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また節分の豆で幼児が窒息死 〜 いつまで死亡事故が繰り返されるのか! 〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

また起きた「節分の豆による幼児の窒息死」

 2020年2月3日、保育施設の節分の豆まきの豆で幼児が窒息死した。

記事その1

記事その2

 何年も前から、何度も、節分の豆まきの危険性はあちこちで指摘され、このYahoo!ニュース(個人)でも指摘してきた。

 私のこの記事は非常に多くの人に読まれ、保育士のキャリアアップ研修会でも、必ず「節分の豆の危険性」を指摘している。今回、指摘したとおりの窒息死が起こったことを知り、愕然としている。

 今回(2月12日付)のニュースを見た限りでは、お子さんが亡くなった詳細な状況がわからないため、「健康な幼児が、豆を食べて、窒息死した」という情報だけから問題点を考えてみたい。

 乳幼児が窒息しやすい豆として最も多いのは乾いたピーナッツである。他に、枝豆が詰まることもある。アメリカでは、3歳までの子どもがいる家庭にピーナッツを持ち込んではならないと指導している。乳幼児の食事に関わる機会が多い保育士は、豆の危険性をよく知っているはずだと思っていた。節分の行事の際に、豆のまま撒くのではなく、豆を小分けにした「包み」を撒く、あるいは豆の替わりに新聞紙を丸めたものを撒くなどしている保育施設もある。今回、保育の場では、いまだに豆の危険性が知られていないということがはっきりした。これまでの情報提供、啓発活動は効果がなかったということもはっきりした。

今後の経過は?

 今は混乱の真っただ中であるが、数か月後には保育施設の担任と園長が起訴され、これまでによく知られていた危険性に関する認識が欠如していたことで刑事責任が課せられる可能性がある。刑事訴訟が終了すると民事訴訟となり、ここでも責任が問われて賠償金の支払いが命じられることもある。これまで保育・学校管理下で起こった事故死は、ほとんど同じパターンをたどっている。しかし、事故死が起こった子どものそばにいた人を罰しても、次の事故死を予防することにはつながらない。現在のこのシステムは、「予防」にはつながらないということを認識する必要がある。

どうしたらいいのか?

 これまで警告してきたことは有効ではなかったことが証明されたので、次の手を考える必要がある。

 乳児がはちみつを食べて死亡した例がある。はちみつにはボツリヌス菌が混入していることがあり、これを食べると乳児の腸内でボツリヌス菌が毒素を産出し、呼吸が止まって死亡するのである。このため、乳児には、はちみつを与えないよう指導されている。はちみつの容器には「1歳未満の子どもには与えないように」という注意書きが書いてある。

 今回、豆を食べて幼児が死亡した例が発生した。乾いた豆は、乳幼児には危険な食品である。保育士だけでなく、保護者もそれを知っておく必要がある。そこで乾燥した豆が入っている袋には「3歳までの子どもには与えないように」と表記する必要がある。

何歳まで危険なの?

 乳幼児には豆が危険であることは、さまざまな場で繰り返し言われている。

たとえば、

 ・消費者庁の「子ども安全メール」(No. 274, 325, 386, 437, 487)→「3歳頃までは食べさせないように」

 ・私のYahoo!ニュース(個人)の記事→「3歳まで」

 ・4歳という記載もある

 ・HugKum のSafe Kids Japanが担当した記事→「5歳まで」

 ・東京都発行の冊子「Safe Kids」→「5歳までは与えない」

 そこで「豆を食べさせちゃいけないのは結局何歳までなんですか?」という質問が出る。正確に言うと、子どもの発達程度や、歯の生え方によって異なるので、何歳が正解と言うことはむずかしい。

 この年齢を決めることができるのはデータだ。乾燥した豆類による窒息や気管支異物の発生数を継続的に調べる必要があるが、現時点ではそのようなデータはない。ひとまず「3歳まで」としておいて、もし4歳や5歳で複数件発生している状況が確認できれば、その年齢に変更すればよい。現在、正確なデータがないから何歳までと決められないのだ。

今後取り組むべきは?

 毎年、節分の時期に合わせて豆の危険性を伝えてきたが無効であった。このまま何もしなければ、また来年も死亡例が発生する。来年に向けての新しいアプローチが必要だ。

 一つの案として、乾燥した豆の袋に「3歳までは食べさせないように」という注意表記をしてもらおうと考えている。はちみつの前例があるので、取り組むことは可能だと思う。近々、豆の業界団体、流通業者の団体に対し、要望書を送るつもりである。

京都府内のある神社で配られた「福豆」。遺伝子組み換え大豆を使用していない旨の表示はあるが、乳幼児の誤嚥に関する情報は記載されていない。
京都府内のある神社で配られた「福豆」。遺伝子組み換え大豆を使用していない旨の表示はあるが、乳幼児の誤嚥に関する情報は記載されていない。
小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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