Yahoo!ニュース

終い弘法を目指し、東寺と幻の西寺跡周辺を巡る

山村純也京都の魅力を発信する「らくたび」代表
本年の終い弘法の様子(※以下の写真も全て筆者が撮影)

 まずJR西大路駅に集合し、西大路通を北上して若一神社へ。平清盛の屋敷であった西八条殿の鎮守社とされており、清盛が熊野の神様のお告げに従って、屋敷内の地中に埋まっていた若一皇子を祀りなおしたと伝わる。これが西暦の1166年のことで、翌年に清盛は太政大臣に昇格できたため、出世の神様、開運の神様として信仰されてきた。

 鳥居前にそびえ立つクスノキは、清盛お手植えと伝わる樹齢800年の立派なもので、西大路通が南北に貫通する際に、このクスノキがじゃまになったものの、伐ってしまうと祟りが怖いので、それを避けるように道が造成され、現在もその名残を見て取ることができる。

若一神社前の西大路通の曲がり
若一神社前の西大路通の曲がり

 そこから住宅街を東へ向かって、民家の中に埋もれるように鎮座する稲住神社へ到着。安倍晴明が祭神となっているのは、おそらく子孫の土御門家がこの地域を拠点としていたため、もともとの農耕の神様を安倍晴明に変えたのではと推察される。

民家に挟まれてなんとか境内が維持されている
民家に挟まれてなんとか境内が維持されている

 さらに東側にある梅林寺(非公開)は土御門家の菩提寺で、境内の墓地には土御門家の墓がたくさん並ぶ。南側の円光寺(非公開)は土御門家の邸宅跡に建つ浄土宗の寺院で、梅林寺とこの円光寺の境内には不思議な台石が残されており、おそらく土御門家が星を観察するための道具を、この上で使ったと考えられる。そこから南へ下ってJRの高架をくぐり、西寺跡へ。

 まず向かったのが鎌達(けんたつ)稲荷神社だ。こちらは伏見稲荷よりも古くからあったとも言われており、「元稲荷」とも呼ばれている。土御門家が鎮守社としたという事実だけでもかなりパワーがありそうだが、社殿裏には父の三善清行の命を蘇らせた浄蔵貴所の塚があり、さらにここには知る人ぞ知る「サムハラ」のお守りがあると言うことで、これを買い求めに来る参拝者が多い。

 このサムハラという字は日本語の漢字に見えるが、実際には無い文字で「神字」と呼ばれるもの。この字自体に奇跡的なパワーが宿っていると考えらており、特に難を避ける力があり、例えば戦場に出て行った兵士たちがこれを持っていると、弾に当たらなかったという信仰も生まれた。

鳥居をくぐって正面が社務所、左側に本殿が建つ
鳥居をくぐって正面が社務所、左側に本殿が建つ

 西寺跡は東寺と違って石碑が一本のみ残るだけだ。石碑が立つ基壇が講堂跡で、前の唐橋小学校のグランドが金堂跡と推定されている。東寺との落差に愕然とするが、おそらくこの寺院を任された人物の力に差があったことが理由としては考えられる。西寺の方は守敏大徳、東寺の方は空海が任され、雨乞い合戦などを通じて、空海の方が守敏よりも名声を得た。さらに地形的にも、西の方は湿地帯で住みにくく、土地柄的にも衰退しやすかったというのも考慮されるべきだろう。

たった一本の石碑が往時の存在を今に伝える
たった一本の石碑が往時の存在を今に伝える

 その後、東へ進むと平安京の入口となった羅城門跡へ。こちらも公園に石碑が一本と説明板があり、さらに南側には、空海を守敏大徳の弓矢から守ったとされる矢取地蔵にお参りできるようになっている。

 いよいよ最後に東寺エリアへ。東寺の西側にある国宝の蓮花門は、空海がこちらから高野山に向かって出発した時に、念持仏の不動明王が見送り来てたという逸話ある。その不動明王が立っていた場所と、弘法大師が歩いて行ったその後に蓮華の花が咲いたと言われており、門の名の由来となった。

 西門から中に入って、御影堂前で一時解散。今年は全部で1000店ほど出ていたが、まだ例年より200店少ないという。各店ともに仕舞うのも早く、15時の時点で片付けに入っている店が多く目についた。そのため、値引き交渉をするには最高の時間帯だったと言える。

 帰りは北大門を出て、北総門まで続く平安時代以来の櫛笥小路を歩いた。幅12メートルを保っている唯一の小路で、通り沿いの観智院は東寺の学問所で、剣豪として名を馳せた宮本武蔵が滞在した寺院としても知られている。北総門の前が八条通で、ここから東へ進むと京都駅に到着する。

ぜひ毎月21日の弘法市の時には、このルートで散策をしてみて欲しい。

京都の魅力を発信する「らくたび」代表

1973年、京都生まれ。立命館大学在学中にプロの観光ガイドとして京都・奈良を案内。卒業後は大手旅行会社に勤務。2006年4月、京都観光を総合的にプロデュースする「(株)らくたび」を創立。以後、ツアープロデューサー、ツアー講師として活躍。2007年3月に「らくたび文庫」を創刊。現在、NHK文化センター、大阪シティーアカデミー、ウェーブ産経、サンケイリビング新聞社の講師、京都商工会議所の京都検定講師も務める。著書・執筆に『幕末 龍馬の京都案内』、『京都・国宝の美』、『見る 歩く 学ぶ 京都御所』(コトコト)など。京都検定1級取得。

山村純也の最近の記事