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新しい元号はいつ公表されるのか

山下晋司皇室解説者
元号「平成」を発表する小渕官房長官(当時) 1989年1月7日(写真:Fujifotos/アフロ)

 平成31年3月31日で天皇陛下が退位され、4月1日に皇太子殿下が即位される見込みと複数のメディアが報じている。退位日は皇室会議の意見を聴いたうえで閣議で決定される。しかし、皇室会議すらまだ開かれていないため政府はこの報道を否定しているが、恐らくこの日程で決まるだろう。そして、御代替わりがあると元号が変わるが、その新元号はいつ公表されるだろうか。

 10月20日、菅義偉官房長官は新元号を公表する時期に関しては「憲政史上初めてのことなので、現段階で時期を示すことは極めて困難」とした上で「国民生活への影響を考慮しながら、適切に検討したい」と述べた。しかし、政府は来年夏頃に新元号を公表する方向で検討しているという報道もある。この報道は政府筋の情報に基づいたものだろうが、本当に事前に公表されるのだろうか。

【近代国家の元号】

 明治以降、元号は一世一元といって、天皇の御代替わりがない限り変更しないことになった。これは「明治元年ノ定制」という明治元年に出された明治天皇の「改元ノ詔」によるものである。このとき、慶応を明治に改元し、以後は一世一元にするとされた。そして明治22年に制定された皇室典範で「践祚ノ後元号ヲ建テ一世ノ間ニ再ヒ改メサルコト明治元年ノ定制ニ従フ」(※筆者注釈:「明治元年ノ定制」に従って、新しい天皇が即位したら元号を改め、在位中は変更しない)と規定された。しかし、昭和22年、新憲法の施行に伴って明治の皇室典範は廃止された。同時に新たな法律として、現在の皇室典範が制定されたが、そこには元号についての規定はない。ここで元号はその法的根拠を失ったわけである。慣習として、昭和22年以降も昭和という元号は使用されていたが、将来、御代替わりがあった場合に、法的根拠を含めて混乱が生じるだろうと懸念されていた。その後、元号法制定の運動が実り、昭和54年に現在の元号法が制定された。

 元号法は、「元号は、政令で定める」、「元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める」という2項目のみの短い法律である。

 元号の具体的な選定手続きは、昭和54年10月に閣議で決められている。

参考:内閣公文・国政一般・一般・暦時・A04-1・第1巻

   件名:元号選定手続について(国立公文書館デジタルアーカイブ)

 元号は政令で定められる。

 政令は閣議で決められる。その後、天皇の国事行為として憲法第7条に規定されている「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること」に基づき、天皇が署名し、御璽が押されて、正式に公布される。なお、効力が発生する施行日は公布日とは別である。

 元号を事前に公表する場合、それは政令の公布なのだろうか。平成31年4月1日から新元号とする場合、半年ほど前に新元号を公布し、施行日を平成31年4月1日とするのか。しかし、政令の公布には天皇の署名が必要なので、公布時の天皇である今上天皇が署名されることになる。これは次の天皇の元号を現在の天皇が国民に示すということである。法的には問題ないだろうが、元号の性格からするとおかしいと言わざるを得ない。新元号の公布は新天皇がするべきではないか。

 また、不謹慎な話だが、新天皇の即位日は即位当日でないと確定しない。「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」も皇室典範第4条(天皇の崩御による御代替わり)による皇位継承があったときは失効することになっている。つまり、皇太子殿下は同特例法による即位予定日よりも早く即位される可能性もあるわけである。その場合、新元号の公布、施行も予定より早くなる。

 新元号の政令公布ではなく、名称だけを事前に公表するのだろうか。しかし、政令として閣議で決定することになっている元号の事前公表はだれが責任を負うのか。

 法令の解釈などを含めて、来年の夏までには政府の方針は示されるだろうが、平成のときと同様に新元号の発表は新天皇の即位当日でいいのではないか。

皇室解説者

昭和31年 大阪市生まれ、関西大学卒。20数年の宮内庁勤務後、平成13年に退職。宮内庁では昭和63年~平成7年まで長官官房総務課で報道を担当。昭和天皇の崩御・大喪の礼、平成の即位の礼・大嘗祭、秋篠宮殿下の結婚、皇太子(現在の天皇陛下)の結婚などの諸行事を報道担当として経験。平成時代の天皇皇后の中国訪問、米国訪問及び皇太子(現在の天皇陛下)のモロッコ・英国訪問に報道担当として同行。宮内庁退職後は出版社役員を経たのち独立。独立後は、BSテレ東・テレビ東京「皇室の窓スペシャル」の監修のほか、週刊誌・テレビなど各メディアでの解説、記者勉強会の講師、書籍・テレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている。

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