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【インタビュー前編】独プログレ〜ポスト・メタル最重要バンド、ジ・オーシャンと『顕生代〜破壊と創生』

山崎智之音楽ライター
The Ocean / courtesy of P-VINE Inc.

ドイツのプログレッシヴ〜ポスト・メタル最重要バンド、ジ・オーシャンが最新アルバム『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』を2018年11月に発表する。

2001年にベルリンで結成、地球誕生からの軌跡や太陽中心主義・人間中心主義、深海層など壮大なスケールのコンセプト・アルバムで絶大な支持を得てきた彼らだが、最新作は5億年前から現代に至る“顕生代”を2枚のアルバムで描くというもの。その前編となるのが今回リリースされる『第一部:古生代』だ。

地球はどのように生まれ、どこに向かっていくのか?バンドのギタリストであり創始者、そしてトータル・コンセプトのヴィジョンを持つリーダー、ロビン・スタップスが解き明かす。

<5億年前から現代までの歴史をコンセプトにした作品>

●『顕生代〜破壊と創生』のコンセプトについて教えて下さい。

『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』ジャケット/2018年11月14日発売 courtesy of P-VINE Inc.
『顕生代~破壊と創生 第一部:古生代』ジャケット/2018年11月14日発売 courtesy of P-VINE Inc.

『顕生代〜破壊と創生』は『Precambrian』(2007)の続編的なアルバムなんだ。 『Precambrian』は地球が誕生した46億年前からの“前カンブリア時代”を描いている。『顕生代〜』は肉眼で見える大きさの生物が生まれた5億年前から現代までの歴史をコンセプトにしているんだ。『Heliocentric』『Anthropocentric』(共に2010)はそれぞれ太陽中心主義・人間中心主義という、キリスト教的価値観に則った思想についての作品で、どちらも人類が誕生した以降のコンセプトだ。『顕生代〜』は両者の隙間を埋める作品にしたかったんだ。当初はコンセプトを考えずに曲を書き始めたけど、しばらくして『Precambrian』と音楽的に共通する要素が多いことに気付いた。大曲志向だったり、ヘヴィな曲のタイプだったりね。当時とは俺以外のメンバーを総入れ替えしているけど、連続性を感じたんだ。

●2018年4月から5月にかけて『Precambrian』10周年記念ツアーをヨーロッパで行ったのと、『顕生代〜』のリリースは、どのように繋がっていたのですか?

決して意識したものではなかったんだ。起こるべきことが同時に起こったんだよ。元々アニヴァーサリー・ライヴというのはあまり好きじゃないし、やったことがなかった。“5周年記念ライヴ”や“10周年記念ライヴ”を毎年やっているバンドもいるけど、俺は過去に生きるより、新しい音楽を創り続けたいからね。ただ、『Precambrian』はジ・オーシャンにとって特別なアルバムなんだ。バンドの音楽性とコンセプト性を確立させた作品だし、俺にとって、クリエイターとしての扉を大きく開け放ったアルバムだった。ファンからもフェイヴァリットだと言われてきたし、10周年という区切りでやってみることにしたんだ。実際、やってみて楽しかった。2018年にプレイしても、古びていないしね。しかも『Precambrian』はリリース当時も完全演奏はしなかったんだ。幾層にも重なった複雑な作品だし、ライヴ演奏のやりがいがあった。「Rhyacian」なんて元々150トラックぐらいオーヴァーダブしたスタジオ・ヴァージョンを、ライヴ用にアレンジしたんだ。

●『顕生代〜』のレコーディングと『Precambrian』ツアーを並行して行うのは大変だったのでは?

もう頭がおかしくなりそうだったよ(苦笑)!まだ『顕生代〜』をレコーディング中だったし、今のバンドのメンバー達は『Precambrian』を作ったときはまだ加入していなかったから、ほとんど2枚のアルバムをリハーサルするようなものだった。それでも『Precambrian』と『顕生代〜』にはコンセプトの連続性があるし、絶対にやるべきだと確信していた。

●『Precambrian』と『顕生代〜』の音楽性はどのように対比出来るでしょうか?

『Precambrian』(2007)ジャケット courtesy of Pelagic Records
『Precambrian』(2007)ジャケット courtesy of Pelagic Records

『顕生代〜第一部』は、近年のプログレッシヴ・ロック的アプローチからよりヘヴィな方向に進んだ作品だった。そういう意味で、『Precambrian』の後半に通じるものがあるね。ただ新作の方がクリーン・ヴォーカルが多用されているという点で異なっている。『Heliocentric』からロイク(ロセッティ/ヴォーカル)が加わったことは、ジ・オーシャンにとって新しい時代の始まりだった。彼は声域も広いし、クリーンな歌唱からスクリームまでをこなす。あらゆることが可能になったんだ。『Heliocentric』はロイクが加入して間を置かずに作ったアルバムだったことで、ある意味過渡期のアルバムだったけどね。あれも出来る、これも出来るということで、今から考えるとやり過ぎた気もする。それでも「Firmament」や「The Origin Of Species」みたいに、今でもファンから人気のある曲もあるし、良いアルバムだと思うよ。

●『第一部:古生代』というサブタイトルが付けられていますが、第二部以降も作られるのでしょうか?

うん、『顕生代〜』は三部構成のアルバムなんだ。続編は『顕生代〜破壊と創生 第二部&第三部:中生代&新生代』として1枚のアルバムとなる。ちょっと先だけど、2020年の前半に出す予定なんだ。『第二部・第三部』はよりエクスペリメンタルになる。『Heliocentric』や『Pelagial』に近い作風になるよ。エレクトロニックな要素もあるし、第一部から通して聴くことで、壮大な物語が語られるんだ。

●『第二部・第三部』は三畳紀からジュラ紀・白亜紀・古第三紀・新第三紀・第四紀について?恐竜も出てくるでしょうか?

もちろん!ジュラ紀をテーマにした曲のサブタイトルは「Reptile As Rulers(爬虫類の君臨)」というものなんだ。...『顕生代〜』三部作ではヴィジュアル・アート面にもこだわるつもりだよ。ミュージック・ビデオも作る予定なんだ。これまでジ・オーシャンはビデオに対して決して積極的でなかった。『Pelagial』で「The Wish In Dreams」のビデオを作った程度だよ。それに加えて、『Pelagial』ツアーではステージ背後のスクリーンにクレイグ・マーレイが撮影した1時間の映像を映写したんだ。今回はミュージック・ビデオを作ったりして、映像による表現を試みるつもりだ。

The Ocean / courtesy of P-VINE Inc.
The Ocean / courtesy of P-VINE Inc.

<二元論が好きなんだ。光と闇、テーゼとアンチテーゼ...>

●『Fluxion』(2004)と『Aeolian』(2005)、『Heliocentric』と『Anthropocentric』、そして今回の『顕生代〜』第一部と第二部・第三部と、ジ・オーシャンは2枚の独立したアルバムでひとつの世界観を描くことが多いですが、それが最もやりやすい表現なのでしょうか?

うん、そういう構成が俺にとってベストだと思う。『Precambrian』も2部構成だけど、両方を合わせて1枚のアルバムとして発表したんだ。俺が曲作りに入ると、短期間でかなりの量の曲を書くことになる。それでアルバム1枚に収まりきらなくなってしまうんだ(笑)。もうひとつの理由は、ひとつのコンセプトを2枚のアルバムにすることで、異なった視点から表現することが出来る。『Fluxion』が直接的にガツンとヘヴィなアルバムだったのに対し、『Aeolian』はオーケストラを使ったりした。『顕生代〜』も第一部がヘヴィで、第二部・第三部はより実験的になる。俺はコントラストや二元論が好きなんだ。光と闇、テーゼとアンチテーゼとかね。

●ジ・オーシャンは何故、壮大なスケールのコンセプト・アルバムを追求するのですか?

ジ・オーシャンは2001年に結成して、初の本格的なリリースは『Fogdiver』(2003)だった。30分の、EPに近い作品だったよ。当時からコンセプト作品に興味があったし、衝動があった。アートワーク、曲タイトル、曲順、歌詞...ひとつの連続性がある作品を作りたかったんだ。おそらくそれはニューロシス、それからスウェーデンのブリーチ(Breach)からの影響があったと思う。さらにスワンズの『Soundtracks For The Blind』(1996)の影響も大きかった。

●ジ・オーシャンとブリーチは直接の交流もありますね。

うん、ブリーチは俺が十代の頃からファンだったんだ。3、4回ライヴを見たことがあるよ。ニューロシスと一緒にツアーしたり、大好きだった。初期の彼らがハードコア的な音楽をやっていたこともあって、ユース・オブ・トゥデイのTシャツを着たキッズもいたけど、ツイン・ドラムスのダークでノイジーなサウンドに困惑していたよ(笑)。ヴォーカリストのトマス・ハルボーンとは仲良くなって、ジ・オーシャンの『Aeolian』『Precambrian』『Pelagial』にゲスト参加してもらった。彼の個性的なハイ・ピッチのヴォーカルがすごく好きなんだ。ニクラス・クインタナのギター・スタイルからも影響を受けた。俺はトマスとニクラスとはジ・オールド・ウィンドというプロジェクトもやっているんだ。今は活動休止中だけどね。ジ・オーシャンの音楽を聴いて、もしピンと来る部分があれば、ブリーチは聴く価値が十分以上にあるだろう。

●ジ・オーシャンでアルバムを作るとき、音楽とコンセプトのどちらが先に来るのですか?

基本的に音楽を先に書いている。『顕生代〜』もそうだよ。コンセプトはある程度曲を書き進めてから生まれるんだ。ただ、例外だったのは『Pelagial』だ。あのアルバムに限ってはコンセプトが先にあった。それには必然性があったんだ。海面から深海に潜行していくさまを音楽にした作品だったからね。スローに、チューニングを下げて、最後には光が届かない、閉所恐怖症的な音空間を作りたかった。そんなアルバム作りは、コンセプト先行でないと成し得なかった。

●『顕生代〜』のコンセプトはどのように生まれたのですか?

まず曲を書いて、それを聴きながら目を閉じて、浮かんでくるイメージを捉えるんだ。音楽からコンセプトを当てはめていく、ある意味“逆サウンドトラック”かもね。今回は、古代の風景が見えたんだよ。火山の噴火とかね。それがヘヴィな音楽とピッタリだった。「さあ、『Precambrian』の続編を作るぞ!」と考えたりはしなかった。

●今回、他にコンセプトの候補はありましたか?

特になかったな。2014年から2015年に曲を書き始めていたけど、最初の頃から、『Precambrian』以降の世界観を描くことを決めていた。

●ニューロシスやブリーチは元々ハードコア出身でしたが、ジ・オーシャンでノー・コンセプトの作品、あるいはストリートのライフスタイルについての作品を作ることを考えたりしますか?

うーん、ジ・オーシャンではやらないだろうな。友達とやっていたハードコア・バンドでは歌詞を担当していなかったし、ノー・コンセプトの音楽をやっていたこともある。リリースがない、遊びのバンドだけどね。実は『Pelagial』の後、コンセプト無しの作品を作ったらどうだろう?...と考えたこともあるんだ。ただ、それはジ・オーシャンではないし、すぐに自分の中で却下したよ。それに俺は、こういう題材が好きなんだ。「どんなコンセプトにしよう?」と髪の毛を掻きむしることはない。いつも本を読んだり、ネットで調べたりしているし、コンセプトには事欠かないよ。

●ジ・オーシャンの音楽性をどのように説明しますか?

それは難しいね。音楽を言葉で説明するのは得意じゃないんだ。ヘヴィで閉所恐怖症的な音楽...あまり“プログレッシヴ”という表現は使いたくない。ジ・オーシャンの音楽が何かより“進んで”いるとか、他の音楽と比較するつもりはないからね。俺たちの音楽にはポスト・ロックやスラッジの側面もあるし、実験的な要素がある。『Heliocentric』以降、アルバムのヴォーカル入りとインストゥルメンタルの2ヴァージョンを発表してきたんだ。そうすることで音楽に新しい光を当てることになる。歌詞がないからこそ、音楽のディテールに気付くことがあるんだ。『顕生代〜』のインストゥルメンタル・ヴァージョンも作るつもりだよ。

●日本のファンに、ジ・オーシャンのライヴがどんなものか教えて下さい。

別世界に沈んでいく1時間半のエクスペリエンスだ。ショーの最初に居合わせたら、最後まで抜け出ることが出来ない。そしてショーが終わると、会場からペッと吐き出されるんだ。とにかくハイ・エナジーなライヴだよ。ステージMCとかには期待しない方がいい。ライティングも効果的で、バックライトに照らし出されるシルエットがダークで幻想的な雰囲気を出す。『Pelagial』ツアーではビデオ・プロジェクターを持参して映像を流していたけど、今回はそれはしない。ライティングでヴィジュアル表現を行うようにする。ストロボ・ライトも多用する、刺激的なヴィジュアルになるよ。夏フェスとかで外が明るいときにプレイすることもあるけど、ジ・オーシャンの音楽をフルに体験するならクラブの単独公演が良いだろう。俺たちは闇に属するバンドだからね。

後編ではアルバムをさらに掘り下げるのと同時に、ロビンとジ・オーシャンの軌跡とその向かう先を指し示してもらおう。

【アルバム情報】

タイトル:顕生代~破壊と創生 第一部:古生代 / Phanerozoic I:Palaeozoic

アーティスト:ジ・オーシャン / THE OCEAN

レーベル:P-VINE

品番:PCD-25272

発売日:2018年11月14日(水)

日本レーベル公式サイト http://p-vine.jp/news/20181025-101400

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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