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採血なしで呼吸状態が分かる医療機器の生みの親、青柳卓雄さんが逝去 なぜ「世紀の大発明」なのか?

山本健人消化器外科専門医
(写真:アフロ)

青柳卓雄さんが18日、逝去されたとの報道がありました。

青柳さんは、医療現場に不可欠で、極めて重要なツールを発明したことで知られています。

それが、パルスオキシメーターです。

Adobe Stockより筆者購入
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どんな病院でも、毎日膨大な数のパルスオキシメーターが使用されています。

しかし、「パルスオキシメーター」と言われても、どんな器具なのか、あまり“ピンとこない”方も多いのではないでしょうか?

そこで、このツールが「いかにすごいのか」を簡単に解説してみます。

生きるためには酸素が不可欠

私たちは、外気から体内に酸素を取り込まないと生きていけません。

全身の臓器は酸素がないと働けないからです。

そこで私たちは、「呼吸」という無意識の動作によって、肺を使って酸素を体内に定期的に取り込んでいます。

しかし、肺に酸素が入っただけでは不十分です。

当然、酸素が全身の各臓器に運搬されないと「利用」できませんよね。

そこで活躍するのが、赤血球です。

赤血球のはたらき

赤血球とは、ご存知のように、血液を構成する成分のうち赤い色をした血球のことです。

赤血球は、酸素を全身に届ける輸送トラックのような役割をしています。

筆者作成
筆者作成

肺に入った酸素は、そこで血管の中に移動し、赤血球に乗り込み、血流に乗って全身をめぐるのです。

正確には、赤血球に含まれる「ヘモグロビン」が酸素と結合したり離れたりすることで、「荷物の積み下ろし」をしています

さて、私たちは、病気のせいで酸素が足りなくなることがあります。

例えば、肺炎などの肺の病気がその代表例です。

肺の機能が落ち、うまく酸素を血液中に取り込めなくなるのです。

また、そもそも肺に空気が到達できないケースもあります。

例えば、高齢の方が餅を喉に詰めて窒息して亡くなる、という事故が毎年起こりますね(高齢者に限りませんが)。

他にも、喉の奥の「喉頭蓋(こうとうがい)」という部分が炎症を起こしてパンパンに腫れ、気道が詰まってしまう急性喉頭蓋炎という病気もあります。

とにかく人は様々な理由で酸素が足りなくなり、医療のサポートが必要になるのです

「酸素が足りない状態」を知る必要がある

酸素が足りなくなると命に関わります。

よって医療現場では、「酸素が足りない状態」にすぐに気付けなければなりません。

足りないなら、「どのくらい足りないか」を正確に判断できなければなりません。

「どのくらい足りないか」に応じて、酸素マスクを付けて酸素を投与したり、人工呼吸器を使って呼吸をサポートしたりする必要があるからです

では、「酸素がどのくらい足りないか」をどのようにして知ればいいでしょうか?

「呼吸が苦しい」という患者さんの症状に合わせて判断すればいい、と思った方がいるかもしれませんが、そういうわけにはいきません。

まず、意識がない人は「息苦しさ」を訴えられません

全身麻酔手術をしている最中も同じです。

また、そもそも症状の出方は人それぞれです。

酸素が足りていないのに症状が軽い人や、足りているのに「呼吸苦」を感じる人はいます。

命に関わる指標を、「症状」だけに頼るわけにはいかないのです。

そこで、「血液中に酸素がどのくらい含まれているかを測定すればいい」という話になります。

ほんの少量だけ採血をすれば、血液中に酸素が十分含まれているかどうか分かるからです。

これで一件落着。

ところが、この方法には重大な欠点があります。

採血による測定の限界

呼吸の状態は、病状の悪化や改善によって、刻一刻と変わります。

ほんの1分前は「正常範囲」でも、その次の瞬間、一気に悪化するかもしれません

「じゃあ1分おきに測定すればいいじゃないか」と思ったでしょうか?

患者さんの身になってみればどうでしょう?

そんなに頻繁に注射をされては、たまったものではありません。

医療従事者も大変です。注射針がいくらあっても足りません。

そこで今度は、「どうにかして採血せずに血液中に酸素が足りているかどうかを知りたい」と思うわけです。

ここで登場するのが、パルスオキシメーターです。

パルスオキシメーターは、なんと小さな器具を指先につけるだけで「酸素がどのくらい足りているか」を「%(パーセンテージ)」で教えてくれるのです

しかも、リアルタイムに、です。

実際、呼吸の状態は急速に悪化することがあります。

秒単位でこの「%」が下がっていく患者さんが現実にいるのです。

酸素と結合した酸化ヘモグロビンと、酸素と結合していない還元ヘモグロビンは、赤い色の光を吸収する度合いが違います(それゆえ酸素を多く含む動脈血は明るい赤、酸素の少ない静脈血は暗い赤に見えます)。

ごく簡単に書くなら、パルスオキシメーターは、この吸光特性の差(赤みの差)を皮膚の表面から観測できるのです。

このように、体に酸素がどの程度足りているかを、患者さんの体に傷をつけることなく、かつリアルタイムに教えてくれるのがパルスオキシメーターの凄まじい利便性で、「大発明」である所以です。

以下の記事もぜひ参考にしてください。

医療ドラマに学ぶ|鼻カニュラと酸素マスクの違い、様々な酸素投与方法

※タイトル及び本文で一部用語に誤りがあったため修正しました(2020.4.24.16:15)

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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