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ホークウィンドの時空を超えたディープ・スペースへの旅路をデイヴ・ブロックと往く【インタビュー後編】

山崎智之音楽ライター
Hawkwind / courtesy Cherry Red Records

2023年9月に歴史的ライヴ・アルバム『宇宙の祭典(スペース・リチュアル)』(1973)の50周年アニヴァーサリー限定ボックス・セットを海外でリリースするホークウィンドへのインタビュー、全2回の後編。

前編記事に引き続き、デイヴ・ブロックと共にさらにディープな外宇宙へと旅立ち、バンドの知られざる逸話を語ってもらおう。

Hawkwind『Space Ritual 50th Anniversary Edition』ジャケット(Cherry Red Records / 2023年9月29日海外発売)
Hawkwind『Space Ritual 50th Anniversary Edition』ジャケット(Cherry Red Records / 2023年9月29日海外発売)

<自分たちの信じる音楽をやって、それがヒットしたら嬉しいし、しなくても仕方ない>

●1972年に「シルヴァー・マシーン」が全英チャートのトップ3ヒットを記録していますが、『宇宙の祭典』に収録されていないのは、当時ライヴで演奏していなかったのですか?それとも演奏したけれどアルバムに収録されなかったのですか?

私は「シルヴァー・マシーン」を毎晩プレイしたように記憶しているんだけど...今回発掘された3公演のテープにも収録されていないんだよね...もしかしたらアンコールで演奏して、その部分はテープに捉えられなかったのかも知れない。それともイギリス・ツアーでまったくプレイしなかった可能性もある。さすがに50年前だと覚えていないんだよ。

●近年のライヴでも「シルヴァー・マシーン」をプレイしないときがありますね。

うん、ホークウィンドのライヴはヒット・シングルをプレイするポップ・ショーではないんだ。何が起こるか予想出来ないスリルを重視しているんだよ。私たちは初期のナンバーもプレイするけど、新しめの曲もプレイする。50年以上やっているし、たくさん曲があって、すべてを網羅することは出来ないんだ。音楽を前進させていくには、一箇所に留まることは出来ない。だからヒット・シングルでもプレイしないこともあるんだ。

●「アーバン・ゲリラ」(1973)や「ニードル・ガン」(1985)あたりはキャッチーなフックのあるストレートめなロックですが、その頃はヒットを狙っていましたか?

そういうわけではなかったな。とにかく自分たちの信じる音楽をやって、それがヒットしたら嬉しいし、しなくても仕方ないと思っていた。「ニードル・ガン」は良い曲だと思うけど、さほどヒットはしていないよね。

●『宇宙の祭典』はブリクストンとリヴァプールで収録された音源から構成されていますが、サンダーランド公演はレコーディングされたものの、音質が良くなかったため使われなかったと言われてきました。今回使用されたサンダーランドの良好な音源は新たに発見されたのですか?

うん、サンダーランドの音源は 2インチのアンペックスのテープが自宅の倉庫にあったんだ。もう何十年も再生していなかったから、高温で炙って磁気を復旧させる必要があった。アルバムの音質ははるかに向上している。今のベーシストのダグ・マッキノンは昔からのホークウィンド・ファンで、ニュー・ヴァージョンを聴いてすごくエキサイトしていたよ。スティーヴン・W・テイラーによるリミックスと5.1chミックスも本当に素晴らしい。今回のボックスでライナーノーツを書いているロブ・ゴドウィンとは何年も前から知り合いなんだ。彼は月面着陸や天文学についての著作があったり宇宙飛行士と友達だったりして、興味深い人物だよ。ブックレットには当時のレアな写真も使われているし、充実したものになる。

●今後、未発表ライヴ音源を発表する予定はありますか?

1970年代のライヴ・テープは他にもあるし、ファンからのニーズがあれば出していきたいと考えているよ。1970年のケンブリッジ“コーン・エクスチェンジ”でのテープも発見した。ヒュー・ロイド=ラングトンのギター・プレイが素晴らしいんだけど、かなりエコーがかかっているし、音質をどれぐらい調整出来るか...他にも倉庫にたくさんのテープがあるし、少しずつ掘り起こしていくつもりだ。

●1972年11〜12月の英国ツアーはロンドン/リヴァプール/サンダーランドの3公演だけレコーディングしたのですか?他の公演もレコーディングした記憶はありますか?

私はミュージシャンで、ステージで演奏するだけだ。それがレコーディングされているかは意識していないんだよ。後でテープを聴かされて、そのとき初めて録音されていたことを知るんだ(笑)。でも『宇宙の祭典』ツアーからのライヴ音源はこれですべてだと思う。

Dave Brock 2021 / courtesy Cherry Red Records
Dave Brock 2021 / courtesy Cherry Red Records

<ホークウィンドとジミ・ヘンドリックスが組んだら...想像を絶するね>

●ブリクストン・サンダウン公演にプリティ・シングス〜ピンク・フェアリーズのトゥインクが飛び入りしたという説がありますが、それは本当でしょうか?彼との関係はどんなものでしたか?

...トゥインク?いたっけ?...正直覚えてないなあ。彼が何度かホークウィンドとジャムをやったことは確かだ。でも具体的な日付や場所、それがレコーディングされたかは記憶にないんだ。彼とはラドブルック・グローヴの音楽シーンの繋がりだよ。ピンク・フェアリーズというバンドでやっていて、よくホークウィンドと一緒に土曜の午後、ポートベロ・ロードの高架下でライヴをやったし、メンバー同士でジャムをやったりもした。1960年代後半のラドブルック・グローヴの音楽シーンはエキサイティングだったね。アンダーグラウンドなロックもあればサウンドシステムもあった。洋服ダンスみたいなでかさのスピーカーからレゲエが噴き出していたよ。インディペンデント系新聞の“フレンズ”のオフィスの隣にはジャマイカから直輸入してくるレゲエやスカのレコード店があった。混沌として面白い時代だったな。

●トゥインクは元ピンク・フロイドのシド・バレットとバンドを組むなどしていましたが、あなたはシドと交流がありましたか?

いや、一度も会ったことがなかった。ホークウィンドはピンク・フロイドより数年遅れてデビューしたけど、若い頃はその数年が大きな差を生むんだ。彼とぜひ話してみたかったね。

●ジミ・ヘンドリックスはレミーやアーサー・ブラウンと繋がりがあり、1970年にラドブルック・グローヴで亡くなりましたが、会う機会はありましたか?

残念ながらジミとも接点がなかったんだ。アーサーはジミとアメリカでライヴをやったし、レミーはホークウィンドに加入する前、ジミのローディーだったことがある。ホークウィンドとジミが組んだらどんな音楽が出来たか...想像を絶するね。

●2021・2022年の“ホークフェスト”にはホークウィンドを筆頭にザ・クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンやソフト・マシーンが出演したのに加えて、ジンジャー・ワイルドハート&ザ・シナーズが出演したのが少々意外でした。ジンジャーを選んだのはあなたですか?

うん、ジンジャーのことは知っているし、才能に溢れるアーティストだと思う。ザ・ワイルドハーツよりも彼が今やっているザ・シナーズの方がホークフェスト向きだと思ったんだ。それに若干毛色の違うアーティストが出演した方がフェスティバルとして面白いと考えた。それで出演をオファーすることにしたんだ。

●ホークウィンドは世代を超えてスペース・ロック、メタル、パンク、レイヴなど多岐にわたるスタイルのバンドに影響を与えてきましたが、何故これだけ幅広い層のリスナーから支持されるのでしょうか?

常に進化することを止めないからだと考えているよ。同じことばかりやっていたら音楽が停滞するし、飽きられてしまう。私たちは音楽そのものはもちろん、テープ・マシンやループ、サンプリングなどの要素も取り入れて、新鮮なアプローチをしてきた。リスナーも大事だけど、自分自身の興味を惹き続けたいんだ。

●2024年にツアーを行う予定はありますか?

どうだろうな、私も82歳になるからね。でも日本に呼んでくれればすぐに行くよ。一度ジャパン・ツアーがブッキングされたとき、大きな地震(2011年、東日本大震災)で中止になったんだ。その後に日本に行くことが出来て本当に嬉しかったね(2015年4月)。お客さんからの反応は素晴らしいものだったけど、そのときは東京2日のみで、地方公演がなかった。次回は他の都市でもプレイしたいし、日本のいろいろな景色を見てみたいね。現時点ではまだ2024年の予定は立てていないんだ。歳を取るとあまり先の予定は立てるべきではないんだよ(笑)。

1時間近く話してくれたデイヴだが、ホークウィンドの55年近くに及ぶ波乱の軌跡はそれだけで語りきれるものではない。次回記事はさらにバンドの音楽を掘り下げるべく、筆者(山﨑)によるデイヴへの2014年の失われたアーカイヴ・インタビューを再掲載する。こちらでの証言も貴重極まりないものなので、ぜひご一読いただきたい。

【バンド公式サイト】

http://hawkwind.com/

【海外レコード会社サイト】

https://www.cherryred.co.uk/artist/hawkwind/

【日本語でホークウィンドを知ることが出来る情報サイト】

HAWKWIND DAZE

http://news.hawkwind.jp/

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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