサーのリコールが9車種に対して行われたそうです。

「もちろん、暴走事故の中には、ドライバーによるアクセルペダルの踏み間違いもあると思います。また、フロアマットや異物がはさまったケースもあるでしょう。しかし、当時はリコール対象ではない車や、フロアマットを敷いていなかった多くの車も、同様の事故を起こしていました。制御装置の不具合による事故は実際に発生しているのです。それだけに、無人の自動運転車が誇らしげにテスト走行している報道を見ると、私は背筋が冷えてくるのを感じます」(Tsuzukiさん)

ロサンゼルスで発生した事故現場(筆者撮影)
ロサンゼルスで発生した事故現場(筆者撮影)

■クルマの制御装置に、もし「バグ」が起こったらどうなるのか?

 10月16日に公開したタクシーによる死亡事故の記事には、大きな反響があり、私のもとにはこの他にもメール等で多くの情報が寄せられました。

 その大半は、自動車メーカー、ディーラーに勤務経験のある方、プロドライバー、ソフトウェアの開発に携わる方々で、どれも大変具体的な内容でした。

 記事の中で取り上げた事故車のタクシー(トヨタ・コンフォート・LPG仕様)は、実際にエンストのトラブル(=ブレーキが利きにくくなる)が多数発生しており、発売当初から問題視されていたという情報も複数寄せられました。

24年前、熊本で起こったタクシーによる死亡事故現場(当事者提供)
24年前、熊本で起こったタクシーによる死亡事故現場(当事者提供)

 さらに「自分が運転中、制御不能となった」という体験談も相次いでいます。

 また、多くの方が、車に搭載された電子制御システムについて「バグ/ Bug」(英語で「虫」の意味=コンピュータプログラムの誤りや欠陥、瑕疵)という言葉を使い、この事故に限らず「バグで制御不能になった場合、事故後に事故車を調査しても正確な結果が残らないことがある」ということを指摘されていたのが印象的でした。

 ときとして発生する、不可解な自動車事故。

 アメリカで起こった数々の事実、そしてその記録に目を向けるとき、事故直後から即、「ドライバーの不法行為が原因だ」と決めつけて捜査したり、報道したりすることが、いかに危ういことかを痛感します。

 事故の真実を明らかにするためには、車の側にも何か不具合は発生していなかったか? 第三者を交え、さらなる慎重な捜査、調査が必要でしょう。