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1月に集中する「不慮の窒息」、毎年1300人超が死亡 餅の窒息事故や小児の誤飲どう防ぐ?

山本健人消化器外科専門医
(写真:アフロ)

年末年始は、多くの人にとって特別な休暇でしょう。

普段とは違う生活を楽しみにしている方も多いと思いますが、こうした「イレギュラーな環境」は、医学的には一つのリスクになります

例えば、この時期に多いのが、餅を喉に詰まらせて起こる窒息事故です。

東京消防庁の調査によれば、餅による窒息事故で救急搬送される患者の半数以上は12月と1月に集中しています(1)。

我が国では、この時期に餅を食べる人が急増するからです。

消費者庁の報告では、「不慮の窒息」で1月に1300人以上が死亡しています(2)。

また、65歳以上の患者が約9割を占め、高齢者に偏っているのも特徴です。

高齢の方は、ものを噛む力や飲みこむ力が衰えていたり、服用中の薬の副作用などで、唾液が十分に分泌されなかったりするためです。

窒息は重大な命の危険を伴う

窒息すると、外気から酸素を取り込むことができなくなり、数分で意識を失います。

脳への酸素供給が途絶えると、脳に回復不能な障害が起こってしまいます。

気道が再開通したとしても、救命できなかったり、仮に救命できても永久に意識が戻らなくなったりしてしまうのです。

もちろん、高齢者に限らず子どもの場合にも同様の注意が必要です。

消防庁は餅の窒息事故を防ぐための対策として、

・小さく切って食べやすい大きさにする

・ゆっくり噛んでから飲み込む

・乳幼児や高齢者が餅を食べる時は、なるべく家族と一緒に

といったポイントを紹介しています。

また、この年末年始に気をつけていただきたいのは、餅だけではありません。

小児の誤飲にも注意

私には幼い子が二人いるため、子どもが誤って飲み込みそうな小さなものには、常に注意を払っています。

少なくとも、自宅で子どもの手の届く範囲に危険なサイズのものは全く置いていません。

ところが、年末年始の休暇では、普段子どものいないところへ帰省する方も多いでしょう。

当然ながら、子育て中の家庭と違って、こうした配慮が十分ではない場合も多いはずです。

ボタン電池や硬貨など、子どもが口に入れやすいものが、目立つところに何気なく置かれているかもしれません。

幼い子どもと一緒に帰省する際は、この点に注意して環境を整えておく必要があるでしょう。

また、普段から幼い子どもと一緒に暮らす大人は、無意識に「いつ何時でも子どもから目を離すまい」と神経をとがらせています

ところが、幼い子どもと一緒の生活から随分遠ざかっている高齢の方の場合、そういうわけにはいかないでしょう。

若い頃ほど俊敏な動きができないことも多く、祖父母と一緒に遊んでいる最中、目を離した隙に子どもが大怪我をしてしまう、といったケースもよくあるため、注意が必要です。

食物アレルギーにも注意

帰省先に長期滞在する際は、アレルギーにも注意が必要です。

帰省先では、普段と違う大人が調理したものを食べる機会も多いでしょう。

親類との間で、事前にアレルギーに関する情報を共有しておく必要があります

アレルギーを専門とする小児科医の堀向健太先生は、「食物アレルギーを持つ子ども、リスク高まる年末年始 間違えて食べる前に、何を気をつける?」の記事の中で、帰省先での食物アレルギーに関する注意喚起をした上で、「万が一のために帰省時に持ち運ぶもののチェックリスト」を作成しています。

ぜひご参考にしてくださればと思います。

年末年始は、家族が一堂に会する、年に一度の大切な休暇です。

普段と異なる環境で起こりうる健康被害に十分に注意しながら、家族との楽しい時間を過ごしていただきたいと思います。

なお、いざというときの対処法や、救急車を呼ぶときの注意点などについては、拙著「医者が教える 正しい病院のかかり方」で詳しく解説しています。

是非ご利用ください

(参考)

(1)東京消防庁「年末・年始の救急事故をなくそう」

(2)消費者庁「高齢者の餅による窒息事故に気を付けて!」

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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