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4歳になるまでは食べさせないで 〜ピーナッツ入りの袋に表示された!

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
筆者撮影。

繰り返される「豆まきの豆による窒息」

 あと3週間もすると立春、今年は2月3日とのことである。立春の前日は節分で、いたるところで豆まきが行われる。子どもたちも楽しみにしている行事の一つである。

 2020年2月3日、松江市の保育所で行われた豆まきで4歳児が窒息死した。豆まきの豆による窒息の危険性は50年以上前からよく知られていたが、それは医療関係者のあいだだけで、保育の場では知られていなかった。

参照「また節分の豆で幼児が窒息死 ~ いつまで死亡事故が繰り返されるのか! ~

 節分の時期に豆類による誤嚥が多発することはよく知られているが、豆まきは1年に1回である。豆類の誤嚥でもっとも頻度が高いのはピーナッツだ。このことを取り上げたニュースがある。

節分 子どもの豆の事故に注意 | 衣・食・住 | NHK生活情報ブログ

 それによると、2013年、日本小児呼吸器学会は注意喚起のパンフレットを作成し「3歳になるまではピーナッツは与えないよう」呼びかけており、新潟市の菓子メーカーは同年7月から、ピーナッツが入っている50種類の商品のパッケージの裏側に、「お子様が喉につまらせないよう必ずそばで見守ってあげてください」という注意表示をしていると報告されている。

 それらの対策が行われているにもかかわらず、豆類による誤嚥や窒息は起こり続けている。乾燥した豆類の危険性が知られていないことが問題なのだ。そこで、危険性を周知するため、乾いたピーナッツが入った袋に「なぜ危険なのか」、「具体的にどうしたらいいのか」を表記することを思いついた。NPO法人 Safe Kids Japan子どもの事故予防地方議員連盟から日本ピーナッツ協会に要望書を送り、そこから加盟各社に伝えてもらうことにした。

参照「豆・ナッツ類の誤嚥や窒息を予防するために

 要望の要点は、「一般に流通・販売される、乾燥した豆類が入っている袋には、下記の対応をお願いしたい」ということだ。

 ●「4歳未満の子どもには、豆は食べさせないでください」と大きな文字で記載してください。

 ● 合わせて、「子どもが泣き切った後や驚いたときなど大きく息を吸い込んだときに、口内にある豆が気管に入ります。子どもが泣いているときは、豆を食べさせないでください」と小さな文字で記載してください。

その後の経緯

 2020年4月初旬に、私と子どもの事故予防地方議員連盟の佐藤会長とで日本ピーナッツ協会を訪ね、要望書を手渡して対応をお願いする予定であったが、新型コロナ感染症の非常事態宣言が発出され、伺うことができなかった。しかし、日本ピーナッツ協会から会員企業に要望書を送付していただいた。その後の各社の対応について把握したいと考え、2020年10月、Safe Kids Japanから、同協会の会員企業にアンケートを送付し、要望内容の実現可能性や、実現不可能な場合の理由などについて意見を聞く予定にしていたが、準備期間が短く、多くの会社が未対応であることから、アンケートはもう少し先に実施することになった。

すでに表記されていた!

 2020年の年末に日本ピーナッツ協会に連絡したところ、一部の会社では袋への表記が始まったと聞いた。そこで、店頭で販売されているピーナッツを調べてみた。

 以下は同じ会社から発売されている別の商品の包装袋である。共にピーナッツが使われている。上は従来型の表記であり、下は今回のわれわれの要望を受けて変更された表記である。

従来の表記。筆者撮影。
従来の表記。筆者撮影。

要望を受けて変更された表記。筆者撮影。
要望を受けて変更された表記。筆者撮影。

 ある対策をした場合には、その効果を評価する必要がある。豆類による誤嚥の発生件数の推移を知ることはできないが、死亡例の発生はニュースで知ることができる。2020年2月、子どもの健康や安全に十分に配慮すべき保育所で、豆まきの豆で窒息死が発生したことから、これまでとは違う具体的な対策が必要と考え、業界団体に要望することとした。「喉につまらせないよう必ずそばで見守ってあげてください」という表記では、誤嚥したとき、すぐに処置ができる、すぐに救急要請できることはあるが、誤嚥そのものを防ぐことはできない。「4歳未満は食べさせない」というメッセージであれば、具体的で実行可能であると考えた。

 今回、われわれが要望した文言がピーナッツの包装に赤い字で表記されたことは大きな一歩だ!今のところ確認できているのは一社のひとつの商品だけであるが、乾いたピーナッツが入っている包装にはこのような表記が行き渡り、誰もがこの知識を持つようになっていてほしいと願っている。

参照動画:誤嚥・誤飲(Safe Kids Japan)

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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