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【来日直前インタビュー後編】北欧ハード・ロックの至宝、トリートが語る『ツングースカ』

山崎智之音楽ライター
TREAT / courtesy of M&I Company

いよいよ目前に迫った北欧ハード・ロックの雄、トリートの来日公演。

バンドのギタリスト、アンダース“ゲイリー”ヴィクストロームへのインタビュー後編。前編に続いて、今回は来日ライヴのひとつの軸となるであろう最新アルバム『ツングースカ』について訊いてみたい。

<爆発的なハード・ロックと謎めいたタイトル>

●『ツングースカ』にはハードなエッジとメロディが混在していますが、どんなアルバムだと言えるでしょうか?

『ツングースカ』アートワーク/キングレコード
『ツングースカ』アートワーク/キングレコード

ヘヴィでメロディもある、パンチの効いたアルバムだ。『ツングースカ』は『クーデ・グラー〜最後の一撃』(2010)、『ゴースト・オブ・グレイスランド』(2016)から繋がる、ある意味3部作の最終章なんだ。いわゆるコンセプト・アルバムではないし、ストーリーの繋がりはないけど、バンドの流れ的に連続性がある。『クーデ・グラー〜最後の一撃』は作るのが難しいアルバムだった。久しぶりのアルバムで、もう一度エンジンをかけ直す必要があったからね。自分の求めるサウンドを得るまでに時間がかかった。それから徐々に温まっていって、『ツングースカ』では自分の求める音楽を表現出来たと思う。

●『ツングースカ』の曲はどのようにして書いたのですか?

去年(2017年)の夏、まったく何のアイディアもない状態から書き始めたんだ。自分自身に言い聞かせたよ。「アンダース、自分が最も得意なことをやるんだ」ってね。それからすぐ、天からの助けがあったのか、すごくはっきりしたインスピレーションが下りてきたんだ。アルバムを作る直前までずっとライヴをやっていたことで、バンドの演奏に一体感が生まれたこともあった。トリート史上において、『ツングースカ』は『オーガナイズド・クライム』(1989)以来の大きなステップだと思うね。あのアルバムを作ったときも、同じフィーリングがあった。

●『ツングースカ』が過去のアルバムと異なっているところがあるとしたら?

ミックスに時間をかけられたことかな。『ツングースカ』は5月にはレコーディングを終えていたから、夏のあいだ何度も繰り返し聴いていたんだ。今まで作ってきた中で、俺が一番たくさん聴き返したのがこのアルバムだよ。スタジオでも何度も聴いたし、散歩するときにイヤフォンでも聴いた。リスナーが聴くであろう、あらゆる環境で聴いてみたんだ。いろんなタイプの曲があるし、ファンは1人1人異なったお気に入りの曲があるんじゃないかな。

●アルバム発売の前に「ローズ・オブ・ジェリコ」や「ビルド・ザ・ラヴ」がウェブで先行公開されましたが、本作にはトータル性があるのですか?それとも個々の楽曲のコレクションと考えるべきでしょうか?

『ツングースカ』は流通やマーケティングの都合で9月発売となったけど、ファンは夏休みに新曲を聴きたいだろうと思って、2曲を先行公開したんだ。ただ俺自身は『ツングースカ』にはひとつの流れがあると考えているし、1曲だけストリーミングで聴くよりも、アルバム全体を一気に聴くことで、より感動が強まると思う。

●アルバムの曲はどのようにして書いたのですか?

トリートの曲作りの作業は基本的に俺が最初のメロディやリフを書いて、それをメンバー達に渡して、彼らのアイディアを取り入れていく。ひとつのインスピレーションが連なって、アルバムの形になっていくんだ。バンドが活動休止していた時期には、そのインスピレーションの流れが途絶えたように思えた。でも、その流れが復活したんだ。2018年はバンドにとってすごく良い時期だね。まだ『ツングースカ』を完成させたばかりだけど、次のアルバムも決して遠くないうちに作れそうな気がするよ。

●“ツングースカ”をアルバム・タイトルにしたのは何故ですか?

1908年に起こった“ツングースカ大爆発”事件は、俺たちにとって神秘の象徴なんだ。この大爆発の原因には諸説あって、隕石が地球に衝突して、隕石そのものは蒸発してしまったという説もあるし、新型爆弾の実験が失敗したという説もある。『ツングースカ』は決してコンセプト・アルバムではないし、「プロジェニターズ」では歌詞にツングースカが出てくるけど、事件を直接的には描いてはいない。謎めいたタイトルで、しかも爆発的なハード・ロック的だよね。リスナーごとに自分の解釈を出来るし、すごく気に入っている。

●『ツングースカ』のジャケット・アートワークは?

ハリウッド映画のスーパーヒーローをイメージしたんだ。ちょっと“フラッシュ”っぽいよね(笑)。『ゴースト・オブ・グレイスランド』のプロモーション写真ではバンド全員が背広を着ていたけど、それを脱ぐと下にはコスチュームが!...という連続性もある。“T”は“トリート”でもあるし“ツングースカ”でもある。俺たちなりのユーモアで、決して深刻になるものではないんだ。

●バンド全員が防護服を着込んだツアー・ポスターはどんな意味があるのでしょうか?

それもあまりシリアスなものではないんだ。毎回同じ格好をしたおっさんをポスターに載せるよりも、ひとヒネリ入れたかった。『クーデ・グラー〜最後の一撃』では18世紀の兵士が戦場から帰還するというテーマのコスチュームだったし、『ゴースト・オブ・グレイスランド』ではダークなビジネスマンだった。今回はどうする?...と考えて、さらに発展させて防護服にしたんだ。CDブックレットの内側でも、このテーマが描かれているよ。このポスターを見た人はトリートがスリップノットみたいなバンドだと誤解するかも知れないけど、ライヴでこのコスチュームは着ない。暑くて失神してしまうだろ(笑)?

TREAT Live In Japan 2017 / Photo by Yuki Kuroyanagi
TREAT Live In Japan 2017 / Photo by Yuki Kuroyanagi

<過去があったからこそ、現在のトリートがある>

●バラード「トゥモロー・ネヴァー・カムズ」は、トリート・ファンが聴くたびに必ず1滴は涙を落とすでしょう。

「トゥモロー・ネヴァー・カムズ」はアルバムのハイライトのひとつで、ミュージック・ビデオも作る予定なんだ。日本公演のセットリストはまだ明かさないでおくけど、この曲のコーラスは歌えるようにしておいた方がいいかもね(笑)。「トゥモロー・ネヴァー・カムズ」の歌詞は自伝的な内容なんだ。俺とロバート(アーンルンド/ヴォーカル)は少年時代、ストックホルム南部の同じアパートの建物で育った。1960年代の終わりからずっと一緒だから、人生の大半を彼と過ごしてきたことになる。そんな彼との旅路を描いているんだ。

●あなた達は1980年代から活動して、数多くアルバムを出してきましたが、常に新しいメロディと新しいエネルギーを生み出してきた秘訣は何でしょうか?

難しい質問だけど、まずひとつは、常に新しい曲を書き続けることだと思う。川が流れ続けるように、次々とアイディアを生み出していくことが大事だ。もうひとつは、常に外部から刺激を受けることだ。俺はプロのソングライター兼プロデューサーとして長いあいだ活動してきた。エクストリームな曲からポップな曲まで、いろんなタイプの曲を書いてきたし、さまざまなアーティストやミュージシャンからインスピレーションを受けてきたんだ。ゴットハード、バックヤード・ベイビーズ...スコーピオンズとは『スティング・イン・ザ・テイル』(2010)の「ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム」「ローレライ」を共作した。ルドルフ・シェンカーがストックホルムまで来て、俺がフレドリック・トマンダーと一緒にやっているホーム・スタジオで作業をしたんだ。フレドリックはプロデューサー仲間で、2015年の来日公演ではベースを弾いた人だ。もう20年ぐらいプロデュース・チームを組んでいるんだよ。彼はスペインのマヨルカ島に拠点を移したけど、また一緒にやりたいと考えている。ロックやポップなど、さまざまなアーティストのプロデュースもやってきたけど、ちょっとしたことがヒントになって、自分の音楽へのインスピレーションになったりするんだ。

●今年(2018年)初めにマッツ・レヴィンとのプロジェクト、リヴァーティゴでアルバム『リヴァーティゴ』を発表しましたが、マッツはトリートの『トリート』(1992)で歌っていましたね。

そう、『ツングースカ』は2018年、俺がプレイした2枚目のアルバムなんだ。1991年にマッツが加入したことは、バンドにとって新鮮な再スタートだった。実際、アルバム『トリート』は強力なアルバムだったよ。残念ながらセールスはパッとしなくて、バンドとしての活動をひと休みすることになったけどね。それからもマッツとはずっと連絡を取り合っていた。2013年にスウェーデン・ロック・フェスティバルでマッツがトリートのステージに上がって、「ラーン・トゥ・フライ」を歌ったこともあったよ。彼がキャンドルマスを脱退したという話はネットで知ったんだ。詳しい事情は知らないから、今度話してみるよ。彼はアメリカでトランス・シベリアン・オーケストラとも活動しているし、そっちで忙しいのかも知れない。

●1993年にトリートが活動休止したのは、グランジの影響があったのでしょうか?

グランジだけでなく、さまざまな理由が重なったんだよ。音楽シーン全体が変化を求めていたんだ。俺たちが1980年代からやっていた音楽が、突如“オールドスクール”ということになってしまった。それは俺たちだけではなく、メロディアスなロックをやっているあらゆるバンドが活動することが困難になったんだ。それで少しばかり休みを取って、シーンがどうなるか様子を見ようということになった。今から思えば、活動休止期間を取ったのは正解だったね。自分たちの進むべき道を見つめ直したことで、完全復活を果たすことが出来た。すべてのことには意味があるんだよ。過去があったからこそ、現在のトリートがあるんだ。

TREAT Live In Japan 2017 / Photo by Yuki Kuroyanagi
TREAT Live In Japan 2017 / Photo by Yuki Kuroyanagi

【TREAT TUNGUSKA・TOUR 〜 Melodic Power Metal Night Vol.24 〜 】

【 東 京 公 演 】

10月4日(木)渋谷クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

【 愛 知 公 演 】

10月5日(金)名古屋クラブクアトロ

開場18:00/開演19:00

【 大 阪 公 演 】

10月6日(土)梅田クラブクアトロ

開場17:00/開演18:00

なお公演当日、Tシャツ購入の方の中から抽選でトリートとのミート&グリートが当たることが発表されている。詳細は公演特設ウェブサイト↓まで。

公演特設ウェブサイト

http://www.mandicompany.co.jp/Treat.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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