ホラー映画の巨匠ジョン・カーペンターが5年ぶりの音楽アルバム『ロスト・シームスⅢ』を語る

photo by Sophie Gransard

『ハロウィン』(1978)、『ザ・フォッグ』(1980)、『遊星からの物体X』(1982)などで知られるホラー映画の巨匠、ジョン・カーペンターは、ミュージシャンとしても長く活躍してきた。彼はしばしば自分が監督する映画作品のサウンドトラックを手がけてきたし、オリジナル・アルバム『ロスト・シームス』(2015)『ロスト・シームス2』(2016)も発表している。

そんなカーペンター監督が発表する5年ぶりのニュー・アルバム『ロスト・シームスIII:アライヴ・アフター・デス』もまた、“聴き手の心の中にある映画のためのテーマ曲集”だ。息子コディ・カーペンターと名付け子ダニエル・デイヴィスと共に制作、「ウィーピング・ゴースト」「ドリッピング・ブラッド」「デッド・アイズ」などホラー調のタイトルを冠したインストゥルメンタル・ミュージックは、我々を映像のない真っ暗闇の映画館へといざなってくれる。

彼はニュー・アルバムや新型コロナウィルス下の生活、『ハロウィン』やBABYMETALについて語ってくれた。

<架空のホラー映画のサウンドトラック>

John Carpenter『Lost Themes III / Alive After Death』(Big Nothing / UltraVibe) 2021年2月10日発売
John Carpenter『Lost Themes III / Alive After Death』(Big Nothing / UltraVibe) 2021年2月10日発売

●最近はどのような生活をしていますか?

外界から自分自身を隔離して暮らしているよ。あらゆる物から離れて、ずっとゲームをしている。『Fallout 76』をやっているところだ。ちょっと前まで『ボーダーランズ』シリーズをやっていた。ゲームにはまったのは数年前、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』からだったんだ。『ソニック』の映画は見ていないよ。コントローラーが付いていないからね(笑)!

●あなたの音楽コラボレーターである息子さんのコディ・カーペンターは日本在住でしたが、今も日本にいらっしゃいますか?

いや、コディはアメリカに戻ってきているよ。COVID-19が流行る前に帰国したんだ。彼は日本が大好きで、第2の故郷だと言っている。ホームシックになることもあるみたいだね。

●『ロスト・シームスIII:アライヴ・アフター・デス』はどんなアルバムでしょうか?『ロスト・シームス』『同2』の発展形?それとも異なった表現でしょうか?

最初の2作と基本的にやっているスタイルは同じだ。音楽を聴いた人が恐ろしい映画を思い浮かべる、架空のサウンドトラック・アルバムだよ。自分の心の闇にある、一番恐ろしいイマジネーションに私の音楽を乗せてみて欲しい。そうすることで恐怖が増幅されるだろう。

●過去2作の曲タイトルは抽象的なものが多かったですが(「ベラ・ルゴシ」などの例外を除いて)、『ロスト・シームスIII』では具体的なトピックがタイトルとなっています。それらの楽曲は、あなたの映画と接点があるでしょうか?例えば“幽霊”繋がりで「ウィーピング・ゴースト」と『ザ・フォッグ』(1980)、“吸血鬼”繋がりで「ヴァンパイアズ・タッチ」と『ヴァンパイア最期の聖戦』(1998)とか?

ハハハ、繋がりはないよ。別個の存在だ。ただ、決して無関係でもない。同じカーペンター・ワールドに存在する、私の赤ちゃんだよ。アルバムは全曲がインストゥルメンタルだし、タイトルは想像を拡げるためのヒントなんだ。もちろんタイトルに“幽霊”と付いていても、“宇宙人”のイメージを思い浮かべても構わない。まったく映画のことを考えず、純粋な音楽作品として楽しんでくれてもいい。楽しみ方は自由なんだ。

●『ゴーストハンターズ』(1986)主題歌「ビッグ・トラブル・イン・リトル・チャイナ」のように、ヴォーカル入りの音楽をやることにはもう興味はありませんか?

うーん、いつかまたやるかも知れないけど、『ロスト・シームス』のコンセプトとは異なっているし、別のアルバムでやるよ。

●『ロスト・シームス2』発表後、2016年から2018年まで音楽ツアーを行いましたが、それはどんな経験でしたか?

現実と思えないような経験だった。自分がロックンロール・スターみたいにステージに上がっているというのはシュールだったよ。最高に楽しかったけど、正直緊張したね。でもすぐに慣れた。全身にアドレナリンが走ったよ。日本でもライヴをやりたかった。そうしたらライヴ・アルバムを出したかったんだ。『ジョン・カーペンター・ライヴ・イン・ジャパン』を出すことが出来たら、私のファンタジーが完成するよ。私はまだ日本に行ったことがないんだ。一度も、だよ(溜息)?

●アルバムからのシングル「アライヴ・アフター・デス」のミュージック・ビデオは英国リヴァプールのグラフィック・アーティスト、ボーンフェイスがヴィジュアルを担当していますが、あなたの持つイメージはどの程度反映されていますか?

あのビデオは私の持つイメージを、ボーンフェイスのスタイルで実現させたものだ。彼にすべてを任せたわけではないし、私のヴィジョンを押しつけたわけでもない。ロック・バンドのジャムのように、お互いの個性を尊重しながら創り上げたんだ。

●ボーンフェイスは音楽ファンにはクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのアルバム・ジャケットでよく知られていますが、彼らの音楽は聴いたことがありますか?

うーん、少し耳にしたことがある程度なんだ。でも彼らのアルバム・ジャケットは知っているし、いつか聴いてみようと考えているよ。

John Carpenter / photo by Sophie Gransard
John Carpenter / photo by Sophie Gransard

<BABYMETALもジェイミー・リー・カーティスも私のヒーローだ>

●あなたとコディ、ダニエルは2018年版『ハロウィン』のスコアも手がけましたが、映画音楽を書くのはアルバムとは異なった作業ですか?

映画音楽には最初から映像があって、そのイメージに沿って曲を作っていく。まるで異なった作業だよ。『ロスト・シームス』の場合、前提となるイメージがないから、自分たちの脳内にあるインスピレーションを音楽にしていくんだ。どちらの作業も楽しんでいる。楽ではないけど、映画を監督するよりもピュアな作業だ。映画監督は“映画を作る”以外の煩雑な仕事が多すぎる。炭鉱作業員並の重労働だ。73歳になると腰と膝に来るね。酷いもんだよ(苦笑)!

●ところで2018年版『ハロウィン』をどう思いましたか?

大好きだよ。『ハロウィン』第1作の精神を受け継いでいると思う。次の『ハロウィン・キルズ』(2021年公開)はそれ以上の傑作だ。信じられない。センセーショナルだよ。既に完成していて、公開を待っているところなんだ。こちらでも私が音楽を手がけている。サウンドトラック・アルバムを出せるかまだ判らないけど、COMING SOONだよ。

●『ロスト・シームスIII』は過去作よりギターの占める割合が増したように感じましたが、ギターはすべてダニエル・デイヴィスが弾いたもの?

うん、その通りだ。

●あなたは『ゴースト・オブ・マーズ』でアンスラックスやスティーヴ・ヴァイ、バケットヘッドなどを起用して、ブラック・サバスやメタリカなどヘヴィ・メタル・バンドのファンであると語っていますが、ダニエルがいたロック・バンド、カルマ・トゥ・バーンは聴いたことがありますか?

うん、聴いたことがあるよ。ヘヴィでとてもクールなバンドだ。ダニエルはもうひとつバンドをやっていて(注:イヤー・ロング・ディザスターのこと)、そちらも好きだよ。彼は素晴らしいギタリストだし、もっと評価されるべきだ。

●海外メディアであなたがBABYMETALのファンであると報じられましたが、どんなところを気に入ったのですか?

BABYMETALのライヴ映像を見たんだ。あちこちで評判になっていたから、興味を持って見てみた。日本武道館か東京ドームのどちらかだと思う。キュートな女の子たちが大観衆をコントロールするスペクタクルが素晴らしいし、彼女たちが歌う曲は、まったく聴いたことのないものだった。ダンスやコレオグラフィ(振付)も最高で、彼女たちのライヴをぜひ見たいと思った。いずれ何らかの形でコラボレーション出来たら最高だね!

●BABYMETALは『ハロウィン』主演のジェイミー・リー・カーティスとはかなり異なっていますが、あなたがイメージする女性ヒーロー像にはどちらが近いでしょうか?

異なったタイプと思うかも知れないけど、どちらも私のヒーローだよ。悪い奴の尻を蹴り上げるタイプだ。

●2018年版『ハロウィン』、そしてライヴのステージで、あなた自身が1978年に書いたテーマ曲を再演したのは、どんな経験でしたか?

『ハロウィン』のテーマは1970年代から私のキャリアの重要な一部分なんだ。世界あちこちのたくさんの人にとって、あの曲は悪夢のサウンドトラックだったよ。私が13歳のとき、父親がボンゴで5/4拍子のリズムを教えてくれたんだ。それを応用したのが『ハロウィン』のテーマだった。ステージでコディとダニエルと演奏したとき、お客さんは全員総立ちになってクレイジーになったよ!とてもベーシックで効果的な曲構成だし、2018年でも崩したくなかったんだ。若干モダンなアレンジにしたけど、過剰にいじることはしなかった。『ダーク・スター』(1974)と『ジョン・カーペンターの要塞警察』(1976)、そして『ハロウィン』の音楽を自分で書いた理由は2つあった。自分で書くのが一番早くて、一番安かったからだよ(笑)。もちろんそれらの音楽にはハートと魂のすべてを注入したし、今でも愛されているのは本当に嬉しい。

●あなたは海外メディアでのお気に入りの映画音楽ベスト10で『めまい』(1958)、『北北西に進路を取れ』(1959)、『地底探検』(1959)というバーナード・ハーマンの3作品を挙げていましたが、どんなところが好きですか?自分の音楽への影響はありますか?

バーナード・ハーマンの音楽にあるふとした隙間、彼の音楽へのアプローチから影響を受けたよ。彼はチェロの高音、コントラバスの低音など、奇をてらわないシンプルな構成から最大の効果を得ていた。ハーマンはもちろんだけど、エンニオ・モリコーネ、そして 『ゴジラ』(1954)の音楽を手がけたイフクベ(伊福部昭)も素晴らしい。彼らのような巨匠たちからは常にインスピレーションを得てきたよ。

●バーナード・ハーマンの『サイコ』(1960)、マイク・オールドフィールドの『エクソシスト』(1973)、ゴブリンの『サスペリア』(1977)、ウェンディ・カーロスの『シャイニング』(1980)などは“怖い”映画音楽のテーマとして知られてきましたが、あなたにとって最も“怖い”映画音楽は?

ウーン、難しいな。...『サスペリア』のテーマはそれに一番近いかもね。

●世界中のカーペンター・ファンに同じ質問をされていると思いますが、新作映画を作る予定はありますか?

その答えは“メイビー”だ。幾つかアイディアがあるし、作る意思はあるんだよ。ただ、それには世界が元に戻る必要がある。現時点ではリモートで映画を作る気はないからね。それをうまく出来る映画作家もいることは知っている。でも私は昔気質のクリエイターだし、俳優同士が顔を合わせていない映画は作れないんだ。とはいっても、映画作りは私のファースト・ラヴだし、いつか戻っていくつもりだよ。

●あなたが映画作りという炭鉱に戻る日を待っています!

そう言われると、戻りたくなくなるな...(苦笑)。映画の監督業はキツイけど、そのぶん達成感があるんだ。私の映画を見たい人がいるなら、その期待に応えたいね。

●もちろんミュージシャンとしての活動も楽しみにしています。

『ロスト・シームスIII』は誇りにしているんだ。日本でのライヴが実現したらみんな大きな声援を送って、『ジョン・カーペンター・ライヴ・イン・ジャパン』に自分たちの叫び声が入るようにして欲しいね。

【最新アルバム】

ジョン・カーペンター

『ロスト・シームスⅢ:アライヴ・アフター・デス』

ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ

2021年2月10日発売

http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-11069.html

【過去記事】

ホラー映画の巨匠ジョン・カーペンターがアルバム・デビュー。『ロスト・シームズ』『〜2』を語る

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20160603-00058399/