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2009年、バロネス日本初インタビュー。メタルと美術、邂逅の夜明け【アーカイヴ・インタビュー】

山崎智之音楽ライター
John Dyer Baizley of Baroness(写真:REX/アフロ)

2023年9月、ニュー・アルバム『ストーン』を発表したバロネス。現代メタル・ミュージックを代表するバンドのひとつと評価され、グラミー賞にノミネートされるなど不動の人気を誇る彼らだが、どんな物語にも始まりがある。

新作リリースに関するジョン・ダイヤー・ベイズリーへのインタビュー(前編記事後編記事)に加えて、その源流を辿るべく、筆者(山﨑)が2009年11月に行ったジョンへの日本初インタビューを再掲載しよう。

この記事はバンドの紹介と2010年3月の初来日公演への意気込みを語ってもらったもの。初出はフリーペーパー『Follow-Up』で、長く“失われてきた”記事である。

(一部表記などを変えています)

Baroness『Stone』ジャケット(2023年9月15日発売/ソニーミュージック)
Baroness『Stone』ジャケット(2023年9月15日発売/ソニーミュージック)

現代アート・メタルの新鋭としてアメリカのジョージア州サヴァンナから出現したバロネス。一昨年前、初のフルレンス・アルバム『レッド・アルバム』で鮮烈な日本デビューを飾った彼らが新作『ブルー・レコード』で還ってきた。さらにヘヴィに、メロディアスに、プログレッシヴに進化した変幻自在のサウンドは、一瞬先をも予測させないスリリングなものだ。音楽そしてアートワークなど、一貫した独自美学で知られる彼らだが、中心となるのは、バンドのヴォーカリスト兼ギタリストのジョン・ダイヤー・ベイズリー。自らのバンドのみならず、他アーティストからも引っ張りだこの彼が2010年3月、アイシスとのジョイント初来日公演を前にして語る。

●本誌(『Follow-Up』のこと)初登場ということで、バロネスの音楽性がどんなものか、説明して下さい。

一番最初に、一番難しい質問が来たな(苦笑)。基本的にロックを軸にしながら、メタルやサザン・ロック、フォーク、プログレッシヴ・ロック...自分たちの快楽原則に則って、どんな音楽にでも手を出してきた。だから『Follow-Up』の読者がバロネスの音楽を知りたければ、3月のライヴを見に来るのがベストだろう。音楽ジャンルより、何よりも俺たちはライヴ・バンドだというのが答えだよ。

●前作『レッド・アルバム』と新作では、アルバム作りに対するアプローチはどのように異なるでしょうか?

『レッド・アルバム』や初期のミニ・アルバム『First』『Second』では、とにかく良い曲を書くことを重視していた。今回はそれに加えて、アルバムとしての流れを考慮したんだ。いわゆるコンセプト・アルバムではないけど、「ブルヘッド」小曲でアルバム全体を挟みこむことで、ひとつのトータル性を持たせている。60年代や70年代の優れたロック作品がそうだったようにね。レッド・ツェッペリン『IV』や中期ピンク・フロイドの作品、それから初期ブラック・サバスのアルバムにもひとつの流れがあった。このアルバムを作るにあたって大きなインスピレーション源となったのは、クイーンの『華麗なるレース』だったんだ。ロックのレコードでありながら、クラシック音楽、あるいは映画音楽に通じるモチーフの使い方に感銘を受けた。

●『ブルー・レコード』というタイトルは、どんな意味を持つのですか?

決して意図したことではないけど、歌詞や曲調に内省的なものが多かったんだ。自分たちの思想や行動を掘り下げて、拡大鏡で内側を覗き込むような雰囲気があったし、”ブルー”なレコードということで、『ブルー・レコード』と名付けた。前作が”レッド”だったけど、新作はその続編ではないことを表すために、あえて『ブルー・アルバム』ではなく、『ブルー・レコード』としたんだよ。その一方で、バロネスというバンドの異なった側面を表現しているという点で、前作の”炎”に対して”水”という対比をしている。でも、それ以上細かい説明を加えるべきではないと思う。説明過多のせいで、アルバムの面白みが薄れてしまうこともあるだろ?

●「オジーチー・ヒムナル」には「ブルヘッド」からのメロディが登場しますが、アルバムの幕間だと言って良いでしょうか?

幕間というより、中盤のクライマックスと呼んだ方が良いかもね。このアルバムには休憩時間なんてない。最初から最後まで、緊張感の続く作品だと考えているよ。

●アルバムの曲作りはどのようにして行っているでしょうか?

 メンバーの誰かがギター・リフやメロディ、リズム・パターンを持ってきて、スタジオで全員がジャムをやって曲の形にまとめていくんだ。バロネスの曲はシンプルでなく、プログレッシヴな要素もあるから、時間をかけてアレンジを練る必要がある。ただ、あまりにテクニックに走ってしまうと、魂とエモーションを失ってしまう。楽曲自身が必要とするレベルのテクニカルな要素を過不足なく取り入れるのが難しいんだ。俺たちはスタジオで常に自問自答を繰り返している。「これが楽曲の進むべきベクトルだろうか?」ってね。その答えがノーならば、最初のギター・リフやリズムに立ち帰って、もう一度アレンジをし直していく。俺たちは皆、正式な音楽教育を経ていないから、理論でなく直感と努力で曲を書くし、それには時間を要するんだ。

●バロネスにとって、テクニックはどの程度必要でしょうか?先ほど名前を挙げていたピンク・フロイドの音楽は、キング・クリムゾンやイエスほど高度な演奏技術を必要としないと思いますが…。

バロネスでプレイするには超高度のテクニックは必要でないけど、自分のアイディアを伝え、他のメンバーの要求にも応えうるレベルの技術を持つことは求められる。今のバンドでいうと、俺たちはマストドンほど難しいことはやっていないだろうな。それに俺たちはレコーディング前に80%程度しか曲を完成させないようにしている。自由な部分を残して、スタジオで偶発的な何かが起こる余地を残しておくんだ。アルバムを出した後でも、ライヴではまた異なった要素を加えることもある。そうすることで、毎晩同じ曲をプレイしても異なったプラスアルファが生じるんだ。そのプラスアルファが曲をより良くすることもあれば、台無しにしてしまうこともある。でも、それでライヴが惰性になることがなく、常にスリルを感じていられるんだ。俺自身、誰かのライヴを見るときは、曲を通じてミュージシャンの人間性を垣間見たいからね。

●音楽の理論を学んだことはありますか?

いや、9歳から10歳のときにギターを習ったことはあるけど、彼からは理論や楽典よりも、音楽に感情を込めることを学んだ。あとはバンド全員が独学だ。でも学校で音楽を学ばずとも、曲を書いたりレコーディングしてきたことによって、経験的にコード進行やモードなどのセオリーは修得している。もっとも、ロック・ミュージックにおいては、正確に演奏することが必ずしも正解ではなかったりする。間違って弾いた音の方が、理論的に正しい音よりも効果的だったりするんだ。だから音楽理論に固執することはなく、常に柔軟であろうとしている。

●バロネスと同傾向の音楽をプレイしている、あるいは精神的、アティテュード的に共通していると考えるバンドはいますか?

最近ロック界ではひとつのムーヴメントが起きている気がする。マストドンなんかはコマーシャル面で成功しているバンドだけど、彼らに加えてニューロシスやアイシス、コンヴァージ、カイレサ、トーチ…それぞれ異なった音楽をやっているけど、共通した姿勢を持ったバンドだ。いずれもロックのルール・ブックを無視して、新しい音楽をクリエイトしている人々だよ。俺たちは彼らと似たサウンドを出しているとは思わないけど、同じ精神を共有していると思う。

●ニューロシスは現代のアート・メタル、アヴァン・メタルの扉を開け放った、ムーヴメントの先駆け的存在ですね。

うん、もしニューロシスが後進バンドへの道筋を作ってくれなかったら、多くのバンドがデビュー出来なかったかも知れない。彼らはヘヴィなロックにいくつも表現手法があることを世界に知らしめた立役者だった。俺自身、ニューロシスから多大な影響を受けているし、彼らに大きな借りがあると思う。バロネスがステージでしゃべらないのは、ニューロシスからの影響だよ。彼らはステージでMCを挟まず、音楽だけの別世界に連れていってくれる。

●トゥールのようなバンドは、あなたにとってどんな存在ですか?

彼らもまた、クリエイティヴでプログレッシヴなヘヴィ・ロックを再定義して、しかもコマーシャルな大成功を収めたバンドだ。トゥールとニューロシスは、21世紀初頭のヘヴィ・ロックにおいて最も重要な2つのバンドだろうね。トゥールはまた、メンバーのヴィジュアル・イメージを徹底排除したバンドだった。彼らはデビューしてから何年も、プレス・フォトを撮らせなかったし、ステージも真っ暗にして、メンバーの顔が判別できないようにしていた。彼らにとって大事なのはまず音楽であり、それに加えて自らがコントロールするアート性があった。どこかのホテルの部屋で雑誌のフォトグラファーが撮るようなプレス・フォトは拒絶していたんだ。

●ジャケットなどのアートワークを自ら手がけるバンドが増えてきたのも特徴ですね。あなたはバロネスのアートワークを担当してきましたし、アーロン・ターナーがアイシス、アダム・ジョーンズがトゥール、スティーヴン・オマリーがSUNN O)))のアートを手がけています。そんな傾向は何によるものなのでしょうか?

アーロンやアダムの意見は知らないけど、あくまで俺個人の考えでいえば、自分の作品を可能な限り、自分の納得いく形にしたいのは、クリエイターとして当然の欲求だと思う。レコード会社が用意してきたデザイナーが、作品の世界観をじゅうぶんに理解しているとは限らないし、もしそれを自分で表現する技術があるならば、自分でやった方がいいだろう。昔からパンクやハードコアの世界ではD.I.Y.の姿勢があったし、自分でアートワークを手がけることが少なくなかった。白黒フォトコピーやペースト・オンという、現代のCGやフォトショップとは異なったシンプルで無骨なものだったけど、バンドが自らイメージするヴィジョンを表現できたんだ。俺も十代の頃はパソコンなんて持っていなかったし、バンドのフライヤーを白黒コピーで作ったりしていたよ。その頃は、バンドのイメージが白黒だったんだ。『マキシマム・ロックンロール』みたいなファンジンが白黒だったせいもあってね。バロネスの前身バンドはジョニー・ウェルフェア&ザ・ペイチェックスという最悪な名前のバンドだったけど、まだ白黒コピーでフライヤーを作っていたよ。ディスチャージがアイアン・メイデンをカヴァーしたような音楽性のバンドだった(笑)。

●バロネスの音楽はしばしば映画的、という表現が用いられますが、あなた自身影響を受けた映画音楽家はいますか?

俺たちはみんな映画ファンだし、おそらく映画音楽から影響を受けているだろうけど、自分で「この曲のこの部分は、この映画から影響された」と指摘するのは難しいな。俺とピーター(アダムズ/ギター)はマカロニ・ウェスタン映画が好きだから、エンニオ・モリコーネの音楽は大好きだ。ジョン・ウィリアムス、ダニー・エルフマン、それからフィリップ・グラスが音楽を手がけた『カッツィ四部作』も素晴らしい。壮大なオーケストレーションからミニマル・ミュージックまで、さまざまなタイプの映画音楽が好きだけど、それがバロネスの音楽にどう作用しているかは判らない。映画音楽でなく、映画そのものからインスピレーションを得ることもあるよ。『レッド・アルバム』の「ウェイリング・ウィントリー・ウィンド」は、『子連れ狼』を題材にしているんだ。

●ヴィジュアル・アーティストとしてのあなたは、どんな画家/イラストレーターから影響を受けてきましたか?

 子供の頃から美術館に連れていってもらったりしたけど、13歳の頃にはパスヘッドがデザインしたメタリカTシャツを着るようになった。それからもレイモンド・ペティボンやフランク・コジック、シェパード・フェリーのようなパンク・ロック・アーティストに魅了されてきたんだ。かつては”美術”と”パンク・アート”はまったく異なったもの扱いされて、”パンク・アート”は単なる挿絵かイラストだと思われてきた。でも、今俺が挙げたような人々は、2つのあいだにある壁を壊したんだ。彼らの作風だけでなく、そんな勇気ある姿勢にも共感をおぼえるね。

●ミュシャやクリムトのような、アール・ヌーヴォー系の画家からは影響されましたか?

フランスのアール・ヌーヴォーやドイツのユーゲントシュティールは17歳の頃に初めて知って、感銘を受けたな。ミュシャやクリムト、それからエゴン・シーレ…彼らの寓話的な表現は素晴らしいもので、2009年の今聴いても、まったく古びていないし、バロネスの音楽をヴィジュアル的に表現するのにフィットしていると思うんだ。もちろん彼らの作品をそのままコピーするのではなく、俺なりに消化してモチーフを引用しているけどね。

●あなたはカイレサ、トーチ、ピッグ・デストロイヤーなど他アーティストのアートワークも手がけてきましたが、事前に作品を聴きこんでからデザインをするのですか?

出来る限りそうしているよ。ただ、スケジュールの関係などで、それが出来ない場合もある。カイレサの『Static Tensions』の場合、事前に音を聴くことは出来なかったけど、元々彼らは友達だし、近所の親しい付き合いだから、どんなアートワークを描けばいいのか判っていたよ。ピッグ・デストロイヤーの『ファントム・リム』も聴くことは出来なかったけど、『プラウラー・イン・ザ・ヤード』や『テリファイアー』は聴いていたし、そのイメージで描くことにした。だいたい直接面識があるバンドのアートワークをやることが多いね。あえて名前は出さないけど、最近超大物ブラック・メタル・バンドのジャケットをデザインしてくれって頼まれたんだ。でも、バロネスとしての活動に支障をきたしたくないし、初めての個展も決まったんで、辞退することになった。大金を積まれるのは悪い気分じゃないけど、それよりも大事なことがあるからね。一番最近やったのは、フライト・オブ・ザ・コンコーズというニュージーランドのコメディ・デュオの『I Told You I Was Freaky』なんだ。

●アートワークを描く際には、CDサイズを念頭に置きますか?それともLPの30cm四方で考えていますか?

 やっぱりLPサイズだな。CDは小さすぎて、自分のアートワークではなく、そのミニチュア版というイメージしか湧かない。mp3なんかだと、ジャケットなんて小さなアイコンに過ぎないだろ?あまり年寄りっぽい話し方はしたくないけど(苦笑)、やっぱりアナログ盤が一番良い。アメリカでは『ブルー・レコード』のアナログ盤もCDと同時発売されたし、なかなか好調な売れ行きだよ。最近は世界的にアナログが見直されようとしているんだ。

●2010年3月にはアイシスとのジョイント・ジャパン・ツアーが決定していますが、どんなショーを期待すれば良いでしょうか?

今回は初めての日本ツアーだから、とにかくインパクトのあるショーをやって、アイシスを見に来たお客さんにバロネスの名前を覚えてもらうようにするよ。俺たちはビッグなスターじゃないし、初めての土地で尊大な態度をとるようなことは出来ない。だからショーを見せるというよりも、俺たちが演奏するから、みんなはクレイジーになって欲しい。『ブルー・レコード』からピート・アダムスがギタリストで加わったことによって、さらにライヴ・パフォーマンスが向上したし、みんなと一緒に盛り上がれると信じている。日本の文化にも興味があるし、ぜひあちこちを歩いて回りたいね。あと事前に言っておくけど、俺たちは曲間にくだらないMCで時間を潰すことはしない。持ち時間がある限り、俺たちはギリギリまで演奏を続けるんだ。

【ソニーミュージックオフィシャルサイト/バロネス】

https://www.sonymusic.co.jp/artist/baroness/

【バンド公式サイト】

https://yourbaroness.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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