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4年ぶりに行われた「葵祭」の現場レポート

山村純也京都の魅力を発信する「らくたび」代表
賀茂街道での牛車、車輪の軋む音が鳴り響く

 昨日5月16日(15日が天候不良により順延)、4年ぶりに葵祭の「路頭の儀」が行われた。

 まずこの葵祭というと、5月15日と日が決まっているイメージがあるが、神事としては5月1日の上賀茂神社の足揃え式から始まり、5月3日の流鏑馬神事、5月5日の競馬会神事と、「馬を走らせて五穀豊穣を願った」、かつての賀茂祭の形態もしっかり残っているという点が特徴として挙げられる。この馬を走らせたのは、6世紀の欽明天皇の時代からで、祭りの歴史は恐ろしく古い。

 平安京遷都後、程なく「勅祭」に指定されたため、賀茂氏の祭りから、国を挙げての祭りへと変貌を遂げた。したがって平安装束に身を包んだ行列の主役は「勅使」であるという点も、意外と知られていない大事な特徴だ。列の中では近衛使代(このえつかいだい)を言う名前となっている。この勅使が下鴨神社、上賀茂神社に出向き、天皇からの言葉を賀茂の神様に奏上することが祭りの1番の目的である。

 祭りは15日当日だけを取っても3部作で展開されている。御所から行列が出発する際に御幣櫃に御幣が入れられるのを確認する「宮中の儀」がまず第1部。こちらは原則非公開だ。続いて行列が下鴨神社や上賀茂神社に向かう「路頭の儀」が第2部で、こちらがもっぱら「葵祭」として紹介される。さらに勅使が両神社に参拝して祭文を読み上げる一連の行事である「社頭の儀」が第3部となる。

 一般有料観覧席は、京都御苑下鴨神社上賀茂神社(上賀茂神社は当日券のみ)に設置されているので、それぞれの箇所で見るのもいいし、コースが発表されており、御所を10時30分に出発して、丸太町通から河原町通を北上して11時40分に下鴨神社着、14時30分に下鴨神社を出て、北大路通から賀茂街道を通って上賀茂神社に15時40分に着くために、その途中で見るのもいい。

 筆者のおススメは賀茂街道での見学だ。地下鉄北大路駅の北改札から出て賀茂街道に至ると、15時過ぎに約1キロにわたる行列を目の前で見ることができる。賀茂街道の西側の沿道で見ると、逆光にならないので写真も撮りやすい。

 列は勅使列斎王代列で構成されており、総勢500名にものぼる。勅使列は主に4つのパートに分けることができる。最初が検非違使(洛中担当)や山城使(洛外担当)といった警護をする武官の貴族が進み、次に天皇家から上賀茂神社へ送られる御幣の入った御幣櫃勅使の牛車がやってくる、さらに次に来るのが舞を神社で奉納する舞人と、列の主役といっていい最高位(四位)の近衛使代(勅使の代わり)だ。そして最後のグループを陪従(べいじゅう)という音楽を担当する役人と、勅使が神社の神様に奏上する祭文(さいもん)を管理する内蔵使(くらづかい)が担っている。

行列の主役である近衛使代(勅使)、馬の飾りも豪華で必見
行列の主役である近衛使代(勅使)、馬の飾りも豪華で必見

 次に斎王代列だが、命婦(みょうぶ)という中級身分の女性以上は、傘をさしてもらって歩いてくる。一方最も多い女嬬(にょじゅ)は傘をさしていない。ひと際美しいのが、青海波の文様の着物を着た采女(うねめ)で、天皇の側で食事の世話をすることから、美しい顔の女性が選ばれるという。

采女も斎王代と同じく額の上に金の飾り(心葉)をつけている
采女も斎王代と同じく額の上に金の飾り(心葉)をつけている

 その後に、注目の斎王代腰輿(およよ)という、四方が開放され御簾(みす)が付いた乗り物に乗ってやってくる。さらにその後ろにも命婦や女襦が続き、馬に乗った勇ましくも美しい騎女(むなのりおんな)、最後に内侍(ないし)、女別当(おんなべっとう)という上官が歩いて、列全体に目を光らせている。最後は雅楽を担当する蔵人所陪従(くろうどどころべいじゅう)が続いて行列全体が終わる。

斎王代は毎年、京都ゆかりの20代の未婚の女性が選ばれる(今年は松井陽菜さん)
斎王代は毎年、京都ゆかりの20代の未婚の女性が選ばれる(今年は松井陽菜さん)

 行列は最初から最後まで順調に進むと50分前後。祇園祭や時代祭に比べると半分以下の時間で全部見られるため、今年見られなかった方も、来年はぜひ最初から最後まで見て欲しい。

京都の魅力を発信する「らくたび」代表

1973年、京都生まれ。立命館大学在学中にプロの観光ガイドとして京都・奈良を案内。卒業後は大手旅行会社に勤務。2006年4月、京都観光を総合的にプロデュースする「(株)らくたび」を創立。以後、ツアープロデューサー、ツアー講師として活躍。2007年3月に「らくたび文庫」を創刊。現在、NHK文化センター、大阪シティーアカデミー、ウェーブ産経、サンケイリビング新聞社の講師、京都商工会議所の京都検定講師も務める。著書・執筆に『幕末 龍馬の京都案内』、『京都・国宝の美』、『見る 歩く 学ぶ 京都御所』(コトコト)など。京都検定1級取得。

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