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チャック・ライト/L.A.ロック・シーンとランディ・ローズの思い出【後編】

山崎智之音楽ライター
Chuck Wright / photo by Roy Braatz

初のリーダー・アルバム『Chuck Wright's Sheltering Sky』を発表したハード・ロック/ヘヴィ・メタル界屈指のベーシスト、チャック・ライトへのインタビュー後編。

前編記事では彼のアルバムについて語ってもらったが、今回はロサンゼルスのロック・シーンでの活動、そしてランディ・ローズとの交流などについて訊いた。

『Chuck Wright's Sheltering Sky』ジャケット / 米Cleopatra Records 現在発売中
『Chuck Wright's Sheltering Sky』ジャケット / 米Cleopatra Records 現在発売中

<人生ずっと、ロサンゼルスの音楽シーンに関わってきた>

●現在あなたはクワイエット・ライオットのメンバーではないのですよね?

その通りだ。去年(2021年)脱退してルディ・サーゾが復帰したよ。クワイエット・ライオットに最初に入ったのは1981年だった。それから3回だか5回脱退して、再加入してきた。ルディと交互に出たり入ったりしてきたんだ。9枚のアルバムでプレイしているよ。2011年からクワイエット・ライオットの一員としてツアーしてきたんだ。コロナ下でも回数こそ減ったけど、ライヴはやっていた。ただ俺は人生の変化を必要としていたし、アルバム『Sheltering Sky』を完成させることに全力投球したかった。それで辞めることにしたんだ。バンドのみんなとは友達だし、ケンカしたわけではないよ。

●ルディ・サーゾとは親しい仲ですか?

うん、2人ともベーシストだから同時に同じバンドに在籍したことはないし、一緒にツアーしたことはないけど、友人だよ。ただ、もう何年も話す機会がなかったな。まあ、カルロス・カヴァーゾともずっと話していないけど...カルロスとも良い関係だけど、彼には電話をかけ直すという習慣がないんだ。

●あなたとルディのベース・プレイのスタイルには共通するものがあるでしょうか?彼がアルバムで弾いたフレーズをあなたがライヴで弾くこと、あるいはその逆はやりやすいですか?

ルディも俺もストレートな、顔面にガツンと食らわすようなプレイを志しているから、スタイルは大きく異なってはいないんだ。ショーン・マクナブがベーシストとして加入したこともあるけど、俺たちのフレーズを弾くのにあまり苦労はしなかった筈だよ。クワイエット・ライオットの『Well Now You're Here, There's No Way Back』(2014)というドキュメンタリー映画があって、動画配信サイト“ショウタイム”で大ヒットしたんだけど、メンバーの変遷がよく判るよ。クワイエット・ライオットはミュージシャンの集まりというより、ひとつの音楽運動体なんだ。メンバーが替わっても、続いていくんだよ。

●オジー・オズボーンの『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』(1981)やホワイトスネイクの『白蛇の紋章』(1987)、クワイエット・ライオットの『メタル・ヘルス』(1983)のタイトル曲など、ルディは自分がプレイしていない作品のおかげで高く評価されることもあるベーシストですね。もちろん彼が意図してそうしているわけではないですが...。

ルディは俺が知っている中で、世界で最もラッキーなミュージシャンの1人だな(笑)。ちょうど良いタイミングでチャンスを手にしたんだ。でも彼はその“幸運”を掴むためにとてつもない努力をして、それが実ったんだよ。優れたプレイヤーだし、とてもナイス・ガイだ。彼の成功を俺も喜んでいる。

●あなたはいつからロサンゼルスの音楽シーンに関わってきたのですか?

人生ずっとだよ。5歳のときからL.A.に住んでいるし、15歳で最初のバンドを始めた。最初はギターを弾いていたけど、17歳の頃にベーシストが脱退したんだ。他のメンバーに「ベースは弾ける?」って訊かれて、まあ4本しか弦がないから楽だろうと考えて、弾くことにした。それほど甘くはなかったけどね!それまで空軍学校でほぼ9年学んで、パイロットになるつもりだったけど、UCLAでライヴをやって、ビールが飲み放題で、女の子たちにキャーキャー言われたことで、自分がやりたいのはこれだ!と確信した(笑)。人生が変わってしまったんだ。正直おふくろはハッピーではなかったようだけど、人生やりたいことをやれと応援してくれた。“ウイスキー・ア・ゴーゴー”みたいな地元のクラブでプレイするようになったのは1978年頃だった。

●音楽の専門的な教育は受けましたか?

いや、いろんなバンドのライヴを間近で見ることであらゆることを学んだよ。イエス、ブラック・サバス、クイーン、デヴィッド・ボウイ...彼らからスポンジのように吸収して、自分の血と肉にしていった。どんな学校に行くよりも、それが勉強になったんだ。

●1970年代後半のロサンゼルスというとモトリー・クルーやクワイエット・ライオット、カルロス・カヴァーゾがいたスノウのような初期メタル、Xやブラック・フラッグなどのパンク、DEVO(オハイオ州から進出)やザ・ナック、ザ・GO-GO'sといったニュー・ウェイヴが群雄割拠していた時期ですよね?

うーん、それは1981年ぐらいかな。クワイエット・ライオットのリハーサル・ルームから道路を隔てた場所でDEVOもリハーサルしていたし、モーテルズ、THE FIXXも顔見知りだった。

●1981年、あなたがクワイエット・ライオットに加入したとき、バンドはどんな状態にありましたか?

俺が加入したとき、バンドの名前はクワイエット・ライオットではなかったんだ。ランディ・ローズがオジー・オズボーンのバンドでやるために脱退した後、ケヴィン・ダブロウが中心になって“ダブロウ”名義でライヴをやっていた。それが“パシャ・ミュージック”のスペンサー・プロファーの目に留まって、彼が“CBSレコーズ”との契約を取り付けてくれたんだ。そうしてスノウというバンドで、L.A.のクラブ・シーンではけっこう評判だったカルロス・カヴァーゾを加えて活動することになった。ランディがいた初期のクワイエット・ライオットと『メタル・ヘルス』以降のクワイエット・ライオットは実質、別のバンドなんだ。音楽的にもハード・ポップ寄りからヘヴィなロックになったし、共通点はケヴィンのヴォーカルぐらいなものだった。だから異なったバンド名でやるつもりだったよ。でもレコード会社が提案してきたバンド名が最悪なものばかりでね。ワイルド・オスカー、スタンディング・ハンプトンとか、どちらも下ネタのスラングで、ケヴィンが怒りだして「ふざけるな。だったらクワイエット・ライオットを名乗ろう」ということになったんだ。

●あなたの前任ベーシストだったケリー・ガルニがケヴィン・ダブロウを銃で撃とうとしてクビになったというのは本当ですか?

L.A.のメタル・シーンにはいろんな伝説があるけど、その話は知らないなあ(苦笑)。

Dubrow 1981 / courtesy of Chuck Wright
Dubrow 1981 / courtesy of Chuck Wright

<ランディ・ローズは常に学ぶ姿勢を持っていた>

●初めてランディ・ローズと会ったときのことを覚えていますか?

うん、ランディはもうオジーのバンドでやっていて、ケヴィンの家に遊びに来たときに会ったんだ。彼も俺も鉄道模型のマニアで、その話題で盛り上がったのを覚えているよ。ユーモアがあって、とても面白い人間だった。彼のガールフレンドのジョディは俺が通っている美容院のヘアドレッサーだった。彼女とは今でも友達だよ。ランディはずっとケヴィンと連絡を取り合っていた。「イギリスのファンは凄いよ!みんな首を叩きつけて(bang their heads)いるんだぜ」とランディが話したのがヒントになって、「No More Booze」という曲を「Metal Health (Bang Your Head)」と改題したんだ。

●クワイエット・ライオットの初期2枚のアルバムとオジー・オズボーンのアルバムでは、ランディのギター・プレイが大きな変化を遂げていることが明らかです。あなたはその変化の現場に居合わせましたか?

オジーと組んだことで意識してヘヴィなスタイルにした部分もあっただろうけど、劇的な変化があったね。それは別にオジーが魔法をかけたわけではなくて(苦笑)、ランディ自身の努力の結果だった。彼は常に学ぶ姿勢を持っていた。オジーのバンドに入ってからも生徒にギターを教えていたし、自分も練習をして、ツアー先でもレッスンを受けていた。「俺はランディ・ローズにギターを教えた!」という人間に何人も会ったことがあるよ。もし彼が生きていたら、どんなミュージシャンになっていたか...それを永遠に知ることが出来ないのが残念でならないよ。オジーのおかげでランディは世界に知られるようになったけど、ランディがオジーのソロ・キャリアを成功に導いたことも事実だった。彼のギター・リフとメロディは本当にスペシャルだったよ。

●フランキー・バナリは1980年代初め、さまざまなセッションでドラムスを叩いていましたね。

うん、フランキーはクワイエット・ライオットに最も長く在籍してきたメンバーだったし、バンドのマネージャーだった時期もあったけど、いろんなミュージシャンと共演もしてきたんだ。ビリー・アイドルやWASPのアルバムでも彼のドラムスを聴けるし、元ディープ・パープルのグレン・ヒューズが結成したヒューズ/スロールの『仮面の都市 Hughes Thrall』(1982)では数曲で叩いていて、彼のベスト・プレイのひとつだよ。

●ジェフリアやハウス・オブ・ローズ時代の仲間たちとは連絡を取っていますか?

ちょっと前にグレッグ・ジェフリアから連絡があって、ジェフリアの新作に参加しないかって誘われたんだ。当初はクレイグ・ゴールディとデヴィッド・グレン・アイズリーも参加すると言っていたけど、それは何かの理由で実現しなくなって、俺も『Sheltering Sky』に専念したかったから辞退した。「バンドとしてのジェフリアでなく、グレッグ・ジェフリアのソロ・アルバムとして出せば?」と言ったら黙っていたよ。そのプロジェクトは今も続いていて、ジャーニーにいたディーン・カストロノヴォが歌っているという噂を聞いた。グレッグとは友達だし、また声をかけてくれたら前向きに考えるよ。俺はジェイムズ・クリスチャンとも連絡を取り合っているし、ハウス・オブ・ローズが昔のラインアップでライヴをやる話があれば、ぜひ誘って欲しいね。

House Of Lords 1990 / courtesy of Chuck Wright
House Of Lords 1990 / courtesy of Chuck Wright

<オリヴィア・ハッセーは地に足の着いた人なんだ>

●今後の予定を教えて下さい。

『Sheltering Sky』のプロモーションでインタビューを受けたりしているし、ホワイト・ライオンのドラマーだったグレッグ・ディアンジェロ、グレイト・ホワイトのシンガーだったテリー・ルース、オジーのバンドのツアーでキーボード奏者だったケヴィン・ジョーンズとの“レジェンズ・オブ・クラシック・ロック”というバンドでもライヴをやっているんだ。あと自分の“アコースティック・セインツ”というバンドも軌道に乗っている。クラシック・ロックの名曲をヴァイオリンやマンドリンをフィーチュアしてプレイするんだ。シンガーのスタン・ブッシュとはもう10年ぐらい一緒にやっている。スタンは最近アルバムも出しているし、映画『トランスフォーマー・ザ・ムービー』(1986)で使われた「ザ・タッチ」が今でも人気で、全米各地のコミック・コンベンションに招かれて歌っているよ。オーディオブックの朗読や、いろいろやっているらしい。今でも素晴らしい声をしているし、気が合う友人だ。彼らとのライヴ活動を続けていくつもりだ。

●ジェフリアのシンガーだったデヴィッド・グレン・アイズリーの奥さんオリヴィア・ハッセーとは知り合いですか?

もちろん。1991年だったか、彼らが出会った瞬間にも立ち会ったんだよ!デヴィッドと俺、俺の当時の婚約者という3人で軽食堂で朝食を取っていたんだ。そのときオリヴィアも偶然、同じ店に居合わせた。デヴィッドがチラチラ彼女の方を見て、気にしていたのを覚えている(笑)。そのとき彼は話しかけたりしなかったけど、家に戻ってから「オリヴィア」という曲を書いて、彼女のエージェントを経由してプレゼントしたんだよ。自分の電話番号を書いておいたら彼女から直接連絡があった。オリヴィアは映画のロケで国外にいたから、それから2,3ヶ月は直接会うこともなく、電話で話す間柄だったそうだ。それで2人は結婚して、今でも幸せに暮らしているよ。世界中の男性が映画『ロミオとジュリエット』(1968)で彼女に夢中になったけど、彼女自身は地に足の着いた人なんだ。

●日本人ギタリストでL.A.で活動したKUNIとは長い付き合いですね。

うん、もう40年近くの仲だよ。彼のファースト・アルバム『Masque』(1986)でもプレイしたし、いつも連絡を取り合っているよ。彼は音楽に対してはシリアスだけど、一緒にいると笑いが絶えないんだ。また日本で彼に会えるのが楽しみだ。

●今回『Sheltering Sky』でソロ・アーティストとしてスタートを切りましたが、今後もソロ・キャリアを追求することになりますか?

うん、『Sheltering Sky』に入らなかった曲もあるし、さらに新しい曲を書いていくから、世界中の音楽ファンにこのアルバムを聴いてもらって、これからも新作を出していきたいね。古い友人をゲストに迎えたり、新しい才能を世界に解き放っていきたい。楽しみにして欲しいね!

Chuck Wright / courtesy of Chuck Wright
Chuck Wright / courtesy of Chuck Wright

【アーティスト公式サイト】

https://www.chuckwright.com/

【アルティメット・ジャム・ナイト公式サイト】

https://www.ultimatejamnight.com/

【ニュー・アルバム】

Chuck Wright's Sheltering Sky

『Chuck Wright's Sheltering Sky』

Cleopatra Records 現在発売中

【海外レーベルサイト】

http://cleorecs.com/home/playlist/chuck-wrights-sheltering-sky/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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