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チャック・ライト/クワイエット・ライオット、ジェフリアで活躍してきたベーシストがソロ始動【前編】

山崎智之音楽ライター
Chuck Wright /John Schaeffer Photography

ハード・ロック/ヘヴィ・メタルのファンだったら、CDラックには彼がプレイしたアルバムが必ず何枚かあるに違いない。

チャック・ライトは40年以上にわたって第一線で活動してきたベーシストだ。クワイエット・ライオット、ジェフリア、ハウス・オブ・ローズなどでヒットを飛ばしてきたのに加えて、彼は100枚を超える作品に参加、そのプレイはリスナーを魅了してきた。

そんなチャックが2022年、満を持して発表するリーダー・アルバムが『Chuck Wright's Sheltering Sky』だ(以下『Sheltering Sky』とする)。メタル、ロック、フュージョン、エレクトロニカなど多彩な音楽性を網羅。ゲストに故パット・トーピー(Mr. BIG)、ジェフ・スコット・ソート(サンズ・オブ・アポロ)、デレク・シェリニアン(元ドリーム・シアター)などを迎えて、豪華なアルバムに仕上げている。

その新たなる旅立ちとその豊潤なキャリアについてチャックが語ったインタビューを前後編の全2回でお届けする。まず前編は『Sheltering Sky』について訊いてみよう。

『Chuck Wright's Sheltering Sky』ジャケット/ 米Cleopatra Records 現在発売中
『Chuck Wright's Sheltering Sky』ジャケット/ 米Cleopatra Records 現在発売中

<いつになったら人間は戦争の愚かさに気付くんだろう>

●日本向けのインタビューということで、よろしくお願いします。

アルバム『Sheltering Sky』は日本の音楽ファンにぜひ聴いてもらいたいんだ。俺のミュージシャンとしてのキャリアにおいて、日本は常に重要な位置を占めてきた。幾つも素晴らしい思い出があるよ。初めて行ったのは1985年、ジェフリアのジャパン・ツアーだった。日本でプレイするのは夢だったし、ライヴ・ビデオも撮影すると言われて、すごくエキサイトしたのを覚えている(『ジャパン・ツアー'85』)。クワイエット・ライオットの日本公演では、当時出来たばかりのスモー・アリーナでライヴをやったんだ(1986年、両国国技館)。2010年の“LOUD PARK”フェスでのKUNIのショーも楽しかった。KUNIとは古い友達だよ。俺のガールフレンドが日本人だし、日本料理も大好きだ。あらゆる面で相性が良いんだよ。

●『Sheltering Sky』はあなたの多彩な音楽性を聴くことが出来る素晴らしいアルバムですね。何故あなたがこれまでリーダー・アルバムを作らなかったのか不思議なぐらいです。

まあ一番の理由は、いろんなバンドでプレイして忙しかったからだよ。それに加えて2015年からはロサンゼルスのクラブ“ウイスキー・ア・ゴーゴー”で“アルティメット・ジャム・ナイト”というライヴ・イベントを週1で企画してきたんだ。50人から100人ぐらいのプロ・ミュージシャンの中からスケジュールを調整してブッキングする作業は大変だ。でもCOVID-19のせいで、すべてのショーが中止になってしまった。それで自分の曲を書き始めたんだ。当初はアルバムを作るとか、そういうことはまったく考えていなかった。

●アルバム用の曲は、すべて新型コロナウィルス禍以降に書かれたものですか?それ以前から書き溜めていた曲もありましたか?

すべてが新曲だよ。最初に書いたのは「The Weight Of Silence」だった。パンデミックが始まって、テレビを付けるとニューヨークの街が映し出されるけど、人っ子一人いないんだ。まるで世界の終わりのように思えた。そんな気持ちを曲にしたんだ。同時にビデオも作って、それをウェブで公開したら、テスラのトロイ・ルケッタが連絡してきた。「良い曲だね。ドラムスを叩かせてよ!」ってね。彼の家にホーム・スタジオがあるから、ドラム・トラックを録って送ってもらった。さらにデレク・シェリニアンにキーボード、地元のジャズ/フュージョン・ギタリスト、アレン・ハインズにギターを弾いてもらったんだ。それから曲を書き続けて、いろんな友達に声をかけてプレイしてもらった。「Farewell Horizon」はフュージョン・スタイルのインストゥルメンタルで、LAで活躍する日本人ギタリストのトシ・ヤナギに弾いてもらったら最高だと思った。彼はさまざまなスタイルで弾けるし、ギターのパートを書いてくれたんだ。そうしてビョークのカヴァー「Army Of Me」を含めて5曲が完成した。“クレオパトラ・レコーズ”のブライアン・ペレラに聴かせたらすごく気に入ってくれて、アルバムとして完成させることにしたんだ。アルバムには総勢41人のゲスト・ミュージシャンが参加しているよ。

●ソングライターとして、新しいアプローチは取りましたか?

うーん、ソングライティングというものはオーガニックなもので、「さあ、これから曲を書くぞ」という作業ではないんだ。昔と今で大幅に異なったことはしていないよ。1980年代、ハウス・オブ・ローズでも曲を書いていたし、クワイエット・ライオットの『QRIII』(1986)では全曲を共作している。ラリー・コルドーラと一緒にやったケイオス・イズ・ザ・ポエトリーというバンドのアルバム『Chaos Is The Poetry』(1996)、それからパット・トーピーやラリーとやっていたオッド・マン・アウトの『オッド・マン・アウト』(1998)『y2k』(1999)でも曲を書いているよ。あのバンドは大勢のゲストを迎えて、『Sheltering Sky』に近いアプローチかも知れない。ソングライティングにも共通するものがあると思う。

●『Sheltering Sky』の音楽性は多岐にわたるものですが、どんなアルバムにしようと考えましたか?

とにかく自分のアートを追求したんだ。“こんなアルバムにしたら売れるぞ”とか、一切考えなかった。バンドやレコード会社のしがらみもなかったし、自由に音楽をやることが出来たよ。

●ビョークの「Army Of Me」をカヴァーしたのは、どんな意図があったのですか?

ビョークのアルバム(『ポスト』/1995)が好きだったんだよ。ロックダウン中にいろんな音源ファイルを聴き直していたら、生前のパット・トーピーとやったトラックが見つかったんだ。彼の自宅でジャムをやって、「Army Of Me」のパターンを一緒にプレイした。ビョークのあの曲のドラムスはレッド・ツェッペリンの「レヴィー・ブレイク」のサンプリングなんだ。録ったまま放置していたけど、それを完成させたのがアルバムのテイクだよ。歌っているのはホイットニー・タイだ。彼女とは“アルティメット・ジャム・ナイト”で知り合ったけど、音楽的にも人間的にも合う部分が多くて、3曲で歌ってもらった。「Time Waits For No One」では共作もしている。

●ビョーク自身も「Army Of Me」のヘヴィ・ヴァージョンをイギリスのバンド、スカンク・アナンシーとやっていましたね。

へえ、知らなかったよ。聴いてみるね。

(聴いた後の感想は「すごい絶叫しているね。でもビョークはユニークだよ」とのこと)

●ビョークは「Isobel」をカーカスと共演したり、元パートナーのマシュー・バーニーがブラック・メタルのファンだったりするなど、メタルと世界観が繋がるものがあるのでしょうか?

ビョークの音楽はメタルではないけど、メタルと通じるハーシュさがあるよね。ミックスはティム・ジャンセンズが手がけているんだ。彼は素晴らしい映像作家でもあって、「Army Of Me」のビデオ制作にも関わっている。ちょうどこの時期にルース・ベイダー・ギンズバーグ元判事が亡くなったことで、人権というものを信じる“アーミー=軍団”がいることをビデオで描きたかったんだ。

●もう1曲のカヴァーである「Darkness Darkness」について教えて下さい。

「Darkness Darkness」は1969年にヤングブラッズが発表した曲なんだ。ロバート・プラントとかもやっているけど、俺はオリジナルを基にしながら、よりケルティックな要素を加えたヴァージョンにしたかった。フィドルやバウロンを取り入れたりして、映画『ブレイブハート』みたいに、シネマティックな仕上がりになったよ。この曲で歌っているデヴィッド・ヴィクターはボストンに在籍したことがある、素晴らしい才能を持ったシンガーだよ。

●アルバムのハード・サイドを代表する「Throwin' Stones」はどんな曲ですか?

「Throwin' Stones」の歌詞はザ・スウィートやトランス・シベリアン・オーケストラで歌っているジョー・レッタが書いたものだ。反戦を歌っているけど歌詞は去年、ロシアのウクライナ侵攻の前に書いたんだよ。人間は大昔から石を投げ合って争ってきた。現代はそれがミサイルや空爆に変わっただけだ。 いつになったら人間は戦争の愚かさに気付くんだろうと考えると、悲しくなるよ。

Chuck Wright / photo by Mari Kawaguchi
Chuck Wright / photo by Mari Kawaguchi

<パット・トーピーは音楽にすべてを捧げていた>

●「Army Of Me」「Throwin' Stones」「It Never Fails」には故パット・トーピーが参加していますが、彼とはどのように知り合って、どんな関係でしたか?

パットのドラミングを初めて見たのは1970年代後半、アリゾナ州フェニックスでのことだった。それから友人になって、一緒にバンドをやることにしたんだ。エクスポージャーというバンドで、ヴォーカルとキーボードを担当していたのはジョン・パーデルだった。彼はオジー・オズボーンやドリーム・シアターのプロデューサーとして有名になったよね。彼も亡くなってしまったけど...。同じくプロデューサーとして成功するパット・リーガンもいた。プログレッシヴ風味があって、サーガみたいな、ウルトラヴォックスみたいな...説明するのが難しいけど、ユニークなバンドだったよ。でも、みんなそれぞれ別の道を進むことになった。それで俺は1984年にジェフリアに参加したんだ。

●パット・トーピーがウルトラヴォックスのようなスタイルのバンドでプレイするのを想像するのは容易ではありませんが...。

いや、パットはザ・ナックにもいたぐらいだからね。あらゆるスタイルで叩ける、柔軟なドラマーだったんだ。それは彼の努力の賜物だった。彼は毎日3〜4時間練習をしていたよ。音楽にすべてを捧げていたんだ。

●デレク・シェリニアンとは長い付き合いですか?

うん、大昔からの友達だし、彼のアルバムのブックレットをデザインしたこともある。「The Weight Of Silence」を聴かせたら「いいね!」と言ってくれたんで、シンセとメロトロンを弾いてもらったよ。

●シェリー・ボネとホイットニー・タイの女性ヴォーカルがとても美しく効果的ですが、男性と女性シンガーでは音楽的なケミストリーは異なりますか?

「Cradle Of The Sun (Lorelei)」ではブルージーなヴォイスが必要だと感じたんだ。それでシェリーに連絡を取ってみた。彼女はミッチ・ペリーに紹介してもらったんだ。彼のアルバムで歌っていたからね。それで“アルティメット・ジャム・ナイト”に出演してもらって、それからアルバムへの参加を頼んでみた。彼女は「Throwin' Stones」でもバック・ヴォーカルを歌ってくれている。女声ヴォーカルが効果的なタイプの曲というのは確かにある。「Cradle Of The Sun (Lorelei)」はそんな曲だよ。

●「The Other Side」でギターを弾いているジミー桜井は?

この曲は元々「See You On The Side」というタイトルで、クワイエット・ライオット時代の仲間だったフランキー・バナリが亡くなったことを知ってすぐに書いたんだ。彼との思い出がこみ上げてきて、書かずにいられなかったんだよ。晩年のフランキーはMR. JIMMYでジミー桜井とシンガーのオーガスト・ヤングと一緒にやっていたから、彼らに参加して欲しいと頼んだんだ。この曲では5人のギタリストがプレイしているけど、ジミーのギターも素晴らしいよ。彼も何度か“アルティメット・ジャム・ナイト”に出演してくれて、レッド・ツェッペリンの曲をジャムしたことがある。2019年の終わり、パンデミックが始まる前に日本に行ったとき、MR. JIMMYのリハーサルにも行った。ジミーのジミー・ペイジなりきりぶりは凄いね!レッド・ツェッペリンの“〜年〜月〜日、〜公演”まで特定して、その日のプレイをミスまで再現してプレイしてしまうんだ。

●あなたはグラフィック・デザイナーとしても活躍していますが、『Sheltering Sky』のアートワークも手がけていますか?

いや、親友のグレン・ウェックスラーに頼むことにした。彼はヴァン・ヘイレンやKISS、ラッシュなどの作品をデザインしてきた、頼りになるアーティストだからね。アルバムの音を聴いて、ぜひやりたいと言ってくれたんだ。俺は1990年代にはグラフィック・デザイナーとしていろんな作品に関わってきたんだ。200枚以上のCDのパッケージを手がけているよ。ハウス・オブ・ローズもそうだし、ブルース・キューリック、ギルビー・クラーク、マット・ソーラム...トミー・ボーリンのCD再発盤のブックレット・デザインもやった。“アルティメット・ジャム・ナイト”のロゴも俺がデザインしたんだ。「The Weight Of Silence」のビデオも俺が作って、ロック・アライアンス・アワードで“ベスト・インストゥルメンタル”“ベスト・ビデオ”の2部門を受賞したんだよ。すごく光栄に思っているし、これからもっと可能性を掘り下げていきたい。

●『Sheltering Sky』に伴うライヴは考えていますか?

うん、どうやってやるか、いろいろ考えているんだ。俺のイメージしている規模のライヴをそのまま実現させるとしたら、ロジャー・ウォーターズかポール・マッカートニー級の費用が必要だよ。ステージ上に大勢のミュージシャンが必要だし、ギャラもかなりのものになる。映像も流して、マルチメディア的なショーにしたい。サンプルはあまり使いたくないんだ。人間がプレイする、生の演奏が好きなんだよ。現実的にどうやればアルバムの音楽を再現出来るか、大きなチャレンジだね。『Sheltering Sky』からライヴに向いた曲を数曲、それからクワイエット・ライオットやジェフリアなど俺が関わってきたバンドの曲をプレイするのも面白いかも知れない。

後編記事ではチャックがクワイエット・ライオットでの活動、そしてランディ・ローズとの交流について語る。

Chuck Wright / photo by Mari Kawaguchi
Chuck Wright / photo by Mari Kawaguchi

【アーティスト公式サイト】

https://www.chuckwright.com/

【アルティメット・ジャム・ナイト公式サイト】

https://www.ultimatejamnight.com/

【ニュー・アルバム】

Chuck Wright's Sheltering Sky

『Chuck Wright's Sheltering Sky』

Cleopatra Records 現在発売中

【海外レーベルサイト】

http://cleorecs.com/home/playlist/chuck-wrights-sheltering-sky/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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